勇者の力
ようやく城門が間近に迫ってきた。
俺たちの生活基盤を揺るがす魔獣。その動きまでが見える距離まで近づいた。
「君たちは待機。城門に近づくな。周囲を警戒。」
おっさんが単語を残して城門の内側に消えていった。「ねぇ、助けに行こうよ!」と叫ぶリンをなだめ、周囲の状況をうかがう。
辺りには魔獣の成れの果てが転がっている。炎に焼かれ、皆一様に黒い塊と化している。ほとんどが親指の爪ほどの大きさまで収縮し、元の状態を知ることはできない。
俺たちは安全と思われる街道で待機をしているが、警戒以外にできることは無いのだろうか。
「俺たちも行こうぜ!魔獣が出てきたら、この棍棒でぶっ飛ばしてやる!」
「サンタス、ここは待て。おっさんとは言え、一応上官命令だ。」
「まだ正式に入隊が決まったわけでもないだろうが!」
「見習い兵であっても、軍の管理下にある。ここは・・、よけろ!!!」
サンタスの左後方から中型の犬の形をした魔獣が姿を現した。
サンタスは振り向きざまに棍棒を振り、反動を利用して体を逸らせた。
ズン、と腹に響く音を立てて地面が陥没した。魔獣の攻撃だ。
「魔獣は基本的に火に弱い!松明をかざせ!」
リンが、手に持った松明を魔獣に向けて大きく横に振る。
「あっち行って!」
リンが必死に魔獣をけん制するも、魔獣は興味を示しただけで怯える様子はない。
俺も何か行動を起こしたいが、俺の剣はロックリザード戦で折れており、通常の半分以下の刃しか残っていない。未練がましく持ってはいるが、効果的な使い方は思いつかない。
「くたばれ!犬っころ!」
サンタスが果敢に魔獣へ攻撃を試みた。
サンタスの棍棒が魔獣に接触した瞬間、金属同士をぶつけたような火花が散り、サンタスは弾き飛ばされた。ギニンが駆け寄り安否を確認している。「アニキ!」ギニンの叫び声はパターン化しているので、魔獣から目を離せない今、あいつの生死は不明だ。
「分散して、森に逃げ込もう!」
「無理だ!逃げ切れるもんか!!」
コーギの提案にビルットが叫ぶように応えた。
「いや、それしかないだろう。今、最も効果的であろう松明が、けん制にすらなっていない。標的を絞らせないようにしながら森に紛れ込もう。」
俺は正直、生きた心地がしない。ロックリザードの時は、相手に切りつける勇気があったが、魔獣を目の前にすると足がすくんでしまうんだ。森へ逃げ込む提案はしたものの、逃げ切れるビジョンが見えない。
ゴグウウゥ・・。
魔獣が低く唸り、この遭遇戦に終止符を打とうと体勢を変えた。
魔獣の目が、一瞬青く光ったように見えたその時、魔獣の首から先が消え、体が青い炎に包まれていた。
「なっ・・・・。」
俺は何が起こったかわからないまま、体を焼かれ小さくなっていく魔獣を眺めるしかなかった。
「ごめんねぇ、まだ残ってたんだ~。」
この状況に似つかわしくない、明るい女性の声が聞こえた。
「ルーナ、先に場内へ行ってるから、残りを頼めるか?」
「オッケーディグ!あとは任せて!」
戦士風のディグと呼ばれた男は、ルーナと呼ばれるメイジ風の意思を確認したと思ったら、焼け崩れた城壁の上を駆け抜けていった。
「あ、ありがとうございます。死んだかと思ったぁ。」
リンがルーナに感謝を伝える。
「俺も、助かりました。ありがとうございます。」
「どぉって事ないよ。君たちはまだ見習いかな?この経験を活かして、次は動けるようにしようね!」
「あの、ちなみにあなたは?」
少し離れた位置にいたコーギが語り掛ける。
「あぁ、ごめん。私はルーナ。勇者パーティーのメイジをしてるわ!よろしくね!」
「今、何をしたんですか?」
「あぁ、魔術でちょちょっとね。・・・見てて。」
ルーナは少し離れた城門付近にいる魔獣に杖を向けた。
「浄化の炎よ、わが手に集え!ホーリーフレア!」
青く輝く魔力の塊のような物が、魔獣に向かい収束していく。一瞬の後に魔獣ははじけ飛び、青い炎に包まれていった。
「すごぉい。」
リンが憧れの眼差しでルーナを見つめる。
背後から、サンタスがギニンの肩を借りて戻ってきたようだが、表情から見ても無事とは言えないようだ。
「これくらいは、ね、・・・。あれ?君たちも?」
「何が、ですか?」
「この国の人って、呪われてる人が多すぎない?」
「誰が呪われてます?このサンタスですか?」
ビルットも近くにやってきた。
「うーん。・・・・。全員?」




