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少年ハークとわるいこ研究所  作者: きむら
【わるいこ】も、裁かれるのか
69/322

最初で最後かもしれない職場見学

「アナグマは元気だったか」


グーンが口を開く。

エレベーターの方を向いたまま

声だけがハークに向けられた。


突然の問いかけに

ハークは不意を突かれる。



なぜアナグマ博士について

いまいま聞くのだろうか。


そもそも、話して良いのだろうか。

裁判官というのが、法律とやらで

人を良い悪いで判断して、お金だの

刑務所に送るのだろう。


いまここで話したことがもし博士の

立場が危うくなったのなら。


ハークは必要以上に答えないで

最近まで見た博士の様子を

答える事にした。



「え、あ、え……。

 最後に会ったのは、山に行く前の日。

 何も変わったことはない、と思い、ます」


「……そうか」


あまりにたどたどしく話してしまった。

内心怪しまれたのでは

とハークの頭を過る。


しかしグーンは表情を変えず

立ち止まったままである。


"チンッ"


エレベーターが到着する。

一歩先んじてグーンが入る。

階層ボタン前に陣取る。


「早く乗りなさい」


ハークは急いで

エレベーターへと進む。


エレベーターへ乗り込む瞬間

ハークはグーンの顔をちらりと見る。


真一文字に閉じられた口

しかめられた眉間に

緊張からか強ばった口元。


エレベーターは4階を目指した。



* * * * *



ーー君とユミナは待ってても構わない。


「傍聴席があるか分からない。

 本来なら、今からいく部屋に

 ふたりとも居てくれるなら

 つまらないだろうが、安全だろう」


「……出来るなら、その場に」


「そうか。まぁなんだ。

 期待しないでくれ。

 内容が内容だ。

 こどもが入るようなものでない」



「ーーウィルクスからの話では

 被告人席にアナグマが。

 向こうの弁護士と共に

 関係者としてスタッフ1名が

 法廷に出るそうだ」


「スタッフは誰、ですか?」


「ーー確か、ベルードと言った。

 知り合いか」


「知って、います」


グーンはそれを聞いて

ふぅと息をつく。


エレベーターに張られた

管理会社のシールや天井の隅

自身が押したボタンに目をやる。


「……裁判が始まり、終わるまで

 法廷内で下手な真似をすると

 追加の裁判をしなくてはならなくなる。

 後から分かる嘘をつくことも

 裁判をめちゃくちゃにするために

 暴れることもならん。

 それは関係者なら尚更だが

 いまの君は、私の親戚という

 突然降って沸いた状況にある。

 それがある限り、君とあの子は

 しばらく何があろうと無事にいられよう。

 そこは覚えておいてくれ」


「はい」


「……君くらいの理解力が

 ウィルクスにもあればいいのだが」



エレベーターは四階へとたどり着く。


開いた先は長く赤いカーペットが

廊下の真ん中に敷かれていた。


グーンを追ってハークは

エレベーターを降りる。



* * * * *



「ーーあの、その

 ウィルクスって人……」


「気になるか」


「ユミナが嫌がったのが

 引っ掛かるんです」


「赤ん坊は直感で生きている。

 あの男が単純に嫌なんだろう」


「おやおやおや!

 私の名前が聞こえて来てみれば!

 先生! 私の話をしましたか!」


ウィルクスは廊下の数ある

角のひとつから突如現れた。


「書類は運び込んだのか」


「はい! それはもう!」


「まぁ運びはしたか」


あまりに突然のことに

ハークは驚いて固まる。


グーンは慣れた様子で

待機室とは真向かいにある部屋へ

先にウィルクスが入っていく。



「ハーク。後ろの部屋で

 時間まで待ってても構わない。

 この部屋は、君にはつまらない」


グーンは指さす。

そこは裁判官控室と

札のかかった部屋である。


「おやおや! 甥っ子さんを

 その様にしてよろしいので!?

 生涯一度在るか無いかの

 職場見学になるかと!」


ハークとグーンに

顔を何度も振ってみるウィルクス。


グーンは部屋のドアノブに

手をかけたまま、口を開く。


「……ハークの意思に任せる。

 私は、書類に目を通さねばならない」


「なるほど! では私も!

 甥っ子殿! お待ちしておりますぞ!」


ウィルクスはグーンに続いて部屋に入る。


戸が閉められた途端に中から

バタンドタンと物のぶつかる音

ペラペラひらひらと紙が宙を舞う音

はぁ……と大きなため息に

ははは! とうるさい笑い声が響いた。



* * * * *



「(――裁判官、かぁ)」


一人、廊下に残されたハークは

振り返り、後ろの部屋の扉を開けた。


「あら。お兄ちゃんのお帰りね」


「あうあ!」


ソニアの膝にちょこんと座るユミナ。

入ってきたハークを見つけると

勢いよく小さな手を掲げる。


「あの、……ユミナを

 見てて貰って良いでしょうか。

 グーンさんの仕事、見たいのです」


「あら! いいわよ。

 後で私も見ないといけないから

 それからは二人で待っててもらうわね」


「ありがとうございます」


「うー?」


「ちょっとだけお兄ちゃんは

 おじいちゃんの所に行くんだって」


「うー。うぃ!」


「(言葉が増えてる……?)」


ソニアにお辞儀し、ハークは廊下へと戻る。


待機室の札の下がった扉を閉め

グーンたちがいる部屋に入る。



ゆっくりと扉を開けると

そこは先ほどの騒がしい音が響いた

部屋とは思えないほど整然としていた。


部屋の奥。扉と相対するは

重厚で深い色の木製の机におかれた

書類に向かうグーンであった。


「ーーなんだ。来たのか。

 物好きな子だ」


ハークには目もくれず

書類に目を通すグーン。

彼の顔には細くかつ薄いガラスの

眼鏡がかけられていた。


「来ました! 来ましたぞ!

 職場見学! 私もご縁がありましたら

 こんな日が来るのでしょう!」


「ウィルクス。書類整理は正確に。

 ホッチキスの位置や振られた番号を

 今度こそ間違えるな」


「ははは! 了解しました!」


部屋には言ってすぐ右側。

書類の山に両の手をシャカシャカと

動かしては、ホッチキスやはさみなど

文具でさばいていくのはウィルクス。


ウィルクスは手早く書類をまとめていく。

一種の機械のような決められた動作で

書類が片付けられていく。


「何をしている。

 立ち尽くしてないで

 座るなりしなさい」


「あ、はい」


「ーー緊張の性だろうが

『あ、』はいらん。

 馬鹿にしている気がしてならん」


ハークは縮こまって部屋の真ん中に

設置された黒いソファへと座る。

ここまで読んでいただき

ありがとうございます。


投稿遅れてしまい

すいません。


続きます。

次話投稿予定は

2021.8.27(金)です。

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