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バレンタイン戦役  作者: 龍田蔦々
東北円卓編
9/11

魔光石研究所 1

春休みって……素敵ですね。

東北地方、皇国軍魔光石(まこうせき)研究所。

二度の津波の経験則から山間部に建てられたその施設では、魔力機甲であるクルセイダーの動力源である『魔光石』の研究、利用方法の模索が行われていた。

無論、極秘施設である。

「うん、極秘の筈なんだけどなぁ。久しぶりだよ、こんなに来客があるのは。」

と、そうつぶやいたのは眠そうな目で丸眼鏡をかけ、白衣を着た少女。

この研究所のたった一人の職員であり所長である天井(あまい)菓子(かこ)博士だ。

「何だ、何か文句でもあるのか?」

そう言って凄むのは特別独立部隊『聖釘部隊』隊長、組町(くみまち)(ほたる)

見た目は少女中身はそこそこ年食ってるコンビだ。

二人の間には、何らかの因縁がありそうである。

が、それはまた別の話で。今回注目すべき点はそこではない。

なぜ、九州担当であるはずの聖釘部隊が東北にいるのか。

なぜ、魔光石研究所にいるのか。

その答えは三日前に遡る。



ゴディバ級を撃退した次の日の朝。

九州福岡基地、特別待機室。

「おい、話って何だ!まさか靴木に何かあったのか!」

「ま、まあ落ち着いて、落ち着いてください!」

基地の司令官である勇田は組町に絞められていた。

「ん、む。すまん。」

「ふあああああ、で、話って何なんですか?」

「灯くん、やっぱり眠い?」

遅れて部屋に入ってきたのは聖釘部隊の隊員である灯と火採だ。

「あ、それも含めて。えーっとですねぇ報告すべき事が三つほどあるんですよ。」

「三つ?」

勇田が意外と軽い口調だったので、三人はそんなに深刻な話じゃないと思い、胸をなで下ろした。

「で、内容は?」

「と、それなんですけどね。良いニュースと悪いニュースとなんか良く訳の分からないニュース、どれからが良いですか?」

沈黙が三人を包んだ。

気まずい雰囲気が流れる。

「じゃ、じゃあ、良いのから話してもらおうか。」

「靴木隊員の命に別状はありません。」

ほっ、と胸をなで下ろす三人。

だがすぐに組町が怪訝な表情になる。

「命に別状はない。つまりそれ以外に何かあるのか?」

その問いかけに勇田は苦い表情を浮かべた。

「その……それが訳の分からないニュースなんですが……。」

「な、なんですか?」

「いや、そのですね。靴木隊員、女性になったそうなんです。」

再びの沈黙。

……。

「「「は?」」」



「すまん、マジで良くわからんかった。」

「ですよね、よくわかります。」

「うむ、私みたいなものか?」

「いや、ちょっと違うようです。魔力がらみではあるんですけど。」

組町はいたって冷静だった。

まあ、他の二人は未だによく分かっていないらしいが。

「で、悪いニュースは?」

「ああ、それですね。そっちはまだ現実味がありますよ。聖釘部隊が九州担当から特別遊撃隊になりました。つきましては九州担当は現・特別遊撃隊である聖歌部隊へと引き継がれます。入れ替わりですね。春の人事だそうです。」

まだ現実味のあるニュースによって、惚けていた二人も引き戻された。

「……てことはおれたちは異動か?中央に行くのか?」

「そうね、担当が無くなって中央に行って事務仕事……とかそんな感じかしら。もしくは近衛の聖十字部隊のお手伝いとか。」

「そうだな……航海部(リバースクルス)の手伝いだと思うと少し癪だが。」

思い思いに感想を言うが、先ほどまでの驚きはなかった。

しかし、予想とは違う言葉が勇田から出る。

「それが、中央勤務じゃなく、東北らしいんです。」

「東北だぁ?何でまたそんなド田舎に?」

「何でも、要請があったとか無かったとか。」

掃除屋(ロンゴミアント)からかぁ?あいつはそんなことしなくても良いだろ。」

「いえ、違います。要請があったのは――」

「あ、そう言えばあそこ軍の施設がありましたよね?確か名前は――」

組町の背中に冷や汗が流れる。

「「魔光石研究所」」



と、言うことで魔光石研究所。

靴木が寝ているベットを挟んで天井と組町がにらみ合っていた。

「しっかし不思議だよな。男が女になるなんて。」

「あら?灯くんも女の子になりたかった?」

「い、嫌それはない……待てよ、女の子になれば火採さんと一緒にお風呂にはいrぶふぉごッ!」

組町の自動的な鉄拳(オートマチック)に沈む灯。

の屍を乗り越えて火採がベットの縁に座った。

「にしてもねぇこんなグラマラスな体型になってるなんて。」

「恥ずかしいんで言葉に出すのやめてもらえますか、火採さん。」

「おう、靴木。お前の体そのまま私に寄越せ。」

靴木はあの戦いの後丸一日寝込んでいた。

そしてその間、たまたま人の目がなかったその一瞬のうちに靴木は性別が変わっていたのだった。

「黒髪ストレートでそこはかとなく美人でそのくせそこはかとなく可愛くてその上すげーセクシーな体型で男が見たら十中十一子孫を残したいと考えるような容姿になった気分はどうだ。」

「隊長のおかげでそんなに良くないですよ……。」

靴木は上半身を起こした。

病院着の上からでも分かるバランスの整った双丘が布団の中から露わになる。

「さて、こうなってしまった原因だ・け・ど、検査の結果例のドリンクが原因だと分かっちゃった。はい拍手~。」

天井がカルテを見ながら言った。

ちなみに例のドリンクとはあの問題作『マリョクビタン(ぜぇ~っと)』のことだ。

「んーやっぱり試作品だと何が起こるかわからないねぇ。」

「……やっぱりあれ天井(おまえ)が作ってたのか。」

「まぁね~。」

ビキビキ、と組町の額に青筋が走る。

「で、何か対策はあるのか?」

「いや~時間経過に任せるしかないんじゃなーい?」

ビキビキビキ、とさらに青筋が走る。

「で、この責任はどう取ってくれるんだ?」

「さぁ?私はとらないヨー。」

組町が拳をギュッと握ったかと思ったら、いつの間にか天井の胸ぐらを掴み、壁に叩きつけていた。

「あうっ、どうしちゃったのさぁー。」

「ふざけるのも大概にしろよ。」

「……はぁ、ハイハイ。全く、蛍ちゃんは昔っから部下のことになるとすぐ怒るんだから……。いつか身を滅ぼすよぉ、そんなんじゃ。」

「臨むところだ。」

「ならいいさ。」

組町は機嫌悪そうに手を離した。

「あのー隊長。」

「ん、あぁすまない靴木。見苦しいところを見せたな。」

「ああ、いえ、そうではなくて、その……」

靴木は何ともばつが悪そうな顔をしていた。

靴木にしては珍しいその表情に聖釘部隊の三人は少し困惑する。

というか、絶世の美少女の表情はどのようにしても映えるもので、ばつの悪そうな表情も、はかなさを演出して何とも美しかったのだが。

「その、お風呂、入りたいんですけど、どうしましょう。」

「……マジで?」

「マジです。」

ちなみに靴木は童貞である。

今も自分の体にいろいろ困惑している最中である。

性転換みたいになったらどうなるんでしょう。

もちろん、自分の意図しないところで。

それこそSFとかファンタジーの世界ですけど、ちょっと楽しそうではありますね。

できれば美少女が良い、とか。

生理は嫌だなぁ、とか。

自分の胸をもむ、とか。

たゆーんたゆーんしたり、とか。



我ながらアホだ、こいつ。

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