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AI棒  作者: 君名 言葉
第三章 アーティカルグランプリ編
29/50

第二十九話 雪辱の女帝

「今戻った。どんな状況だ?」

 競技場内のホテルに着き、重いドアを開ける。コルンとサキが椅子で、菊間博士はベッドに横たわってテレビを眺めていた。

「今まさに一回戦が始まるところじゃぞ。一回戦は推薦枠のバーブが出とる」

「お、初っ端バーブか。どれどれ……」


『さあ!いよいよ決勝トーナメント一回戦です!ここでお互いのチームを紹介します!まずは、チーム"バーブ" 今大会主催の特別訓練では良好な成績を残しました!推薦枠での出場です。全員の装備評価がA以上のこのチーム、どんなコンボが生まれるのか、楽しみです!』

 司会のよく通る声が聞こえて来る。どうやら、奴らも装備をレベルアップしたみたいだ。

『さあ、対するは、チーム"クイーン"です!なんと前回準優勝者の、クイーン率いるチームが一回戦から参戦です!前回の雪辱を果たすことは出来るのか?!』


「どっちも強そうだな。バランス的にはバーブのチームの方がいい気もするが」

「そうだね。クイーンは前回準優勝者だけど、チーム戦の導入に1番反対してたらしい」

 コルンが端末で調べながら言った。

「そりゃそうよ。だって、単体の方が勝率は高いもの。とくに彼女は"化学型"だし」

「化学型か。最近増えたよな、前までは特殊型扱いだったのにな。まあ、時代の流れみたいなもんか」

 化学型は、化学反応を駆使して戦うタイプ。触れたのものを溶かしたり、腐敗させたり、風化させたりできる。爆発も起こせて防御もそこそこ強い。ただ、1つ1つの特技を出すのに時間がかかったり、接近戦に弱いのが弱点だ。


『それでは参りましょう。ちなみに解説のニックさんは風邪でお休みです。両チームとも、フィールド内に入ってください!』

 まったく。解説が風邪引くなよ……決勝の日に……

 透明なバリアが貼られた競技場内に、合計6人のアーティーが入ってくる。ルールは、残虐行為や観客への攻撃、あとは自爆が禁止されているだけで、ほぼないも同然だ。それに、バリアがあるので基本攻撃は観客には当たらない。勝利条件は、敵のアーティー全員を全滅させるか、敵チーム全員を限られたエリア外に出すこと。それだけだ。この透明なバリアは、特殊粒子なので、アーティーの特技でも壊れない。


『準備が整ったようです。それでは………アーティカルグランプリ決勝トーナメント第一回戦………レディ………ファイッッッ!』


 ゴォォォォン!


 戦いのゴングが鳴り響く。観客の盛り上がった歓声は、まるで地響きのようだった。

「先手を打つぞ、グレン、まずは相手を撹乱しろ」

 テレビが、僅かに会場のバーブ声を拾っていた。

「了解ですバーブ様。特技【分身】!」

『おおっと!? 先に仕掛けたのはバーブチーム! 【分身】で、グレンさんがみるみる増えていきます!これでは本物がどこかわかりません!』

 そして、グレンの分身は、クイーンチームを取り囲んだ。必死に抵抗するが、数が多くて間に合っていない。


「テンド! 作戦通りに!」

 バーブがテンドに指示を飛ばす。テンドは、特別訓練で最初の島に隠されていたアーティーの世話をしていた、バーブの手下だ。

「お任せください! 【パワー増加】発動」

 テンドがバーブにステータスアップ特技を発動したようだ。そのまま、バーブが一発目の特技を繰り出す。

「クイーン! 悪いが、これで終わりだ。【地震】発動!」


「あれは! 特別訓練で使っていた特技だわ」

 サキがテレビ越しに言う。

 一瞬だけ浮遊したのち、大きく振りかぶり、拳を地面に叩きつけた。競技場全体が揺れるだけでなく、強い衝撃がクイーンチームを襲う。圧倒的なパワーを持つバーブにしか出来ない芸当だ。

「くっ……! あなた達、散りなさい!」

 クイーンもすかさず指示を出した。どことなく雰囲気がサキに似ているクイーンだが、ここはひとまず衝撃を和らげるために、3人とも散り散りになった。今の逃げ方でわかったが、クイーンチームの1人は空中型かもしれない。

 だが、パワー増加をかけられたバーブの【地震】の威力は想像以上に強く、クイーンチームは厳しい状況だ。どうする気だろうか。


「ノア! すぐ回復!」

「はいは~い。いくわよ~クイーンさんとハルキ~」

 どこか気の抜けた声の女子が、【全体修復】を発動した。この特技は、自分を含め3人一斉に傷を癒すことができるサポート型のレア特技なので、もう1人はサポート型だったようだ。ハルキという、1中学生くらいに見えるアーティーが、空中型。なかなか珍しいチーム編成だった。


「ボス!? グレンさんの分身ももう消えてきてますし……どうします!?」

 テンドが戸惑った声を出した。

「ええい。落ち着け。とりあえずあのサポート型の女を潰さんことには変わらんだろ。集中攻撃だ」

「フン。そんなことさせるもんですか。ハルキ! 私とあなたでノアを守り抜くのよ! ノアはサポートし続けて!」

「オッケーです、クイーンさん!」

「わかりました~」


 それから、2チームの正面衝突が続いた。相手の邪魔をしながら攻撃するグレンと、バーブチームのステータスアップをしながら隙を窺うテンド、それに対抗して得意の空中戦で対抗するハルキ。そして、互いのチームのボスの一騎打ち。

 バーブのありえないパワーに1度は危機に陥ったクイーンだったが、ギリギリでノアの修復が間に合い、事なきを得た。ひたすら特技を発動して反撃する。それなりにバーブに効いているようだった。



 それから数分後。


「くそ……こっちは修復がないからきついな……ダメージが蓄積してきやがる。グレン! テンド! 一旦退け!」

「逃がすもんですか! これで終わりよ………【ランドインパクト】発動!」

「なにぃ!?」


 ゴゴゴゴゴゴゴ…………


 バーブの周りに、巨大な岩が出現したかと思えば、その岩が一瞬で砕け散り、すごいスピードでバーブのボディにぶつかっていく。化学反応の“風化”を利用した特技のようだ。

「うぉぉぉぉぉぉぉ!」

「バーブ様!」

 グレンが叫んだ。

「よそ見してていいのかなぁ!? おりゃっ! 【クロスカッター】!」

 一瞬のの隙を見せたグレンに、クイーンチームのハルキが斬りかかった。


『バーブチーム、バーブさん、グレンさん、脱落です!』

 急すぎる展開に、観客もざわついていた。

 バーブチームは、残りテンド1人となってしまった。

「なんてこった……」

 テンドの声は明らかに悲痛だった。

「どうする?3対1だけれど。続ける?」

 クイーンが残されたテンドに尋ねた。クイーンとしても、これ以上無駄な戦闘はしたくないのだろう。

「ま、参った………降伏する………すいません、バーブ様……」


『終了!!!バーブチーム、テンドさんの降服により、勝敗が決定しました!勝者は……チーム"クイーン"!』


 おぉぉぉぉぉぉ!

 今日イチの観客の盛り上がりだ。

「すごいね。あのバーブが倒されちゃうなんて……」

 コルンが呟いた。

「編成の問題かしら。確かに、クイーンのチーム編成は強力だもの」

 サキも同情するように言った。

「まあ、それだけどちらも強いって事だろ。お、2回戦は例のチームだぞ」


 テレビに表示された文字には、チーム"メダロン"VSチーム"サンドラ"とあった。

 この、"メダロン"というアーティーこそが、昨日シンが危惧していた黒ずくめのアーティー集団のリーダーで、初めて見る同じトレース型だった人物だ。

「メダロン……トレース型じゃったら聞いた事がある名かと思ったが、全然知らんのぉ」

「まさに黒ずくめで怪しいチームのリーダーにピッタリって感じだ。それにしても、俺らがシードでよかった。これで、奴のセットしている特技が最低1つ判明するんだからな」


 しかし、シンはこの時、テレビに映る3人の黒いアーティーに、胸騒ぎがした。


 さっきからなんなんだこの違和感は……?


 気持ちの悪い不安感を拭えないまま、その3人は競技場内に入ってきた。

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