鉄槍と触腕
ーーごめんよハーク君。
イチモの鉄槍が
ハークからずるりと抜かれる。
滴るハークの血を
まるで生き物のように
鉄槍は一滴残さず吸い取った。
「ーーまだだ。
これでは、足りない」
イチモはもう一度
ハークへ突き立てようとする。
殺気。
冷たい圧。
イチモは自身の背後から
此方へ向けられる圧に
振り向くことなく
鉄槍を背後へ回す。
それと同時
鉄槍に響く甲高い音。
「……レムザ、さん」
イチモは鉄槍を薙ぎ払う。
ようやく背後に居た人物
レムザと相対した。
レムザの周りで見えない何かが
ドスンッとのたうつ。
「イチモ。それは何だね。
鉄杭か、それとも槍か」
「――大鉄釘。
我が神から生み出された鉄で
打たれ創られた代物、です」
「我が神、かーーッ!」
ウェネスの切っ先が
レムザの首を狙う。
しかしその切りっ先が
首を貫くことは出来なかった。
レムザは素早く前面を薙ぎ払う。
その強烈な風圧に
イチモは後ろへ戻らざるを得なかった。
それと同時、イチモとハークと
宙で交差する。
勢いすさまじく、ハークの身体は
レムザの足元にまで引き上げられる。
「ハーク君が先、ですかッ!」
イチモはそれを目で確認すると
すぐさまユミナのいるであろう
位置へと身を引く。
イチモの空の両手が
ユミナに触れようとする瞬間。
「や、メ、ろ!」
ハークはレムザを振りほどき
彼を踏みつけ目の前の
イチモへ突進する。
その勢いにとっさの事で
レムザは後方へと押しやられてしまう。
伸ばした手も、見えない何かも
ハークを捕らえられなかった。
* * * * *
ハークは竜の足で床を蹴る。
人の走り方に
竜の強靭な脚力を合わせる。
速度は大人よりひとつ頭を抜ける。
必死に伸ばした手は竜の手となる。
だが、その手腕は細いハークの腕を
二回り以上も膨れ上がらせる。
何枚も折り重なる
硬い鱗に覆われた腕は
竜の足の速度に押され
ひとつの強力な武器となり得ていた。
「ハークッ!」
レムザの声。
きっとユミナを助けずに
戻るように説得する声だ。
ハークは突き進む。
ユミナが涙を流してハークを求め
その短い手を伸ばす。
その時、ジョーの腕が
おもむろに動き、ハークの腕を
力の限り掴みかかる。
「オ、オー、グローデ、ィエー、グ……!」
ジョーは元の人間の姿に戻ったようで
虚ろな意識のなか、何かをなそうと
必死であった。
「そう。そうだ、ジョー。
君はこれで、いい」
イチモはそう呟き
ユミナを天へと放り投げる。
「ユ、ミ、ナッ!」
それに気を取られたハークの目は
天のユミナを追いかける。
「ハークッ!伏せろッ!!」
その声を耳にしたのは
正面からの刺突の後。
べったりと顔に張り付いて
落ちなかったイチモの笑みが
一瞬だけ眼光が鋭くなる。
鉄槍を両手で掴み
何がなんでも獲物を
仕留めんとする狩人の目であった。
「カ、ハ……」
二度目は致命傷となる。
ハークの血は身体を伝うことなく
流れ出た分は鉄槍に全て吸い付くされる。
「イチモ。私はこの眼で理解した。
君を、断じて許さんッ!」
レムザの伸ばす腕から
現れたのは赤黒い触手の束。
束となり1つの巨大な触手と変わり
イチモへと振り下ろされる。
ぬらぬらと束をなした触手。
ゆっくりとその皮膚が収縮を繰り返す。
緩慢かつ大きく脈動し、生きていることを
示している。
「ようやく。ようやくその本性を。
貴方が、何のわるいこかと思えば。
ははは、本当に赤い悪魔じゃあ
ないですか! 噂は本当のようですね。
初代リーダーは伊達じゃない」
「――私のあだ名など、過去の事などいい。
今は目の前の、己の身を呈してまで
ひとりの女の子を救おうとした子を、
また同じく赤ん坊を身を呈する子を、
私は救わねばならないッ! 絶対にッ!
それが私に課した誓いだッ!!」
レムザの束の大触腕に力が入る。
イチモが体勢を変えようとしたとき
足元が動かない。
触手が脚に絡み付いていた。
「この、タコがーー」
ここまで読んでいただき
ありがとうございます。
投稿遅れまして
申し訳ありません。
続きます。
次話投稿予定は
2021.7.12(月)です。




