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第7話 公爵令嬢、一般市民に変身する!

 そうだ! 目立たない格好をしよう。


 そう決めたはいいものの、ひとつ問題がある。


 そもそも、この世界の一般市民ってどんな服を着ているんだろう? 屋敷で働いていた使用人たちの服なら知っているのだけれど、あれは仕事着だよね。侍女(メイド)服や執事服を見慣れているからといって、町の人たちの普段着まで知っているわけではない。


 というわけで。


「まずは、服装の調査から始めよう!」

「調査?」


 ラーが首を傾げた。


「うん。町の人たちがどんな服を着ているのか、よく見て覚えるの」

「なるほど! みんながどんな服を着ているのか見たい!」

「僕も手伝うよ」


 興奮気味のラーに対し、スーが静かに微笑む。


「ありがとう! 特に、あたしくらいの子供がどんな格好をしているのか知りたいな」


 大人の服装を真似しても仕方がない。何しろ、あたしは六歳なのだ。でも、前世の記憶があるからといって、六歳の頃自分がどんな服装していたかなんて覚えていない。


 ……まあ、六歳の身体で大人と同じ形や柄の服を着たら、それはそれで面白そうだけど似合わないかも?


 いやいや。


 今回は目立たないことが目的なのだから、余計なことを考えている場合じゃなかった。さて、調査を始める前に、もうひとつ準備しておかなければならないことがある。


「スー、ラー。ちょっと姿を隠すね」

「光魔法を使うの?」

「うん。二人とも、その格好だと目立つでしょう?」


 スーは執事服を着た美少年で、ラーはメイド服姿の美少女。こんな二人を連れて歩いていたら、あたしがどんな服装をしていても目立つに決まっている。


 ……いや、そもそも今のあたしも十分に目立つ格好なんだけど。


「なるほど。僕たちが見えなければ、マナも服装を調べやすいね」

「ラー、透明になるの楽しみ!」

「じゃあ、いくよ!」


 あたしは二人に向かって光魔法を使うと、スーとラーの姿がすうっと消えていく。


「おおっ! 大成功!」

「マナ、ラーのこと見える?」

「ううん。全然見えない!」

「すごーい!」


 もちろん、姿が見えなくなっただけで、二人がいなくなったわけではない。声も聞こえるし、触れることだってできる。


 ただし、周囲の人たちにも声が聞こえてしまうのは困る。


「二人とも、人が近くにいるときは、なるべく話さないようにしてね」

「わかった!」

「僕たちも気をつけるよ」


 よし。これで準備完了!


     ◇◇◇◇


 町へ続く街道には、思っていたよりも多くの人が行き交っていた。


 荷馬車を引く商人らしき男性。

 大きな籠を抱えた女性。

 畑仕事の帰りなのか、土のついた靴を履いた人たちもいる。


 あたしは姿を隠したスーとラーと一緒に歩きながら、すれ違う人々の服装をさりげなく観察していた。


 ……さりげなく。


 そう、さりげなくである。


「マナ、あの人の服、見た?」


 近くを歩いていた人が通り過ぎたところで、ラーが小声で尋ねてきた。


「うん。見た見た」

「あっちの人は?」

「見た!」

「じゃあ、あの子は?」

「どこどこ?」


 ……あ。


 いけない。


 つい、じーっと見てしまった。


 視線に気づいたらしい女の子が、不思議そうにこちらを見返している。あたしは慌てて笑顔を作った。すると、その子も小さく笑ってくれた。


 ほっ……。


 怪しい人だと思われなくて。


 ……いや、待って。


 あたし、今、誰もいないところに向かって返事をしていなかった? 幸い、女の子は気にしていないようだけれど、周囲の人から見れば、独り言を言いながらコソコソしている六歳児である。


 ……これはこれで怪しい!


 あたしは慌てて口を閉じた。


 姿を隠すことばかり考えていたけれど、会話まで隠せるわけじゃないんだった。


 ……うん。気をつけよう。


 しばらく歩いていると、町の外側に小さな畑や家が見えてきて、子供たちが遊んでいる姿も見かけるようになった。


「……なるほどねぇ」


 あたしは小さく呟いた。


 女の子たちは、膝のあたりまである素朴なワンピースを着ている子が多い。色は茶色や生成り、くすんだ青など、落ち着いたものが中心だ。袖は動きやすそうな形で、腰に紐を結んでいる子もいる。


 男の子は、ゆったりしたシャツにズボン。ズボンの丈はまちまちだけれど、膝下くらいのものが多いように見える。


 大人たちも、基本的には似たような服装だなぁ。

 男性はシャツにズボン、女性はワンピースやスカートにエプロン。


 もちろん、みんなが同じ格好をしているわけではないけれど、全体的に飾りは少なく、実用性を重視しているようだった。


 なるほど。これが市井の人々の装いというわけね。


 ……って、六歳児が何を難しいことを考えているんだか。


 市井なんて言葉、前世でも日常会話ではほとんど使わなかったのに。公爵令嬢から一般市民になろうとしている今になって、妙に小難しい言葉が浮かんでくるのだから不思議なものだ。


 そして、もうひとつ。


 服の形が、あたしの知っている現代日本のものとはかなり違う。


 ……うん。


 女の子がTシャツにズボン、パーカー。


 これは確かに目立つわ。


 しかも、ファスナーつき。


 この世界でファスナーが一般的なのかどうかは知らないけれど、少なくとも今のところ、似たようなものを着ている人は見当たらない。パーカーみたいなフード付きの服を着て、フードを深く被っている人ならいるんだけど、あれはローブって言うんだっけ?


「マナ、どう?」


 周囲に人がいないのを確かめてから、スーが尋ねてきた。


「だいたいわかったかな。あたしの服は、やっぱりちょっと変わってるみたい」

「でも、マナの服、かわいいよ?」


 ラーが不思議そうに言う。


「ありがとう。でもね、かわいいのと目立たないのは別なのよ」

「そっかぁ」

「だから、今度はこの町の子供たちみたいな服を用意しようと思うの」

「買うの?」


 ラーの言葉に、あたしは頷きかけた。


「そうそう。買えば……」


 そこで、ぴたりと足が止まった。


 …………。


 あれ? 買う? 服を? 何で?


 ……いや、服を買うこと自体は何もおかしくない。おかしいのは、あたしの所持金である。


 そういえば、あたし、お金を持ってないじゃない!


     ◇◇◇◇


「……困った」

「どうしたの、マナ?」


 スーが心配そうに尋ねてくる。


「あたし、お金持ってない」

「お金?」

「うん。服を買うにはお金が必要でしょう?」


 前世なら、財布を忘れたときのような話だけれど、今回はもっと深刻だ。

 忘れたのではない。最初から持っていないのである。公爵令嬢として六年間生きてきたけれど、そもそも自分で買い物をする機会なんてなかったし。


 ましてや、この一年は屋敷の中で放置されていたのだから。


 お小遣い?


 そんなもの、もらった記憶がありませんけど!?


 ……いや、正確には、もらっていた時期があったのかもしれない。でも、今のあたしの手元には一枚の硬貨もない。無一文だ。前世より酷い(笑)


「お金って、作れないの?」


 ラーが尋ねた。


「うーん……」


 金属性の魔法を使えば、金属を加工することはできる。でも、だからといって、勝手に硬貨を作っていいわけではないし、それは、前世でいうところの偽造通貨では?


 ……駄目だ。

 絶対に駄目。


 せっかく自由になったのに、いきなり犯罪者になるのは遠慮したい。


「お金は、ちゃんと稼ぐ方法を考えよう」

「わかった!」

「それで、服はどうするの?」


 スーの質問に、あたしは少し考えた。


 服は必要。

 でも、お金はない。


 それなら。


「……作るか」

「作るの?」

「うん。生地はあるし、針も糸も持ってきたからね」


 そう。


 公爵家を出るとき、あたしは部屋にあったものをほとんど収納してきた。ラーと一緒に集めた布地も、裁縫道具も、もちろん持っている。


 足りないのは、お金だけだもの。だったら、自分たちで作ればいいじゃない!


「ラー、またお裁縫をお願いしてもいい?」

「もちろん! ラー、お裁縫好きだよ!」

「ありがとう!」


 ……ふふふ。


 こういうとき、ラーがいてくれて本当に助かる。あたし一人だったら、服を一着作るのに何日かかることやら。


 前世では、服を買うお金すら惜しくて、自分で服を作ることも珍しくなかった。だから、型紙を起こすのも、布を裁断するのも、縫い合わせるのも、それなりに慣れている。


 ただし、前世にはミシンという便利なものがあった。今は、そのミシンがない。


 しかも、あたしの身体はまだ六歳。知識も経験もあるのに、小さな手では思うように作業が進まないのが今の現実。


 ……ああ、ミシンが恋しい!


     ◇◇◇◇


 服を作ると決めたあたしたちは、いったん町から離れることにした。こんな格好でうろうろしていたら、余計に目立ちそう。それに、裁縫をするなら落ち着いた場所が必要だもの。


「できれば、誰も来ないようなところがいいな」

「それならまた、森の奥に行こうか」


 スーが提案してくれた。


「うん。お願い!」


 町の外れから森へ入り、人が通りそうな道を避けながら進んでいく。周囲に人がいないことを確かめてから、あたしは二人にかけていた光魔法を解除した。


「ふぅ。やっぱり、姿が見える方が安心するね」

「ラーからは見えていたんだけどね!」

「姿を隠していても僕たちの気配は感じられていたと思うよ」


 スーが微笑む。


「それはわかってるけど、やっぱり顔を見て話せる方がいいじゃない!」


 ……うん。


 何だか、いつもの三人に戻った気分。


 さて、ここからは落ち着いて裁縫ができる場所を探さなくちゃ。


 木々の間から差し込む光が、地面にまだら模様を作っていた。鳥の声が聞こえ、風が吹くたびに葉がさらさらと揺れている。


 ……いいねぇ。


 こういう場所、何だか落ち着く。


 ただし、あたしは六歳の身体である。大人の足なら何でもない距離でも、歩き続ければそれなりに疲れる。小さい子って体力ありそうで実はあんまりないのね。


「マナ、大丈夫?」


 スーが振り返った。


「うん。まだ平気!」


 そう答えたものの、少し息が上がっていた。すると、スーがあたしの前にしゃがみ込んで、

「無理しなくていいよ。僕が抱っこしようか?」

「……お願いしてもいい?」

「もちろん」


 スーは軽々とあたしを抱き上げた。


 ……うん。


 こういうとき、六歳の身体って便利かもしれない。いや、自分で歩けないのは少し悔しいけれど。でも、抱っこしてもらうのも悪くない。


「マナ、眠くなったら寝てもいいよ!」

「さすがに、まだ寝ないよ!」


 ……たぶん。


 しばらく進んだところで、スーが足を止めた。


「このあたりなら、人も来なさそうだね」


 周囲には背の高い木々が広がり、少し開けた場所があった。地面も比較的平らで、家を出すにはちょうどよさそうだ。


「うん。ここにしよう!」


 あたしが頷くと、スーはそっと地面に下ろしてくれた。


「じゃあ、僕が家になるね」

「お願い!」


 スーの身体が大きく広がり、あっという間に日本風(日本家屋ではない)の家へと変身した。


 ……本当に、何度見てもすごい。


 森の奥に突然現れる、日本風の一軒家。しかも、水道もお風呂もトイレも完備。冷静に考えたら、とんでもない光景である。


 でも、あたしたちにとっては、これが普通の暮らしになりつつあるのだから不思議なものだ。


「よーし! お裁縫、始めよう!」

「おー!」


 ラーが元気よく拳を上げた。


     ◇◇◇◇


 まずは、必要な生地と裁縫道具を取り出す。机の上に布を広げ、町で見かけた子供たちの服装を思い出してみた。


「女の子は、こういう感じだったよね」


 あたしは紙に簡単な絵を描いてみる。


 ……うん。


 相変わらず、思ったように描けない。頭の中には、ちゃんと完成した服の形が浮かんでいる。前世なら、もう少しまともなデザイン画が描けたはずなのに、今のあたしの手はまだ六歳。


 線を引こうとしても微妙に曲がるし、細かい部分を描こうとすると、どうしても思いどおりにならない。


 ……もどかしい。


「マナ、これはワンピース?」

「そう! よくわかったね!」

「うん! マナが描きたいもの、ラーにはわかるよ!」


 ……ラー。あなた、天才なのでは? あたしの頭の中にある完成図を、どうしてそんなに簡単に理解できるの!?


 ありがたい。本当にありがたい。


「じゃあ、まずはマナの服を作ろう!」

「うん!」


 ラーが布を広げ、寸法を確かめながら裁断していく。あたしも手伝おうとするけれど、どうしてもラーの方が手際がいい。


 ……まあ、仕方がない。


 あたしは六歳の身体だし、そもそも裁縫の腕前だってラーの方が上なのだから。スライムすごいね。


 それでも、できることはある。布を押さえたり、糸を用意したり、縫い終わったところを確認したり。二人で相談しながら、少しずつ形にしていく。


 ……でも。


 しばらくすると、あたしは大きなため息をついた。


「はぁ……ミシンがあったらなぁ」

「ミシン?」


 ラーが顔を上げた。


「うん。布を縫うための機械なの」

「機械?」

「そう。前世では、家庭用のミシンなんて珍しくなかったんだよ」


 もちろん、電動ミシンがあれば最高だけれど、今の世界には電気そのものがない。いや、魔法で電気に似たものを作れないこともないのかもしれないけれど、そんなことを考える前に、まずミシン本体が必要だ。


 足踏みミシンでもいい。あれなら、電気がなくても使えるものね。


 でも。

 ない。

 どこにもない。


 そもそも、この世界にミシンというものが存在するのかどうかすら、わからない。


「マナ、作れないの?」


 ラーが不思議そうに尋ねた。


「うーん……さすがに難しいかな」


 錬金術を使えば、金属の部品を作ることはできるかもしれない。でも、ミシンはただ針を上下に動かせばいいというものではない。布を送る仕組みも必要だし、糸を絡ませる仕組みも必要。

 それらが正確に連動しなければ、きちんと縫うことはできないのだ。前世でミシンを使ったことはあるけれど、内部の仕組みまで詳しく知っているわけではない。


 ましてや、一から設計して作るなんて。


 ……無理!


 少なくとも、今のあたしには無理! あー、ミシンの仕組みも調べておくべきだったぁ。


「魔法で縫えたりしないのかなぁ」


 あたしは針と糸を見つめながら呟いた。


 木、火、土、金、水、光、闇。


 あたしには七つの属性がある。


 でも、そのどれを使っても、布をきれいに縫い合わせる方法は見つからなかった。


 針を動かすことくらいなら、何とかできるかもしれない。けれど、布の厚みや糸の張り具合を確かめながら、均等な縫い目を作るとなると、話は別。


 無理に魔法で動かそうとして、布を傷めてしまっては意味がない。以前もいろいろ試してみたけれど、結局、手で縫った方が早かったのである。


「……魔法って、万能じゃないんだねぇ」


 思わず呟くと、ラーがくすくすと笑った。


「でも、ラーはお裁縫好きだよ?」

「うん。それは本当に助かってる!」


 そう。


 何でも魔法で解決できるわけではない。だからこそ、こうして手を動かす時間も大切なのかもしれない。


 ……いや、正直に言えば、ミシンは欲しいけどね!


 でも、ないものを嘆いていても仕方がない。


「よし! できる、できる! きっと素敵な服ができる!」

「うん! ラーも頑張る!」


 ラーが嬉しそうに笑った。


 言葉には力がある。


 前世でも、そういう話を聞いたことがあった。言霊というやつだ。口にした言葉が現実に影響するという考え方だけれど、実際にそんな力があるのかどうかはわからない。それに、前世では全然信じてなかったんだけど。


 でも、少なくとも「できない」と嘆くより、「できる」と言った方が気分はいい。それに、ラーの笑顔を見ていたら、本当に何でもできそうな気がしてきた。何でも前向きに考えられるっていいね。


 ……うん。あたしには、こんなに頼もしい家族がいるんだもの!


     ◇◇◇◇


 服作りは、思っていた以上に時間がかかった。


 まずは、あたし用のワンピース。


 町で見かけた女の子たちの服を参考に、飾りを控えめにした、動きやすい形にする。色も、あまり目立たないものを選んだ。とはいえ、せっかく作るのだから、かわいさも少しは欲しい。


「ここに、小さなリボンをつけたいな」

「いいね! でも、目立たない方がいいんだよね?」

「うん。だから、同じ色の布で作ろう!」

「なるほど!」


 ラーがウキウキしている。ラーはいつも楽しそう。


 ……ふふふ。


 こういう相談をしている時間が、あたしも一番楽しいのかもしれない。


 最初は変装のためだったはずなのに、いつの間にか、普通に服作りを楽しんでいる。どうせなら、楽しく作った方がいいもの。


 しばらくして、ようやく一着目が完成した。


「できたー!」

「やったー!」


 あたしとラーは、思わず両手を上げて喜んだ。


 さっそく着替えて、鏡の前に立ってみる。


 ……おおっ! いいじゃない!


 シンプルなワンピースだけれど、形はきれいだし、動きやすい。何より、町で見かけた女の子たちの服装にかなり近い。


「ラー、すごい! これなら大丈夫そう!」

「マナ、かわいい!」

「ありがとう!」


 くるりと回ってみる。


 裾がふわりと広がった。


 ……うん。


 やっぱり、服って楽しいね!


 前世では、自分のために新しい服を買うことすら、なかなかできなかった。欲しいものがあっても、いつも後回し。


 でも、今は違う。


 自分が着たい服を、自分で考えて作ることができる。もちろん、作ってくれるのはほとんどラーなんだけど。それでも、こうして一緒に考えて形にしていくのは、とても楽しい。


「次は、スーとラーの服だね!」

「うん!」


 ……と言いかけたところで、ラーが首を傾げた。


「でも、ラーたちは服も変えられるよ?」

「……あ」


 そうだった。


 スーとラーはスライムなのだ。


 人間の姿に変身するとき、服装まで自由に変えることができる。つまり、わざわざ服を縫う必要なんてないのである。


「……いいなぁ」

「え?」

「だって、ずるいよー! あたしなんて、こんなに苦労して服を作ってるのに!」


 思わず頬を膨らませると、ラーが楽しそうに笑った。


「じゃあ、ラーもマナとおそろいにする!」


 そう言った次の瞬間、ラーのメイド服がふわりと形を変えた。


 落ち着いた色合いのワンピース。飾りの少ない、町の女の子たちに似た服装。


 ただし、ラーは十五歳くらいの姿なので、少し大人っぽい形になっている。


「どう?」

「……早っ!」


 いや、本当に早い。


 あたしたちが何時間もかけて作った服を、一瞬で再現してしまった。


 何なの、この能力。便利すぎるでしょう!


「すっごく似合ってる!」

「えへへ! ありがとう!」

「じゃあ、スーにもお願いしようか」


 あたしがそう言うと、ラーは家の壁に向かって声をかけた。


「スー! マナの服ができたよ!」


 ……もちろん、返事はない。今のスーは家なのだから。でも、ちゃんと聞こえているはず。


「スーも、次は普通の町の男の子みたいな服にしてね!」


 すると、壁の一部が、ほんの少しだけ揺れたような気がした。


 ……うん。


 たぶん、了承してくれたんだろう。


     ◇◇◇◇


 翌朝。


 あたしたちは、いよいよ新しい服装で町へ向かうことにした。


 スーが家の姿から人間の姿に戻る。その服装は、いつもの執事服ではなかった。


 飾りのないシャツに、動きやすそうなズボン。色合いも落ち着いていて、町で見かけた若い男性たちの服装によく似ている。


「どうかな?」


 スーが尋ねてきた。どこにでもいそうな少年の服装だけど、やっぱりイケメン。


「うん! すっごくいい!」

「よかった」


 スーが嬉しそうに微笑む。ラーも、昨日変身したワンピース姿のままだ。そして、あたしも新しく作った服に着替えている。


 髪には、いつものリボンのカチューシャ。スーの胸元とラーの髪にも、おそろいのリボンがある。これは、絶対に外したくなかった。


 だって、あたしたち三人の大切な印なのだから。


「よーし! これで準備完了!」


 あたしは鏡の前に立ち、三人の姿を確認した。


 うん。


 服装は完璧!


 どこからどう見ても、普通の町の子供と、その付き添いに見える。


 ……いや、待って。


 あたしは隣に立つスーとラーを見上げた。


 服は普通。でも、顔が普通じゃない。

 スーは、さらりとした黒髪の美少年。

 ラーは、愛らしい顔立ちの美少女。


 しかも、二人とも姿勢がよく、動きまで妙に洗練されている。……何で二人とも、こんなに美形なの!?


「マナ、どうしたの?」


 スーが不思議そうに尋ねてきた。


「ううん。何でもない……」


 ……いや、何でもなくない。


 服を変えただけで、完全に目立たなくなると思っていたあたしが甘かった。スーとラーが並んでいるだけで、何だか絵になるんだもの。


 しかも、二人ともあたしのことを大事そうに見てくるから、余計に普通の付き添いには見えない気がする。


 ……うーん。


 目立たないって、意外と難しい。


 でも、まあ。


 少なくとも、昨日よりはずっと自然な格好になったはずだ。それに、これ以上考えていたら、いつまでたっても町へ行けない。


「よし! 今度こそ出発!」

「うん!」

「ラーも楽しみ!」


 あたしたちは顔を見合わせ、笑い合った。


 まあ、町に着くまでは今の姿でいてもらおう。せっかく三人でおそろいの服装になったんだもの。


 さあ。


 今度こそ、町へ行こう!


 そして、まずは冒険者ギルドを探してみようかな。冒険者になれるかどうかはわからないけれど、話を聞くだけなら問題ないはずだもの。


 ……ふふふ。


 いよいよ、異世界らしい冒険が始まるのかもしれない。あたしは期待に胸を膨らませながら、スーとラーと一緒に森を出た。


 冒険への道は、まだまだ始まったばかりなのである。


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