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第21話 高貴な小人と寡黙な黒猫

 トレントの森を抜けた先の草原、アイン草原は見晴らしが良い分障害物がないので魔物に見つかると正面から戦わないといけない危険地帯であった。

 ミヤビ達のレベルでは苦戦することはないが戦闘時間分余計に時間を食ってしまった。

 ただその甲斐もあり徹夜して丸一日使ったが夕方頃には防衛用の柵に囲われた大きめの村に着いた。


 唯一の入口には二人の門番がおり、ミヤビ達を見つけると声を掛ける。

「草原を突っ切って来た様だがあんたら何者だ?」

「私達は見ての通り冒険者なのですが徹夜してるので今日は宿に泊まりたいのですが‥‥‥ダメ‥ですか?」

 体格の良い門番は先頭のミヤビに槍を突き付けながら問うとミヤビは猫を被り、口に手を当て、潤んだ瞳も向けて、如何にも脅されている様に体を縮込めて要件を伝える。

「ダ、ダメじゃ‥ないが‥。」

 槍を突き付けられて怯えてる美人に流石に罪悪感があるのだろう門番はミヤビの反応にたじろいでいる。

「悪いね美人さん達。こいつは仕事に真面目な奴だからそう怯えないでくれ。村に入るのも問題ないから。」

 もう一人の門番が間に入り仲裁すると入門の許可が下りる。

「村長の家はそのまま真っ直ぐの突き当たりだから。」

「ありがとうございます。行きましょう。」

 お礼を言うとミヤビ達は村に入っていく。ベビーグリフォンのルナも従魔のタグが着いているので素通りして行く。


「何ですかさっきの!?」

「面倒事を避ける芝居。」

「慣れてるの?」

「仕事の時は油断を誘う為もあって女装こっちでいる方が多いからな。」

「リアルでも!?」

「一部ではあるが結構顔と名前が知られてるから表に出ると面倒事があるんだよ。」

 元々は依頼主が男嫌いであると言う理由で女装したのが始まりであったが、今では如月煌雅の顔を隠す役割に成っている。

「ふ~ん。」

「とにかく宿を探すぞ。」

 スイが思案顔でミヤビを見るが話題を反らされ宿を探すことになった。


 宿はすぐに見付かった。村にしては大きいとはいえ村でしかない為、宿も二つしかない。その上この村に寄る冒険者等は少ないらしい。その為連日部屋に余りがあるようだ。

「さぁ、この村から出発しますわよ!」

「姉さん‥‥‥無理。」

「何を言ってますのレオン?闇夜に紛れて行動するのが貴方の専売特許でしょう。」

「‥‥すぐ見つかる。」

「魔物なんか斬って捨ててしまえば良いですわ。」

「姉さん‥‥そこまで強くない。」

「私が足手まといだとでも言うんですの!?」

 とはいえ客が居ない訳では無いが、何やら揉めている様だ。会話からして姉弟でやっている守人の様だが姉はスイより身長の低く背中まで軽くウェーブの掛かった白髪赤目の褐色肌のドワーフ少女で弟がクラウスより少し低い、短く癖の無い黒髪褐色肌の猫の獣人だ。

 ミヤビ達は取り敢えず一人騒いでる少女とそれを聞いている寡黙な少年を横目に受付に向かう。

「そこまで言うなら他のパーティに入れば良いですわ。今ここを訪れる人なんて王都目指しているに決まってますもの。」

 この村の人から見れば随分な言い様だが否定できない。とミヤビは自分達も同じ目的で居るので内心そう思ったが同時に嫌な予感がした。

「お客様は六名様ですね。ではこちらの‥‥」

「ちょっとそこの貴方達!(わたくし)達をパーティに入れる気はないかしら?」

 受付の人は仕事をしただけで落ち度はない。ミヤビは受付と話をして無視しているが麗華を除く他の四人が困った表情をしているのが分かる。仕方なく付き合う事にする。

「‥‥言い方が駄目。」

「うぐっ!分かっていますわ。」

 自覚があるのか弟に諫められて言葉を詰まらせ、言い方を改める。

「改めて(わたくし)の名前は九条ッ!」

 少女がしっかり名乗ろうとしたら今度は少年に口を防がれた。腕の中で暴れているが少年はお構い無しに口を開く。

「僕はレオン・ノイン‥‥猫の獣人で職業はシーフです。」

 シーフは本来泥棒や盗人の意味を持つがこのゲームでは近接戦闘職の斥候役の一つでしかない。敏捷と器用さが上昇しやすく、潜伏、隠密を得意とし、遺跡やダンジョン等の罠や鍵の解除が出来るスキルをレベルアップ覚える。

 少年が自己紹介をすると少女の動きがピタッと止まる。それを確認すると少年は口を防いでた手を退かす。

 「そうでしたわ。」と少女が呟くとわざとらしく咳払いする。その反応から少女はリアル(現実)の名前を名乗ろうとしてた様だ。

(わたくし)はレオンの姉で名前はマリー・ノインと申しますわ。ドワーフで職業は僧侶ですの。」

 無い胸を張って堂々と名乗ったマリーの服装は言ってしまえばゴスロリファッションだ。言葉使いもあって何処かのお嬢様の様な姿が妙に嵌まっている。

 僧侶はパーティに一人は欲しい回復役ヒーラーの一つで後方支援を得意とする職業である。僧侶の基本的な回復方は光の玉を味方に当てると言う単純な方法だが範囲は有限であり、距離も開けば効果も落ちる。

 その上光の玉のコントロールは使用者の自力と器用さに作用されるので戦闘中の回復には味方の動きを把握してないと当てるのも難しい。

 その気になれば戦闘中にポーションで回復する事も可能なのでパーティに居ない事もよくある。

「早速ですが(わたくし)達イベントの受付終了までに王都に行きたいのですが正規のルートでは時間が掛かり過ぎて間に合いませんの。ここまではレオンのスキルで魔物を避けて強行出来ましたけどここから先は見晴らしが良すぎてレオンのスキルも役に立ちませんの。」

 身も蓋もない事を言っているが事実なのだろうレオンが肩を落としてる。斥候が隠れられない所程嫌な所はない。それでもこの村まで来れただけの実力はあるのだろう。


 二人の目的地はミヤビ達と同じであるが一緒に連れていく義理はないうえ、ミヤビ達も王都に着くまでの正確な時間は分からないのだ。猶予があるかも知れないしギリギリかも知れない。そんな中足手まといになるかも知れない者達を連れていく理由もない。

 進行具合は麗華に確認すれば分かるのである程度の目処は付くだろうが二人の戦力で変わってしまう。

 魔物のレベルはミヤビ達にしてみれば脅威に感じられないが、マリーとレオンが夜に進行出来ないと言うことは二人にとってそれなりに脅威であり、レベルもミヤビ達程高くないと言うことでもある。レベルが全てではないが判断基準としては間違ってないだろう。

 そこまで考えてミヤビが口を開く。

「報酬は?」

「えっ!?」

「頼んできたのですから報酬は用意されているのでしょう?私達に何を下さるの?」

 ミヤビは猫を被って妖艶な笑みを浮かべて問う。

「まさか用意してない訳ではないでしょう?私達は冒険者でもあるのですから。」

「うぐっ!」

 全く考えてなかったマリーは言葉を詰まらせるがレオンが口を挟む。

「‥‥装備。」

 全員がレオンに注目し言葉を待つ。

「‥‥姉さんが必要な装備を作る‥‥武器も防具もアクセサリーも。」

「鍛治に裁縫、彫金スキルですか。どの程度の出来ですか?」

 守人でこれらのスキルを取る者は少ない。街に行けば鍛治屋があり、仕立屋があり、宝石店がある。既製品はそのまま買えるし、材料と金を払えばオーダーメイドで作って貰えデザインや性能も悪い訳でもはない。

 守人からすれば取る必要の無いスキルなのだ。勿論、鍛治や裁縫、彫金そのものが目的で取る者も居るだろう。ゲームの世界、出来ない事が出来る世界なのだから。その経験が現実で活かせないとも限らないのだから。

とはいえ大半は冒険を目的にしている。作って貰っている間に魔物を倒し、技を磨き強くなることが出来る。

 それなのにマリーは冒険を余所に生産スキルを三つ取り今現在王都に向けて移動しこの村に居る。それまでずっと生産活動に勤しんでいたのだろう。独学なら一つの街に留まることもないだろうからおそらくミヤビ達の様に師事する者の元で。

 出来が悪くない事は分かっている上でミヤビは聞いた。

「街を出る前に鍛治と裁縫がレベル30になって中級鍛治と中級裁縫に上がりましたの!」

 その言葉を聞いて麗華を除くミヤビ達一同は驚きの表情を顕にする。麗華の師事の元、薬効ありで日々修行をしているミヤビでもスキルレベルが30に届いているものはない。それにも関わらずマリーは二つのスキルランクを上げている。物を作るのに器用さが必要で器用さがスキルレベル上昇に関わっている事は知っているがそれ以上に相当やり込んでいる証拠である。

 ミヤビはニヤリと口の両端を吊り上げて言う。

「良いですよ。パーティに入れて上げます。」

 その言葉を聞いてマリーとレオンは安堵の息を漏らすがミヤビは続けて言葉を口にする。

「ただ、報酬の変更をお願いしたいです。」

「な、何ですの?」

 報酬に不満があるのかと罰の悪そうな顔をしてマリーが聞く。

「そう気を張らなくても、ある意味こっちの方が良いかも知れませんよ。」

 そんな事をミヤビは言うがさっきから浮かべている妖しい笑みにマリーが萎縮している。

「何、簡単な事です。マリー、王都に着いてからも私のパーティに居てくれないかしら?」

「「「「「「はぁ!?」」」」」」

 ミヤビの言葉に全員が驚いた。

「ちょっ!ミヤビそれは!?」

「それは!」

「どう言う!」

「事ですか!?」

 どう言うことだ?とクラウスが言葉にするよりも早く力強くスイ、カリン、ルイが順序よく言葉を続けミヤビに詰め寄る。

「別に大した事ではないでしょう?現時点これだけ精力的に動いているんですものこれから先必ず彼女の名が知れ渡るわ。そうなった時彼女の作る装備を私達が独占あるいは優先して貰いたいの。他のパーティに行かれては元も子もないでしょう。素材の提供もしてあげるしレベル上げにも付き合って上げる…………主に私以外が。」

 最後にボソッと呟いたがミヤビは何でもない風に答える。

 ミヤビの言うことは分かる。守人であるマリーは早く上達し、いずれNPCの師のスキルレベルを越えていく。そうなるとマリーに装備制作を頼めばより良い物が手に入る。

 ミヤビの言葉で四人は納得するも女性二人がむくれている。状況に流されてパーティに入ったスイとカリンとは違い、マリーには暗にお前が欲しいと求められたのだ。少なからず好意を持っている男が他の女性を口説いてるので少なからず嫉妬しているのだ。

「あ、貴女が私の腕を買ってくれたのは分かりましたわ。レオンはどうするんですの?」

 そんな事は知らないマリーは一緒に行動してきた弟の心配をする。

「勿論一緒で構いません。彼は彼で私達のパーティにないものを持ってますから。」

「‥‥‥僕はそれで大丈夫。」

 自分一人だけ誘われて罰が悪いかったが弟と離れる事もないと分かるとマリーは安心する。

「お互いにメリットがある事も分かりましたわ。でも貴方達の有用性はどう証明するんですの?」

 素材の提供とは言うがマリーはミヤビ達のパーティのレベルを知らないし、そもそも長期間街を離れた事もないのでミヤビ達以外の守人を知らない。

「それなら取って置きのイベントがあるでしょう。」

 王都の武闘会である。パーティでなくても強さを図るには丁度良いイベントである。

「ではこれからよろしくお願いしますわ。」

頭を下げるマリーとレオンにミヤビも返事をする。

「あぁ、これからよろしく頼むわマリーとレオン。」

 ミヤビのいきなりの口調の変化に呆然とする二人であった。


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