会いたい願い。
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「カズ〜、トラちゃ〜ん、おはよう〜‼︎」
「おう。」
「雫ちゃ〜ん、おはよう〜☆」
…通学路で3人揃った。
…また、いつもの日常。
「カズ〜、ちゃんと寝た?」
「ああ。」
「今日は倒れるなよ〜!」
「倒れねーよ。」
…いや…
…今日は何かが違った。
…その何かとは…
…昼休みに学校の中で見かけた些細な事から…。
「…和馬…隠れろ‼︎」
「…?」
トラの声で咄嗟に隠れた。
…あれは…………社。
「…何も隠れなくても…。」
「いや、見つかったら面倒だし。」
…まあ…そうだな。
…ん?
…そっと様子を見てみると、何だか具合が悪そうだった。
…廊下を壁伝いにゆっくり歩く。
…階段に差し掛かった時、彼女は足を踏み外し…
「危ないっ‼︎」
…飛び出した俺は彼女を受け止めた。
…間に合った。
「和馬ァっ‼︎」
「えっ……⁈」
…トラの叫び声が聞こえた時、俺の身体は宙に浮いていた。
…こういう時って、一瞬なのに長く感じる…
「…和馬‼︎…大丈夫か⁈」
トラが階段を駆け下り、覗き込む。
「…………っってぇっ……‼︎」
…背中を強打したが、幸いにも大した怪我は無い。
…社は…
「……ん…っ……」
…無事だ…良かった。
…いや、俺の腕の中で気が付いたこの展開は…………
「…んっ…………え゛っ…………⁈」
……やな予感……
「…へっ……変態‼︎」
「あうっ‼︎…」
…思いっきり殴られ…彼女は逃走。
…俺はすぐには起き上がれず、トラに連れられて今日も保健室に。
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「あ゛……っ……もっと優しく貼ってくれ…………」
…トラの雑な貼り方に思わず声が出る。
「…わりぃ…しかし、和馬の恩を仇で返すとは…けしからん奴だ‼︎」
あ、軽く謝って話題逸らした。
「…一瞬、気絶してたみたいだし……混乱してたんでしょ。」
…俺、相当嫌われてるみたいだし。
「…にしても殴るなんてなぁ……あ、ちょと便所。」
「……えっ?…ちょっと待っ……」
…せめて全部貼ってから行ってくれよ!
「……いっっ…………ダメだ…。」
…自分で貼ろうと起き上がって身体を捻ったら、痛いし貼れないので止めた。
…トラが戻って来るまで大人しく待つか。
…あ、足音。
…戻って来たか?
「トラ、左側も頼む。」
「…………」
…返事が無かったが、そこに湿布が優しく貼られた。
「サンキュ……って社‼︎……さん?」
…振り返ると彼女はそこにいた。
…かなり驚いた。
…そりゃ意外だろ!
「さっきは…ごめんなさい。」
…誤解が解けたのか、彼女はわざわざ謝りに来たみたいだった。
「…そっちはもう大丈夫なの?」
「…はい…。」
…下を向いて気まずそう。
…あ、この格好の所為か?
「そこの服取って。」
「…あ、はい。」
「ありがと。」
…ゆっくり起き上がって、受け取った服を羽織った。
「……私は……階段で意識を失ったんですね……。」
…その問いに俺は頷いた。
「…その怪我…………本当にごめんなさい。」
…深々と頭を下げる。
「もういいって…」
…小さな声が震えてる…。
…昨日までとは、まるで別人の様に元気が無い。
……何か…弱ってる様な…
「……社……?」
「……………………」
…下を向いたまま、彼女は床に倒れた。
「おい…しっかりしろ‼︎」
上半身を起こし、声をかける。
「……ごめん…なさ…………スー…………」
…寝てる…?
「はぁ…」
…安心すると溜め息が出た。
…俺は彼女をベッドに運んだ。
…剣道の主将とは思えない位、華奢な身体だった。
…ずれた眼鏡を外し、頭上の棚に置いた。
…思わず見とれた…
…白い肌…
…長いまつ毛…
…サラサラの髪…
…こんなに人の顔を見る事なんて無かったなぁ…
「…………サイボーグなんかじゃないよ。」
…以前、トラが言ってた事を思い出した。
…真面目で無表情で礼儀正しくて融通が利かない彼女は、いつしかそう呼ばれていた。
…でもさ…
…泣いてる…
…悲しい夢でも見てるのかな。
…頬を伝う涙に触れた。
「……………………⁉︎」
…頭の中に物凄い量の感情が流れ込んで来た。
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「…会いたいよ… …狂也…」
…この感情は…
…突然いなくなってしまった大切な人に会いたくて堪らない気持ち…。
…この人…
…前に何処かで…
「…母さん…………会いたいよ。」
…これは…俺?
…そうだ。
…かなり最近の俺の心だ。
…鏡の前で母さんの事を想った。
…あの時…
…他にも何かあった様な…
「……お姉…ちゃん…………?」
…また誰かの心…
……目の前の動かなくなった少女に恐る恐る触れる。
…首から…
…胸から…
…腹から…
……流れる……
…頭の中が絶望で真っ白になって…
…恐怖と悲しみが全身を包む…。
…動かなくなった少女の目は開いたまま…
…即死…
…ところでこの顔…
…誰かに似てる…
「……………………?」
…少し寝てたのか?
「…………スー…………」
…彼女はまだ寝てる。
「…あ…」
…いつの間にか手が…
…俺に触れられたら嫌なんだろうな。
…起きる前にそっと離す。
「……ぉ…ねえちゃ…………」
…何でだろう…
…手を戻した。
…もう片方の手も添える。
…あの夢は…
「……折原さん……?」
「…………?」
…彼女はぼんやりと、こちらを見ていた。
「……あっ‼︎」
…俺は慌てて手を離した。
「…私、また倒れたんですね…。」
…俺は黙って頷いた。
…あの夢の事…
…まだ薄っすらと覚えていた。
「……お姉さん……亡くなったの……?」
「……えっ……⁈」
…俺の言葉で彼女の表情が変わった。
…何で知ってるの?…って顔。
「ごめん…変な事聞いて…」
「…………帰ります。」
…彼女はベッドから出た。
「…ちょっと待っ……」
咄嗟に腕を掴んだ。
「……離して……」
…振り返った彼女の顔を見ると、言う通りにするしかなかった。
「…………ごめん。」
「……おっ?っと……遅くなってゴメ〜ン‼︎生活指導のセンコーに捕まっちまった‼︎」
…社と入れ替わりにトラが戻って来た。
「…………」
…俺はしばらく自分の手を見ていた。
「和馬、大丈夫か?」
「…ああ。」
…あの時…
…振り返った彼女の目には、涙が溜まっていた。
…お姉さんの死は本当なんだ。
「さっき保健室からすっごい美人が出て来たけど……誰?」
「…さぁな。」
…ベッドの方を向くと、眼鏡がそこにあった。
…明日、渡すか。
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