闇夜を黒く染めるもの
夕食を終えた俺たちは、夜の見張り番の準備を決めていた。
「じゃぁ、今日は俺たちが先に見張りをしようか。」
ビルットとコーギが名乗りを上げた。
「二番目は俺たちかな?細かく寝る方がつらいか・・・。」
「そっかぁ、じゃ、早く寝よ~。」
「今日一番活躍した俺様が明け方か!よし!寝る!」
「アニキ、跡片付けはやっておきます。」
それぞれが自分たちの役目を遂行する。その様を見ながらおっさんは焚火のそばで香湯を嗜んでいる。
「じゃぁ、ビルット、コーギ、時間までよろしく。」
そう伝えてマントにくるまった。
今日は天幕無しで、星空がきれいに瞬いている。眠りに落ちる直前に「きれいだね」と呟く声が聞こえたが、応答する間もなく意識が落ちていく。
「アルバート!起きろ!」
さすがに中番は睡眠時間が短く感じる。
「あぁ、分かった。交代だな。」
「おい!サンタス!ギニン!起きろ!!」
なぜか全員を起こして廻るビルット。何かあったのか?周りを見渡すが、何も変わった様子がない。
おっさんが焚火を消しつつ、空を眺めている。
「一体何なんだ。」
「どぅしたの?」
「アニキ、何かあったみたいですよ。」
「みんな、空を見て・・・・。」
所々に星が見えるが、何を見ろというのだろう?
「何かが、沢山の何かが空を飛んでいる。王国にむかって・・。」
よく見ると、星の光を遮りながら無数の闇が移動している。
「なんだ、あれ。」
「何か、やばそうだねぇ・・・。みんな、悪いけど、移動の準備だ・・。」
焚火の炭を松明に付けて着火する。
「リンクルちゃん、松明を持ってくれるかい?」
全員が荷物を持ち終えると、おっさんを先頭に歩き出す。俺が最後尾でリンがその前を歩いている。リンの前はギニン、俺とギニンで後ろの警戒を行いつつ移動を開始した。
丘を下りきる前に、遠くに動く松明の明かりを見つける。おそらく他のチームも異変に気付き、王国に向けて行軍をしているのだろう。
暫く歩き、ふと空を見上げてみると無数の星が見える。
「黒い奴が消えたぞ!」
周囲に聞こえる程度の声で呼びかける。
「ほんとだ・・・。どこに行ったんだ?」
ビルットが辺りを見回していると、戦闘を歩いていたおっさんが急に足を止めた。
「炎が上がった!城門だ!」
王国はまだ遠いが、城門辺りで火の手が上がっている。
「急ぐ、けど、走るな!ここで急いで走っても、到着前にダウンしてしまう。
王国は大丈夫だ。何かあっても近衛兵団や複数の大隊が王国に残っている。
だから・・・歩くんだ!」
おっさんの表情は見えないが、おそらくはかなり焦っているだろう。
「・・・パパたち、大丈夫かな・・・。」
リンが不安げにつぶやく。
「大丈夫だ、今は歩こう。」
ゴゴォ・・。
城門の炎が発したであろう爆音が響いてきた。
炎の数は複数。王国のメイジ隊が出動したのだろう。
ゴゴゴォ・・・。
カカッ、カカッ・・・。
爆音に紛れて馬を駆る音が聞こえてきた。
「どうどう・・・、おい!ザスタ!どうやら魔獣の襲撃のようだ!俺は一足先に王城へ向かう!お前たちは無駄な体力を使わず、急いで歩けよ!」
この人は、軍の小隊長、ローエル小隊の隊長だ。演習の出発式の際に壇上で話をしていた人だが、どうやら馬を調達したらしい。
「ちなみに、お前たちは2番目に王国に近い!が、無理はするなよ!ハイヤ!!」
王国の城門ではまだ時間がかかりそうだ。王国への道は街道を使うことで少しは早く到達できるだろう。
俺たちははやる気持ちを抑えながら、ひたすら歩みを進めた。




