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少年ハークとわるいこ研究所  作者: きむら
【わるいこ】も、裁かれるのか
67/326

やかましい男 ウィルクス

「おぉーい、こっちだー。

 丁重になー!」


電車に乗っていた駅員が

駅構内から駆け足でやってきた

他駅員を呼び寄せる。


「おいおい、これはまぁ多いな。

 全部紙か……。まぁこの前の

 変なババアの得体の知れない品よりは

 まだマシか。なんだこれは」


「あそこで支度している裁判官の資料だそうだ。

 丁重に、と念を押されている。

 なんでも、大陸全体にかかわる

 大事なものだってさ」


「大事なもの、ねぇ。

 そりゃどれもそうだろうに。

 俺たちにとってはただの荷物。

 けど、乗客にとっては大切なもの……。

 はぁ、運んだらその分、金にならねぇかなぁ」


「おいおい、最近金が要るからって

 そう言ってたらまた駅長あたりに

 どやされるぞ。静かにしとけって」


「わかったわかった。

 はぁ、まったく、近くの駅じゃ

 ライオン脱走したり、自殺志願者が出たり

 宗教勧誘している奴が出たり

 軍人ひとりが単独捜査と押し入ったり

 ……俺、そういうのと相手するために

 この仕事選んだわけじゃないのに……」


「いいから運べっての」


駅員たちはテキパキと

紙束を運び込んでいった。



* * * * *



「駅員がひとまず下ろしてくれる。

 そのあとは、奴が来るらしい」


駅に到着し、電車内からは

ぞろぞろと乗客が下りていく。


ちらほらとハークたちの

乗った車両を見る者がいた。


「……来てくれる人は

 もしかして警察、ですか?」


「いや。君たちを突き出そうとは思わない。

 赤子を抱えた子供が、指名手配犯だとして

 誰が信じてくれるかね。……そんな話はいい。

 来るのは私の……なんというか」


「この人にはね、付人がいるのよ」


「付人?」


「助手、といえばいいかね。

 ……変わった奴だ。金髪の、裁判官というより

 肉体労働なんかが似合いそうな男なんだが。

 レムザだったか。あの男と近い年のはず」


「書類を持っていけるほどの、力持ち?」


「そうだ。屈強な男だ。それでいて頭がいい。

 ただ、何もかもうるさくてな。

 それに、匂いもな。遠くにいても何となく。

 つまりだ、奴の存在は、分かりやすい」


すると、眠っていたユミナが

鼻をひくひくさせる。


目元をこすり眉をひそめ

ハークへ顔を押し付ける。


「うううー」


「どうしたユミナ」


「――彼だ。匂いで分かる。

 香水だのなんだのが

 複数混ざったような……」


それは駅舎の向こう側。

改札を抜けた先。


催事で使う、大人50人は

余裕で入る広いスペースを越えて

ようやく駅舎外からでも分かる。


柑橘類系の強い匂いとともに

制汗剤と思われるメンソールの匂いと

男の屈強な汗が混ざった独特の匂い。



「……くさっ!!」


ハークはすぐさま鼻を押さえる。


「初めてなら仕方ない。

 私は慣れてしまった。

 しかしばあさんはーー」


「わたひにひゃ、にふぉいぐぁ」


ソニアはハーク同様鼻を押さえる。

しかしその様子は、乗り物酔いのよう。

顔ちかくで手のひらをパタパタとあおぐ。

においをどうにか払っているようである。



「先生ぇぇぇぇぇぇぇ!

 お呼びですかぁぁぁぁぁぁぁ!

 参上いたしましたぁぁぁぁぁぁ!」


よく通る声。

元気の良さは誰でも分かる。

そして騒がしい。


彼の声に驚いた乗客や通勤客が振り返る。

人目をはばからず手を大きく振る男。


グーンがいう『奴』である。



* * * * *



「先生! お呼び頂き、有り難い限り!

 私は何をすればよろしいでしょうか!」


「もっと声を潜めろ」


「……………!」


口を閉じつつも、体がどこもかしこも

今にも動かさんとウズウズしている。

だんだんと腕が肩がふるふると震える。


金髪の男。短く整えられているものの

ぞわぞわと今にも動き出しそうなほど

ふわふわと毛先が踊っている。

筋骨隆々で、真新しい黒のスーツを

それも細い金の線が入ったものを着る。

ぱつぱつで、今にも破けてしまい

そうなほどである。



「そこまでしろとは言っておらん」


「はい! 不肖このウィルクス!

 誠心誠意に取り組むコトがモットーで!」


ウィルクスと名乗る金髪の男は

大げさに笑って答える。


「はぁ、まぁなんだ。

 あそこの書類を運んでくれ。

 次の裁判で使う物だ。漏れなく頼む」


「はい! わかりました!」


ウィルクスは、その体格に相応しい

足腰をシャカシャカ動かす。


手慣れた作業のようで

書類はきれいさっぱり移動された。



「先生! 今度はお担ぎしますか!」


「なぜそうなるのだ」


「運ぶのは他には……ッ!」


キョロキョロと

周りを見渡すウィルクスは

ハークと目が合う。


一瞬でその目は頭の先から足先まで

全てを確認する。また、ちょうど

抱えていたユミナにも目を向ける。


「おや!? 先生! この子達は!

 お孫さんかなにかで?!

 このウィルクス! 聞いておりませぬ!」


「あ、あぁいや、親戚の子だ。

 ちょうど裁判と重なったのだ。

 そう逐一必要ではないことは連絡しない

 と最初に伝えてあるだろう」


「親戚! わかりました!

 初めまして! ウィルクスと申します!

 よろしくお願いいたします!」


ウィルクスは身体を折り畳み

ハークへ礼儀正しくお辞儀をする。


「あ、え。ハ、ハーク、です」


ハークもそれに合わせてお辞儀をした。



ふとウィルクスの身体から

ふわりと光に反射する何かが

宙を舞うのをハークは目に止めた。


きっと話にあった香水か何か

とハークはそう考えた。


しかしハークに抱えられた

ユミナは鼻をひくひくさせると

すぐさま飛び起きた。


そして目の前でお辞儀するウィルクスと

目が合うと、震えた。


――あぁぁぁあうぁぁぁぁぁぁぁぁ!

ここまで読んでいただき

ありがとうございます。


続きます。

次話投稿予定は

2021.8.20(金)です。

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