第四十一話 異端児
「では見せようか。私の特技、【創造】を」
恐神は口角を上げ、シンと目を合わせた。
「初めて聞く戦闘タイプだ。さては戦闘用じゃないな?」
シンがそう言った瞬間、右前方で煙草をふかしながら座る、リッカが声を発した。
「あらあら坊や。あまり見くびらないほうがいいわよ。その人、こわーいから」
口調は高飛車で、長く美しい脚を組んで座っているあたり、まさに女帝といった感じだ。
「確かにそうですねぇ。覚えておいたほうがいいかもしれません。管理官はこの世で一番強いアーティーなんですよ」
今度はすぐ近くに座る、メガネ姿が知的なサーバスが、独り言に近いかのような発言をする。
だが、それに反応したのは、シンではなく、サキだった。
「この世で一番? それはキングさんかリッカさんではないの?」
すると、名前を呼ばれたキングが直々に答えた。
「いや、それはない。私も認めているよ。アーティー最強は恐神最高管理官だ」
コルンは「へぇ……」と声を漏らしていた。
「まあまあ、それは一旦置いておこう。シン君、君から一つ特技を借りるよ」
仕切り直しといった具合に恐神が手を叩いて注意を引いた。
「特技を借りる……? どういう事だ?」
「そのうち分かる。いいね?」
シンチームの3人は、一切状況を飲み込めていない。
「それじゃあ始めようか。【創造】開始」
恐神の前に、AIが映し出した画面が表示されている。
「ほお……シン君、なかなかに凄い特技ストックの量だね」
画面にはなぜか、シンが持っている特技が全て表示されていた。それに、他のアーティーも食いつく。
一番初めに興味を示したのは、根っからの関西人、砲撃型のアントンだった。
「うぉぉ!? なんじゃぁ!? 【反撃速射】なんて持っとるんかいな? 砲撃型のワイでも持ってへんで、そんな上位特技!」
次に、天使のような可愛い顔で、皆のアイドルだというヴィーナスが反応した。
「わぁ、すごい! トレース型なのに【イメージ現化】持ってるんだぁ!」
シンはなんと反応すれば良いのか困惑して、ただ頷くだけだったが、これで一体何になるというのだろう。
「刮目したまえ」
『新特技 を 創造 します』
ウィィィィン……
数秒間、部屋が静まり返った。そして、恐神のAIの声が喋り出す。
『特技【瞬間移動】と 特技【クロックストップ】を掛け合わせ、新特技【時空移動】を創造 しました』
「新しい特技を創造って……! まさか!」
「そうさ。私の特技【創造】は、既存の特技二つを融合してより強力な特技に進化させられる。しかも、元の特技は消えない。自分の特技でも他人の特技でも関係なく、だ」
すると、強面のパワー型アーティー、ヘッドが言った。
「なあ? 分かったろ、新入りよぉ。恐神さんには絶対勝てない理由が。いくらこっちが挑んでもそれより強い特技を創れる恐神さんは絶対に負けないんだよ」
シンは笑いながら呟いた。
「やっと合点がいった。なぜアーティー優勝者のあんたらがここまで管理官に従順なのか」
すると、どこからともなく若い声が聞こえてきた。
「一括りにするな。ヘッド」
その声の主は、これまで一言も発言をしなかった青年、バキだった。この男、年齢は20歳とシン達とさほど変わらないのだが、明らかに異質な雰囲気を醸し出している。
「相変わらず気に食わん奴やわ……バキ。お前は例外じゃ」
「フン。嫌味な言い方をしやがる。悪いが俺は馴れ合いが嫌いでね。できれば今すぐ退出したいのだが。管理官」
それを聞いた恐神は眉間にしわを寄せた。
「バキ。まだシン君たちに君の能力について詳しく説明しとらん。もう少し待ちたまえ」
見るからに苛立った様子のバキが立ち上がる。
「あぁ? なんでこいつらに俺の説明をする必要がある?」
「チームで戦う以上、互いを知ることが大切なのは当然だろう」
恐神の説得もむなしく、バキは退出しようと、出口の扉の前に立った。
「何度も言わせるな。俺は戦闘には参加するが、馴れ合いはしない。宇宙人野郎と戦うのも俺1人で十分だ」
バタン!
扉の閉まる音が、沈黙を連れてきた。最初に口を割ったのはサーバスだった。
「私が説明しましょうか? 管理官。バキについて」
「あぁ……そうだな。すまない、私は少し頭がいっぱいでね」
疲れた様子の恐神の代わりに、サーバスが解説してくれるようだ。
「それじゃあ御三方、私から話しましょう。まず、バキ君の戦闘タイプ"属性型"から。実は、属性型を持つアーティーは現在、地球上にただ1人、彼だけなんです。元々の個体が優秀でああなったわけではなく、完全なる遺伝による戦闘タイプの引き継ぎ。彼の一族は皆、改造手術を行うと"属性型"となるのです」
「それなのに今は地球上で1人ってことは多分……」
「そうなんですコルンさん。良い勘をお持ちのようですね。彼の両親、親族はある犯罪組織に殺されてしまいました。現在はその組織は解体されていますが、実は間接的にこのアーティー協会が絡んでましてね。なのでバキは協会に対しての反抗心が強いのです」
今度はサキが質問をした。
「それなのにアーグラに出たの?」
「ええ。その犯罪組織というのは、我々がまさに今討伐しようとしている、バビヨンを利用して世界を乗っ取ろうと企てていた輩でしてね。つまり、バキの復讐相手がバビヨンだから、今は渋々センテレントエリアに住んでいるというわけです」
そして、シンへと会話が流れていった。
「なるほどな。だが、あそこまで自分に自信があるということは、相当強いんだろ?」
しかし、その問いに答えたのは、今まで会話をしていたサーバスではなく、アーティーの王、キングだった。
「強い………か。そういう話ではないな」
「ど、どういうことだ??」
シンにはその言葉の意味がわからなかった。
「バキの戦闘タイプ、属性型は、七種類のフォースを操って戦う。火、水、風、土、木、光、闇だ。フォースを身に纏うと、属性によってステータスが変化する。ヤツは自由にそれを切り替え、敵の相性によって使い分けることができる。それぞれのフォース毎に使える特技も違う。戦闘ではそれらを一瞬で判断する能力が必要不可欠。つまり、属性型と言う戦闘タイプが強いのではなく、"属性型のバキ"が強いのだ」
冷静だが重みのある喋り方をするキング。彼ほどの実力者が言うのだから間違いないのだろう。
「まあ、あの子、確かに頭はいいわよねぇ」
リッカがため息を吐くのと同時に発言した。それは独り言のようにも、全体に共有すべき愚痴のようなものにも感じられた。
「ワイはあんましやなぁ。バキの性格はどーも好きになれへん」
アントンが訛りまくった関西弁で文句を言った。
ヘッドは元々怖い顔をさらにしかめながら腕を組んで下を向いたままだった。
ヴィーナスは場の雰囲気に耐え切れずおどおどしている。
コルンとサキは落ち着いている様に装っていたが、内心は胸がざわついていただろう。
パン パン
乾いた拍手が場を静めた。
この状況でこんなことができる人間は1人しかいない。
「まあまあ。一旦この場はお開きにしよう。バキ君はすでに退出してしまったが、当初の目的は果たせた。皆、ご苦労だったね。明日から早速、新たに3人を加えたトレーニングを始めるからね。いつも通り、10時にトレーニングエリアのセクション1に集合してくれ」
恐神がそう言うと、残りの6人も続々と退出していった。シン達もそれに続き、飛行して各々の家に帰って行った。
帰宅してから、一流シェフの作った夕食を食べている時も、シャワーを浴びている時も、自室のベッドに腰掛けて外の世界のニュースを見ている時も、シンの脳裏にはずっとバキの存在が薄っすら残っていた。
◆
そして、翌日。午前10時。
定刻通りに、トレーニングエリアにある、巨大なドームの様な建物の中に入ると、全員が揃っていた。いくら時間前に着いたとはいえ、新入りにも関わらず一番遅れたことに引け目感じる。何より意外だったのは、バキがちゃんと来ていることだった。
「おはよう皆。たった今、個人の端末にこのチームの隊形を送信した」
恐神がそう言ったので、sariに頼んで目の前に表示させた。
「見ての通りだが、一応説明する。このチームは大きく分けて3段階。前衛、中衛、後衛だ。バビヨンの生態からして、この三角陣営が一番効率的と考えた」
彼の言う通り、ピラミッドの様にそれぞれが配置されている。一人一人の位置と主な役割、理想とする動きが書かれている。
「では、まず前衛からだ。1人目はキング。キングには全能型のハイスペックを活かしてとにかく攻撃を加えて欲しい。一番先頭でも問題ないだろう」
当の本人は、「うむ」と納得しているようだ。
「そして、リッカ君。言わずもがな、前衛の防御は君に一任する。とても重要な役割だが、頼んだよ」
「うふふ。任せてちょうだい管理官」
相変わらず優美な容姿と仕草の女帝が、そこにはいた。
「えーそれから、ヘッド君。君もキングと同じく、そのパワーを活かして敵を殲滅して欲しい。だがしかし、君の特技は燃料の消費が激しい。少し中衛寄りの前衛にさせてもらった」
「はい。分かりました」
普段無口なヘッドが渋い返事をした。
「次からは中衛だ。アントン君、それからコルン君。援護射撃をしながら、合間を見て前衛の接近戦をサポートしてくれ」
「は、はい!」
「はいよぉ!」
名前を呼ばれてビクッと肩を震わせるコルンと、嬉々とした表情のアントンが同時に返事をした。
「そして、サキ君。君には中衛の防御を任せる。死角からの攻撃はリッカ君では捌けない、そこで君の出番だ。後は状況を見て前衛の防御にも加わってくれてもいい」
「もちろんよ。やってやるわ」
自信満々な表情で意気込むサキ。以前にも増して頼もしくなっているように感じた。
「後はサーバス君だ。君は盾にも矛にもなれる貴重な存在だ。だからこそあえて中衛に配置した。これで中衛の安定感が高まるだろう。中衛の方が、【工場】の特技も使いやすいはずだ。」
「承知いたしました管理官。最善を尽くします」
サーバスは丁寧にお辞儀をして応えた。
「後衛はもちろん、サポート型のヴィーナス君と私だ。ヴィーナス君は修復、強化、私は【創造】で戦いに貢献する。本当は私も前線で戦いたいのだが、そうなると後衛が気薄になってしまうのでね。背中は任せてくれたまえ。ヴィーナス君もね」
「はーい、 精一杯頑張ります」
可愛らしい笑みを浮かべ、返事をした。
ここで、シンはあることに気づいた。
あれ……? 俺とバキの名前をなくないか……?
画面に表示されているのは、恐神を入れた9人のみだった。
思索にふけっていると、恐神が答えを喋り出した。
「最後に、バキ君とシン君。君達2人には、隊形はない」
「え……?」
「よく考えれば、そちらの方がいいんだよ。フォースで縦横無尽に暴れるバキ君と、トレースして何にでも対応できるシン君はね。自由に戦ってくれ。言うならば、遊撃部隊だ」
すると、ここまで無口だったバキが喋り出した。
「俺の性格なら……悪くない作戦だ。だが管理官よぉ。なんで俺だけじゃなくこのガキもなんだ?」
その言葉にシンが反応する。
「ガキだと……?」
もちろん、バキもひるむことなく言い返してきた。
「だってそうだろ。俺はトレース型アーティーと戦ったことはないが、明らかに俺の方が上手だ」
いくら年下とは言え、シンも黙っていられなかった。
「たいそうな自信だな。俺も負ける気はさらさらないよ」
「ほぉ……倒し甲斐のありそうなガキ」
不敵に笑うバキの目には、戦いに飢えた獣のオーラが宿っている。
そして、それはまた、シンも同様だった。




