【???】
――わるいこ
動物の様相を持った人間。
古来より大陸の伝説にある神と
それに仕えた従者たち。
その従者こそ、現在のわるいことして発現。
その第一症例となったエド。
モルト家の次期当主。
あまりに痛々しく
あまりに禍々しく
あまりに幸運な子。
* * * * *
私の名はヴェルレグス。
モルト家の当主である。
私は本家の人間として、彼を招き入れた。
もちろん母親と一緒に。
モルト家は代々大陸北部を統治する。
しかし彼は当主としての力などなかった。
あるのは、当時の言葉で
言うなら【異形】であること。
私は彼の僅かで
多大な恩恵を引き出そうと考えた。
しかし彼は拒否した。
子供らしい理由で、あまりにうるさかった。
わるいことやらの影響からか
動物の鳴き声も混じるため
耳障りで仕方ない。
クジラ。彼の声は人の声であり
またクジラの声でもあるという。
ひとつの言葉に二重の声。
私の耳と脳を揺らしてくる。
しかもあまりに本能的な意思。
だからこそ、手に負えず
私は頭を抱えた。
* * * * *
ある時私はカッとなり
彼の喉を潰した。
この手で潰れる感覚と音はあった。
苦しさからもだえ苦しむ彼。
しかし物の数秒もすれば
たちまち彼の呼吸は復活した。
すぐ喉は元に戻った。
喉を押さえながらも
ひゅうひゅうと口から放つ声は
言葉ではない。ただの空気の動きとなった。
彼は話すことが出来なくなった。
どうやら体の再生機能は人よりも上。
しかし一度失ったものは戻らない。
声帯。
私は彼のそれを
握りつぶしたため、声を失う。
しかしその周りの喉である部分が
喉として再生した、という理屈だろう
あまりに拙い。あまりに弱々しい。
私にはこの命が、いやこの生物が
生きている事に、ただ蔑むものでしかない。
しかし私は彼を生かすことを選んだ。
それは彼が生きるおかげで
目に見えて領地が、領民が活発になった。
* * * * *
北部はあまり肥沃ではない。
土地柄もあるのか、病気も多い。
医者は居るものの、治療が追いつかない。
呪われた土地と内外問わず言われた。
モルト家はこの土地に根を下ろし
復興を復活を夢見て、代々手を尽くした
と記録される。
しかし結局は夢である。
どれだけ当時の
技術・祈り・発明あろうと
北部は変わらなかった。
今の今まで、自然には屈せざるを得なかった。
だが、エドが発現してから変わった。
土地から取れる農作物が、徐々に質も量も上がった。
病気も重いものは介抱に向かい、かかる病は少なくなった。
クジラ。
伝説によれば神に従いつつ
人々を慈しみ、病を治す力を持った巨人という。
神が死に伏した時、その巨体から
神を大事に背負う役目を負う。
それに追随する従者たちを
同じく背負い、天の国へと向かった。
今となっては、治癒の力は
無意識に使われ、人々を背負う役目は
その効果範囲を広げるという意に
天の国=復興・繁栄へと繋がった
と私は結論づけた。
――エドを生かすことが
この大陸北部を建て直すにうってつけだ。
未来永劫、彼はたとえ当主と
ならずとも、生きてさえいればこの北部は安泰だ。
ならどうする。簡単だ。
神を背負う【方舟】として整えれば良い。
乗客には信仰という
補修材を収めさせればいい。
あの荒唐無稽な宗教に絡ませれば良い。
教祖となる女に押し付ければ
我々の利害は一致する。
私の今後の方針は決まった。
次はエドを従わせる
人物を用意しなければならない。
そう思った時、石組の塔に人影ひとつ。
私は直感した。ろうそくをもって
人影を追いかけた。
運命は彼に、人影の人物を引き寄せた。
私の足は、知らず知らずのうちに
早まっていた――
おはようございます。
遅れての投稿となりました。
申し訳ございません。
続きます。
次話投稿予定は
2021.10.29(月)です。




