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B.B.  作者: 浅野エミイ


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エピローグ

 ーー僕らが高校を卒業して十数年が経った。


 高校三年生だった僕、ハル、ミブ、西園寺、涼と二年生だった舞くんとユーイチくんだが、それぞれ自分の進路へと進んだ。


 ハルは結局大学に進学する前に高校を去った。あれだけ大それたことをしたのだから、それは仕方のないことだったのだろう。


 ミブはアメリカへと渡り、大学へは行かずにアレンジャーとして有名になったらしい。『らしい』と言うのは、あまり仕事の情報を教えてくれないからだ。今でも連絡自体は取っているのだが、聞いてくるのは西園寺の話ばかりだったりするから手に負えない。案外ブラコンだったのだろうか? もともとそんな気もしなくはなかったけども。西園寺自体は音大になんとか自力で合格できたそうだ。もうミブの入れ替わりなどしなくとも、ひとりで自立してはいると思われる。でも、音大のピアノ科は大変らしく、たまに愚痴を聞くこともあった。そのあと西園寺はプロピアニストではなく、ストリートミュージシャンになったというのも面白い話だ。でも、あれだな。双子と言ってもキーボーディストとピアニストとちょっと違った道に行ったなと思った。それがもともとあった互いの個性なのだろう。


 涼はというと、服飾系の専門学校に行った。たまに今でも趣味でバンド活動をしている。服飾系というのも、趣味と実益を兼ねていると言えよう。涼は今でもうちのライブハウスに顔を出している。バンドを主軸として生活しようという気ははなからなかったというのが、彼の意外なところだ。あれだけ女性を食い物にしているような怪しいバンドにいたっていうのに。うちのライブハウスでライブをするときは、主にいいデザインの服ができたときだ。演奏とデザインの発表という、一挙両得をしてるというから、ある意味商魂たくましいのかもしれない。


 ライブハウスにたまに来ると言ったら、ユーイチくんと舞くんもだ。ユーイチくんはもともと生徒会に所属していた人間だし、成績はよかったから大学にはストレートで進学。作詞は本当に趣味だったらしく、文学部ではなく法学部へと進学した。だけども結局なったのは弁護士とか検事ではなく、弁理士だった。知的財産とかを専門にする業種らしい。本人曰く、「人相手の仕事より書類相手のほうが気が楽そうだから」とのこと。それはなんとなくわかる。だけども毎日書類とにらめっこだと気が滅入る。うちのライブハウスに来るのは、息抜きだと言っていたっけ。舞くんとは相変わらずの腐れ縁みたいで、よくふたりで顔を見せに来ている。


 その舞くんのほうだけども、大学のほうから推薦が来たらしい。ま、運動神経抜群だったからな。結局バンドのあとは空手部とか他の運動部に専念していた。だけども面白いことに、彼が進んだのは運動系のプレイヤーとしての道ではなく、なんと教師への道だった。なんでもハルをやめさせた「ゴリ山がむかつく! あいつを超える教師になってやる!」とのことだったから、結局彼も根性があるんだなと思った。ユーイチくんとうちのライブハウスに来るのも、生徒指導や未成年補導の一環だから、人生何があるのか本当にわからない。


 そして僕はというと、姉貴の道楽のようなものであるライブハウスの運営をたまに手伝いつつ、理系大学を卒業。そのままのんきに大学院へ進み、オーバードクターという名前の『子供部屋おじさん』として着実に成長した。理系の大学で何を勉強したかって? 勉強の話はここではしたくないが、一応自身の名誉として、『子供部屋おじさん』でも最年少で教授まで昇格したということだけは伝えておく。でも、ライブハウスで勉強の話をする間抜けは客としては呼んでいないというのが僕の自説だ。僕は結局やっぱりライブハウス運営者側なのだろう。だけどもあくまでライブハウスは道楽運営だ。これも僕の息抜きの仕方である。


 ドラムは相変わらず続けている。なんだかんだでバンドを組んでいたメンバーはミブや西園寺のようなプロを除き趣味として音楽は続けているらしい。ユーイチくんは今も年甲斐もなく『CYBER PUNK』としてネットで活動しているし、舞くんも生徒指導を兼ねてよくカラオケに行ったりしているとのことだ。


 そんなある日のことだった。


 一通のメールが、ライブハウス宛に届いた。件名は『久しぶり』。なんだろうと思って開いてみると、なんとハルからだった。


 出だしは『元気か? 俺だ』。『俺だ』って、誰だよと思ったけど、読み進んでいくうちにハルだということに気がつく。内容は自分が退学になったあとのことだった。メールの内容から見ると、ハルは退学後になんと、アフリカへ渡ったらしい。あまりにも突拍子がない文章に目が点になる。アフリカへ渡って、インフラ系の仕事に携わっていたとのことだ。もともとハルは成績もよかったから、頭が悪くて退学したというわけではなかったのだ。今インフラって人手足りないからな……。下手すりゃ僕より給料いいだろうな、なんて思いながら読み進めると、また驚くようなことがメールに書かれていた。


『日本に帰ったらしばらく休みなんだが、暇だし、今度は近所のアリーナでも借りてライブしないか?』


 え……? そんなに簡単にアリーナって借りられるのか? そしてその財力がハルにあるのか……? 驚いていると、文面にはこう書いてあった。


『アリーナの保守点検をしないといけなくてな。その期間、ステージ貸せないらしくってさ。だったら久々に集まって演奏するのも悪くねぇかなと思って。無観客だろうが人がいようが関係ない』


 そうは言うけどさ……。無観客のライブって、それはそれでむなしくないか? 僕は気づいたら返信していた。


『自己満足言うな。今度は僕がお前に情熱をぶつける番だ!』


 あのときハルは自分の学歴をかなぐり捨ててまで僕らに青春を与えてくれたんだ。今度は僕らがハルにしっかりと伝えなくちゃ。新しい大人の夢ってやつをーー。


 僕はさっそく大学に連絡した。まずは社会学部だ。地域密着でイベントを行っているサークルにメールする。


『アリーナを借りるから、人を呼ぶ企画を考えてほしい。満員にしたら、単位免除だ』


 そんな謳い文句で学生の支援を求める。卒論免除と言っても、別に強制ではない。だけども今の時期だったらかなり魅力的な文言だとは思う。


 そしてB.Bのメンバーだったみんなに声をかける。ハルはまだ声掛けしていなさそうだからちょうどいい。まだメールだと構想としてアリーナを借りること前提なのだろう。ハル本人はメンバーが集まれば有観客でも無観客でもあまり関係ないと考えていそうだけども、やる曲は練習しておかないとな。


 まず、近しい地元の舞くんとユーイチくん、涼に連絡する。この三人はよくライブハウスに来るから連絡を取りやすい。問題はミブだ。いるのはアメリカだからな。このためだけに帰国してもらうのも申し訳ない。今でもアリーナ近くの物件は借りているみたいではあるけども、飛行機の問題があるからな。ともかく連絡を取ってみなければわからない。僕はミブにメールをした。『ミブ、アリーナでライブしよう!』。数日待ったのち、メールは返ってきた。細かな日程が知りたいということだったが、アレンジの仕事はわりとテレワークでもできるらしかったので、ハルの帰国に合わせて問題なく帰ってこれるということだった。


 ミブもOKと。西園寺も今は現役アーティストだけど、今回はB.Bのライブだ。来てもらうとしたら客としてだろう。


「しっかしさぁ、アリーナの保守点検だからライブできるって言ってるけど、まだ何を演奏するかとか全然決めてないよねぇ〜」


 舞くんがつぶやく。ーーとある休日。羽田空港にあるカフェ、『セン・ドラゴン』に、僕、舞くん、ユーイチくん、涼が集まって、今後のライブについて考える。今回は言い出しっぺのハルはわりと細かいところまで考えていないっぽい。


「貴志川先輩、有観客でやるんでしょう?」


 ユーイチくんが僕に訊ねる。


「うん、うちの大学の学生に声をかけてる。『大勢の観客を集めたら単位免除』って。ハルは無観客でもいいって言っていたけど、ここは今度は僕らがハルに大勢のお客さんがいる絶景を見せてあげたいじゃん?」


「……衣装、作るよ。せっかくだから」


「りょーちん先輩ナイス! でも俺らもいい年だから、あんまり派手にしないでよ? っていうか、この年でもう女装とかないから」


 流石にな……。とは言え、結局あのあと『謎の少女M』についてはファンの男子たちは一瞬のゲリラライブを見られて良かったという声も聞こえたが、自然と忘れられていたなぁ。舞くんとしては都合が良かったとは思うけども、せっかく付けたファンだったからもったいなかったような気もする。だけど、別に舞くんも『女装アイドル』としてやっていく気とかもなかっただろうし、これでいいのだろう。


「そろそろ時間だね」


 僕は腕時計を見た。今日の飛行機でハルとミブは帰って来る。その出迎えだ。待ち合わせ時間は十三時と言うことになっているけども……ふたりは変わっただろうか? 僕らはよく顔を合わせているけども、やっぱり年を取ったなとか感じるのだろうか?


 待ち合わせ時間の十分前。僕らはカフェを出ると、空港の展望台へと向かう。ハルの指定だった。変に混雑している場所で会うより、こっちのほうがいいだろう。ミブもここへ来るとのことだ。


「飛行機、いっぱい見えるんだね〜、ここ。学外活動で来るのも悪くなさそう!」


「舞、休日も仕事か。教師の仕事で学外活動の下見もあるもんな」


「……飛行機や空港モチーフの新作デザイン……考えられるかも」


 舞くんやユーイチくんだけではなく、涼もそんなことを口走る。そんなメンバーと飛行機を眺めているとーー


「待たせたな!」

「ただいま!」


 ハルとミブが僕らに声をかける。


 ーー久々の再会。再び新しい情熱の光が、僕らを照らした。


【了】

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