エルハーダ裁判所
「おや! これは何かご無礼を!?」
金髪の男ウィルクスは
声も動きも先ほどよりも大きくなる。
慌てた様子でウィルクスは
ユミナの顔をのぞいた。
一方、ユミナは小刻みに震えていた。
ウィルクスから顔を背け
とにかく目を合わせないように
ハークの前身でぐるりと体を動かす。
ウィルクスの荒い鼻息と
収まることをしらない圧に
ユミナは怯えているのでは……
とハークは感じた。
「あの、近い……です」
ウィルクスからユミナを隠すように
ハークは間に入った。
ウィルクスは笑顔が刹那、一瞬だけ引きつる。
「――ウィルクス。仕事が優先だ。
それに、嫌がっているようだが」
「……はッ! これはこれは!
失礼しました! では車を!」
ウィルクスはその場でぐるりと向きを変え
ドタドタと革靴とは思えない足音をたてる。
書類を積んだであろう車へと向かう。
しかしすぐ戻ってきた。
「……先生! 申し訳ありません!」
「今度はなんだ」
「車の後部に入れましたが
乗車できる人数が運転手含め
三人が限度です!」
グーンは額に手をあて
ため息混じりに項垂れた。
* * * * *
ウィルクスに連れられ、車に積まれた
書類の山を、グーンはおおよそ眺める。
書類はそのまま奥から順に
ただ無造作にかつ単純に
積まれた状態である。
「入れ方に問題があるじゃないか。
ここのスペースに……、いやまて
あぁそうだったな。どれがどの書類か
説明しておかなかった」
「ははは! 申し訳ありません!」
「笑っている場合かね。
ここを、こうして……。やはりだ。
大人一人、子供二人は入れたぞ」
ウィルクスは笑い飛ばすが
グーンはため息しつつ、額に手をおいて
天をあおいだ。
「ごめんなさいね。
ウィルクスは悪気があって
やったんじゃないのよ。
ごめんなさいユミナちゃん」
「うー、あうー」
ユミナはまだハークの前身で
顔をうずめて震えていた。
「――いつもあんな感じですか?」
グーンとウィルクスが車を前にして
ああでもないこうでもないとやっている最中
ハークはソニアへ問いかけた。
「え、どうして」
「なんかこう、失礼でしょうけど
付き人、助手ってイメージよりも
師匠、弟子って感じが……」
「ふふ、そうね。あの人には
性格も態度も違う人が合うみたい」
「そういう、ものですか」
「一緒にいた、レムザさんと
イチモさんだったかしら。
なんだか、仲良さそうだったわね」
「(仲良し、なのか)」
* * * * *
「あの、車からすごい音がしますけど……」
ガタガタと震え、プスンプスンと
不安になる音が響き始める。
「ウィルクス。
車の点検は済んである、と
聞いているが」
「ははは!」
「笑ってごまかすな」
一方、乗り込んだソニアは
鼻を押さえている。
「あうー?」
「裁判所まで、ここから、近いわ。
ひとまず、大丈夫、よ」
ソニア婦人は車の窓を全開にし
鼻をつまんでいる。
「そうですな! 急ぎます!」
ウィルクスの運転は荒かった。
エリーとは違った運転、あちらは
あまり運転しないからくる物。
ウィルクスのは、慣れている且つ
車の整備不良からくる物。
ハークは内心、不慣れな車の揺れから
気分が沈んでいき始めた。
喉の奥から何かがこみ上げてきた。
「うっぷ……」
「ハーク君? 大丈夫? もうすぐ裁判所よ」
横に座ったソニアに
背中をさすられながら
ハークは揺られる。
* * * * *
「ここだ。エルハーダ裁判所。
ウィルクスは書類の運び入れを。
ばあさんとユミナは先に行っててくれ。
ハークは、あぁ、トイレを教える。
ついてこい」
「ふぁい……うっ……」
「では先生!後程!」
ウィルクスは書類、ではなく車ごと抱える。
持ち上げたのち、車に押し潰されるも
頑丈なためすぐに立ち直り、書類だけ持って走っていった。
「ユミナちゃんは任せて」
「あうあ?」
「お兄ちゃんはトイレだって」
「う!」
「(わかるのか)」
――エルハーダ裁判所。
エイール大陸南東部。
複雑怪奇な駅から近い場所に建てられる。
おおよそ6階建てだが奥行きがそう無く
大きな出入口一ヶ所から横に広く複数の扉が並ぶ。
そこから日別の裁判ごとに
立て札があり、そこから入退室する。
トイレは階層ごとに一つずつ端に作られていた。
緊急のため、一階のを使うことにした。
中は暗く、くすんだタイル張りが年代を感じさせる。
ハークは洋式トイレへ駆け込む。
「オロロロロ……」
「まだ裁判まで時間はあるからな」
「は、はい」
「落ち着いたかね」
「はい。すみません」
「……まぁ、なんだ。
ばあさんたちの元へ行こう。
資料に目を通さねばならん」
グーンの後をハークは追っていく。
先ほど通ったものの見逃していた
並んだ立て札にハークは目をやった。
裁判の内容は様々だが
その近くに、小さく同じ名前と
思われる文字が並んでいた。
開始時間がずれているため
おそらく一つ終わったら
次の裁判に、という具合なんだと
ハークは考えた。
* * * * *
裁判所内の中心に設置された
エレベーターの前でふたりは待つ。
遠くからはガンガンと何かをたたく音
誰かの声が聞こえていた。
「アナグマは元気だったか」
グーンが唐突に口を開いた。
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次話投稿予定は
2021.8.23(月)です。




