オアシス
「良かったな、アルバート。こんな所に泉があったなんて。」
ヴァールさんは、水袋に泉の水を汲みながら顔や頭を洗っている。
「そうですね。ウンディーネが反応してくれなかったら、あと数日は水路づくりでしたからね。・・・って、顔と頭を洗いながら、よくその水を汲もうと思いますね。普通は最後に洗うでしょ?」
「そんなん構ってられっか。俺たちは冒険者、冒険者は自由が売り物なんだ。そうでなかったら魅力半減だぞ?」
「いや、単なる順番の問題ですよ。なんで自分の顔や頭を洗った水を飲まにゃならんのですか。最初に汲む!そして洗う!そうでしょ?」
「別にいいよ。それにお前はウンディーネが綺麗にしてくれるじゃないか。人様の事まで気にしてんじゃねぇよ。」
アンナさんと別れてから暫くは知ったあたりで、ウンディーネから知らせが入った。どうやらこの辺りには自然の脇水が有るそうだ。
ガンドラ山脈に染み込んだ水が、この辺りにも顔を出しているようだ。
「まぁいいです。少し休んだら戻りましょうか。」
「今日はもう休もうぜ。馬もくたびれてる。馬も仲間だ。しっかり面倒見て、気遣ってやらないと、一人前の冒険者にはなれないぞ?」
そう言えば、チィリン王国へ行った時も師匠から言われたような気がする。
普段はあまり馬に乗らないから、ついつい忘れてしまうな。気を付けないと。
「分かりました。なら俺は、水辺の調査と水路の補強をやってしまいますね。」
「お前も休めばいいのに・・・。それに!精霊も疲れてるだろ?休ませてやれ。」
「精霊は、自然の力を使っているだけなので、俺の魔力があるうちは疲れないそうですよ?魔力の無い所で強力な力を使いすぎると、消滅の危機もあるそうですが。今はまだまだ魔力もあるんで、精霊と一緒に廻ってきますね。」
「タフだな、お前。・・・俺は寝る。」
「はい。」
ヴァールさんは馬を近場の細木に括り付けると、カートの荷台に乗り込み横になった。
精霊魔法を使い続けるのも大変だが、馬を操作し続けるのも大変な事だ。楽そうに見えてものすごく気を遣うという事だ。
特に今回は2人での移動なので、前方の安全確保、馬の操作、周辺の索敵などを1人で担ってくれていたのだ。
ヴァールさん曰はく、これくらいできて中級者らしい。
俺はまだできないけど・・・。
それより、自然にできた水場という事は、そこには必ず水の精霊がいるという事だ。
俺がいつも手伝ってもらっている精霊は、基本的に精霊界に存在する精霊であって、自然発生した精霊とは別物と言っても過言ではない。
この様な孤立した場所にある水場などでは、時折、精霊界に戻ることを知らない、狂える精霊が存在している事も有るのだ。
特に、ウンディーネやサラマンダーはこの類のものが多く、逆にそれ以外の精霊は何らかの繋がりを持っている為、精霊界とも何らかの繋がりがあるらしい。
精霊術師として、もし、ここに狂える精霊がいるのであれば、討伐するか、上手く精霊界に還すようにしなくてはならない。
この水場は、意外と大きく、今回の雨季で発生したものなのかもしれない。
辺りの草の生え具合や細木の数からして、水場となるべく土台は出来ていたのだろう。
ただ、辺りには動くものの気配もない事から、水場としては適さないのか、あるいは、狂える精霊が存在しているかのどちらかなんだと思う。
「ウンディーネ・・どうだ?狂える精霊は居そうか?」
『多分・・いる・・。』
ウンディーネも警戒の色を濃くしている。
とは言え、以前、チィリン王国で風の上位精霊を封じた俺にかかれば、何と言う事は無いだろう。
ま、あの時は、古代遺跡からデュアル様が手に入れたというビルグレイブが効果的であったという噂も無くはない。
実際に、あの剣の中にはジンが入り浸っており、精霊に親和性の高い武器だったと言える逸品である。
ただ、今の俺は、白騎士としておそれられたアルヴァリオンを手にしている。
精霊に対しても十分対抗できる装備なのだ。
『来る!』
俺が剣を眺めながら歩いていると、ウンディーネが警告を発してきた。
咄嗟に水場に向けて意識を集中しながら身構えると、水面から水の球がいくつも飛んできた。
「わ、あぶな!!!」
水の球の内の一つが、俺の頬をかすめると、頬は刃物で切ったような痛みが走り、生暖かいものが頬を伝っていた。




