夜の闇は深くとも
いつの間にかサンタスの鼻歌が聞こえなくなり、眠りに落ちていたようだ。
肩をゆする手に答えるように手を挙げた。
「もぅ、交代の時間か?」
少しかすれた声で確認する。
「あぁ、もうすぐだ、準備してくれ。2回寝れるからお得だと思ったけど、結構きついね。」
ビルットは答えた。コーギもリンを起こしているようだ。
「あとは任せて、ゆっくり休め・・・くぁ・・・。」
大きな伸びをして体を目覚めさせた。リンは、既に動き出している。元気な奴だ。
「アル!しっかりしなさい!」
「お前、元気だな~。」
「見くびらないで!花屋の朝は早いのよ!」
「そぅか~?」
意味不明なマウントをとられたがどうでもいい。
水袋から水を一口。うん、不味い。
「ねぇ、アル。なんだか不思議な気分ね!人里離れた場所で、静かな森の中で、ちょっぴりわくわくするわ!」
「そうだな。」
「そうだ、アル!私、最近、魔術が上達したのよ!みてて。」
そう言うとスタッフを手に持ち水辺に近づく。
「・・・水よ。我が呼びかけに応えよ・・・。」
?杖の先を見る。何もない。
上か! 違う。
何が?失敗?
そう思っていると、スタッフの先から少し離れた場所から、桶一杯分ほどの水が泉に落ちた。
「どぉ!水の魔術よ!」
「ほぅ、で、どうなるんだ?」
「どうって?」
「攻撃?防御?」
「何言ってんのよ~。水でそんなこと出来るわけないじゃない!
水をためたり、お花に水を上げたり、便利でしょ?」
得意満面のリン。しばらく得意顔にさせておいてあげよう。
「それ、その水は飲めるのか?」
「う~ん。怖いから飲んだことない。この間、水の中に苔みたいのが入ってたし・・・。」
「飲めたらいいのにな。」
「飲んでみる?」
「・・・明るくなってからね。」
暗い中で、何が入っているかわからない水を飲む気にはなれない。
その後、俺たちは、焚火が消えないように木の枝をくべながら、昔の話やおじさん、おばさんの話をした。リンとこんなに沢山話したのはいつぶりだろうか。
気が付くと辺りはうっすらと白み、濃いめの霧が立ち込めている。
天幕を張った効果は出ているのだろうか。天幕は夜露で濡れている分は防げているのだろうか。
俺は焚火に枝をくべながら、湯を沸かし始める。
質素な鍋に、カシュの葉を数枚入れ、簡単な香湯を作る。
「ん、おはよ~。火の番お疲れだったね~。」
香湯の匂いにおっさんが目を覚ましたようだ。
「おっさん、やっぱり年を取ると朝が早くなるのか?」
「まだそんな年じゃないよ~。いやね、明け方にすごい魔力を感じたから、ちょっと起きてたのさぁ。」
「ごめんねおじさん、私かも。」
「やっぱりリンクルちゃんの魔力か~。きみ、将来が楽しみだねぇ。」
「ありがと!」
桶一杯分の水を出すのに、おっさんを目覚めさせるほどの魔力を使ったのか。すごいのか、すごくないのか。っていうか、おっさんは魔力感知もできるのか・・・。多才だな。
「アルバート君、香湯、もらってもいいかなぁ?」
「ご自由にどうぞ。」
おっさんは自分のコップに香湯を注いで香りを楽しんでいる。
「はぁ~。いい香りだね~。甘い蜜でもあればさらにいいんだけどねぇ。」
「そんな高級品ないですよ。俺たちはまだギリギリ食える分しか給金が出てませんからね。」
「だよねぇ。ま、今回の野外演習が終わったら給金が上がるから、もう少しの辛抱だよぉ。」
実際、入隊直後は支度金が貰えるらしいので、それはそれで楽しみだ。
おっさんとの雑談兼情報収集は、ビルットたちが起き上がるまでしばらく続いた。




