表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天下の鍵は海にあり!~対馬から始める交易国家運営録~  作者: ワタツミ
第三章 九州争乱編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

58/72

56話 大村純忠

初めての執筆となります。

時代考証などが甘い部分がありますがエンターテインメントとしてお楽しみください。

頑張って更新頻度を上げていきます。

-----

ほのぼの系も書きたくなり、2作目も始めました。

箸休め的な更新になりますが、歴史物と一緒に読んでいただけると嬉しいです。


氷が解ける音をきく-転生バーテンダーの気ままなスローライフ-

https://ncode.syosetu.com/n6126mb/

弘治三年(一五五七年)六月。


利興が怡土(いと)の本拠を立ったのは、利繁からの緊急の文を受け取った翌朝のことだった。

供回りはわずか二◯人。

大軍を動かせば、それは龍造寺を刺激するだけでなく、北九州に影響力を発揮する大友義鎮に隙を与えてしまう。

利興はあえて軽装を選び、自ら小型の高速船の舵を握る勢いで、海路、彼杵(そのぎ)の地を目指した。


玄界灘から平戸の瀬戸を抜け、穏やかな大村湾へと滑り込む。

利興が広げた交易の網は、今や博多、怡土、唐津を繋ぎ、九州の端である長崎の入り江へと届こうとしていた。


————————————————————


三城城(さんじょうじょう)の城門の前で、大村純忠(おおむら すみただ)は自ら客人を待っていた。

二十四歳。利興より二歳年長ではあるが、未だ若年と言っても差し支えない。

利興が馬を降り、その土に足をつけた瞬間、純忠の鋭く、それでいてどこか悲痛な光を宿した視線が彼を射抜いた。


佐伯利興(さえき としおき)殿か」

「大村純忠殿。唐突な訪問、それもこの少人数での無礼を許されたい」

利繁(とししげ)殿、あるいは深堀純就(ふかほり すみなり)から話は聞いている。

 ……貴殿が、この肥前を根底から変えようとしている男だということもな。中へ付いて参られよ」


純忠の歩みは静かだが、その背中には隠しきれない疲弊があった。


後にキリシタン大名として、領地を守るために「外国勢力への土地の寄進」という

日本史上類を見ない手段を選ぶことになるこの男は、本質的に「自己犠牲」の塊であると利興は見ていた。

多少は貿易による利益を貪る、私欲もあったのだろうが、デウスへの傾倒は、戦乱のよにおいて

自らが先祖伝来の土地と、領民を守る算段を持たないことへの現実逃避だろうと考えている。


広間には重鎮たる深堀純就をはじめとする、大村家の重臣たちが居並んでいた。

誰もが、「得体の知れぬもの」として利興を眺め

一縷の望みと、それ以上の強い不信を込めた目で見つめている。


「単刀直入に伺いたい」

純忠が、沈黙に支配された広間の空気を切り裂いた。


「佐伯家の大方の要求は利繁殿にお伺いした。

 なぜ、大村を滅ぼされないのか。

 今の佐伯の勢い、それに対馬や博多で得たという莫大な富があれば、兵を繰り出し、我らを力ずくで従わせることも容易なはず。

 龍造寺隆信なら、迷わずそうするでしょう。

 武士が土地を欲するのは、理である。貴殿はなぜ、それをなされない」


利興は少し間を置き、端座して純忠の目を真っ直ぐに見据えた。

「滅ぼす理由が、微塵もないからだ」

「力があれば理由は要らぬ。それが武士の、弱肉強食の道理ではありませんか」


「俺は龍造寺ではない。あちらが『武』で人を縛るなら、俺は『利』で人を繋ぐ。

 純忠殿、其方は大村の民を、ただの『兵糧を生む家畜』だとでも思っているのか?

 石高という、大地から絞り出すだけの数字に、其方自身の命まで縛られてはいないか?」


純忠は言葉に詰まった。

利興の声は、広間の隅々にまで染み渡るように響く。


「大村の民。彼らが今、龍造寺の影に怯え、明日の食い扶持を案じている。

 その民が、長崎の港が開くことで今の十倍、百倍の富を手にする。

 土地を奪えば、土地は戦により荒廃し民は俺を恨む。隙あらば国人衆は首を狙うだろう。

 だが、土地を其方に預けたまま、俺が港を動かし、民が豊かになればどうなる?

 民は佐伯の統治の仕組みを守るために自ら働き、大村の家もまた存続する。

 滅ぼすよりも、共にある方が、俺にとっても管理の手間が省け、利が大きい。

 これが佐伯による統治である」


純忠の瞳に、困惑と、そして初めて見る種類の驚きが走った。


「……民が富むことが、支配者の利になる、と?

 略奪するのではなく、豊かにすることが、貴殿の強さの源泉なのか」


「そうだ。俺が新たに掲げる旗印は『民不富則覇亦虚』。

 『民が富まねば、覇もまた空虚なり』である。

 民が飢え、土を恨んでいる土地で、誰が覇を唱えたところで、それは砂の上の城に過ぎん。

 俺は大村の民を、商いと物流によって豊かにする。

 その豊かさから生まれる余剰、税、そして情報の流通こそが佐伯の交易を支え、日の本を圧倒する血肉となるのだ」


純忠は、膝の上で拳を握りしめた。こ

れまでの人生で聞かされてきた軍法も、領主としての心得も。

利興が語るこの「民不富則覇亦虚」の思想の前では、あまりに古臭く、空虚に感じられた。


「……彼杵の民を、本当に、ただの道具としてではなく救ってくださるのか」

「約束しよう。来年の春までに、対馬で成果を上げた土木と測量の技術者を送る。

 港の収益を、まずは領内の荒野に注ぎ込む。

 水路を引き、農地を整え、民が働いた分だけ、民の手に実りが残る循環をここから始める。

 他の大名が見ている狭い『石高』の世界を、俺は『地と人が繋がる物流』で塗り替えてみせる。

 これは慈悲ではない。佐伯の旗を日の本にたなびかせる効率的な方法でもある」


純忠は、ゆっくりと、しかし確実な意志を込めて頭を下げた。

横に控えていた深堀純就が、我が意を得たりとばかりに深く頷く。


「……佐伯利興殿。あなたの言葉、この胸に刻みました。

 港の実権、佐伯家にお預けいたします。

 大村はこれより佐伯家の軍門に降り、この地の繁栄に努めましょう」


————————————————————


その夜、利興は三城城に一晩の宿を借りた。

儀礼的な酒席が終わり、異例であるが小者を下げて純忠と二人きりになる。


若き当主は堰を切ったように、手元の紙を広げて問いかけてきた。

その姿は、一国の主というより、未知の知識に触れた学徒のようであった。


「利興殿、南蛮の船とは……どのようなものなのですか。

 深堀の話では、家一軒が丸ごと浮いているような巨船だと言いますが」


純忠の目は、先ほどまでの重圧から解放され、純粋な好奇心に輝いていた。

利興は笑みを浮かべ、紙の上にマストを何本も持つ巨船の図を描きながら、遠きマカオ、ゴア、さらには地球の裏側にあるという大帝国の話を説いた。


「この入り江には、いずれ山のような荷を積んだ巨船が訪う。

 大村の民が作った絹や陶磁器、それらが海の向こうで金に化け、また新しい技術を運んでくる。

 純忠殿、其方の領地には造船に適した木材と、職人がいるだろう。彼らに南蛮の技術を学ばせれば...

 いずれ大村であつらえた船で、この肥前から大海原へ打って出ることだってできるのだ」


「我らの船で……世界へ……」

純忠は、その言葉を書き留める手が震えていた。


「利興殿、あなたはいつ、それを学んだのですか。

 肥前に赴かれる前から、この世界の理を、まるで空から見てきたかのように知っておられる」


利興は窓の外、月光に照らされて銀色に輝く長崎の入り江を眺めた。

その入り江の奥底には、まだ誰も知らない未来が眠っている。


「……それは長い話だ。あるいは、いつか終わらぬ夢の中で見ていたのかもしれないな。

 だが、夢を現実に変えるのが、今の俺の、そして其方の役割だ」


利興はそれ以上語らなかったが、純忠はその神秘性に、一種の畏敬の念を抱いた。

この男は、単なる知略家ではない。未来そのものを、指先で掴んでいるごとき存在なのだと。


————————————————————


翌朝早く、城を出ようとする利興のもとに、利繁からの急使が駆け込んだ。

使者の顔は青ざめ、馬は喉を鳴らして泡を吹いている。

緊急事態であることは、その姿だけで明らかだった。


「申し上げます! 龍造寺軍、村中城を出陣!

 鍋島直茂率いる別動隊と合わせ、五〇〇〇を超える大軍が武雄の街道を埋め尽くしております!

 その先陣、既に当家の防衛線と接触いたしました!」


広間に緊張が走る。純忠の顔から、みるみる血の気が引いていった。

「……五〇〇〇。武雄の後藤殿だけでは、一日と持ちこたえられない。

 利興殿、これは私の決断が遅かったせいだ。

 私がもっと早く応じていれば、直茂にこれほどの準備をさせる隙を与えずに済んだものを……」


だが、利興の表情は、冬の海のように静まり返っていた。

焦りも、怯えもない。


「来るべき時が来ただけだ。利繁に伝えろ。長崎は完全に抑えた。

 武雄の貴明には『泥沼の中で熊の足を止めろ。一寸たりとも引くな。地の利は我らにある』と伝えよ。

 利繁は遊撃に回り、敵の補給路を、博多からの商流を止めることで断て。

 俺は今から怡土に戻り、大友と博多商人を動かす。目の前の戦だけではないあらゆる重圧で押し返すまでだ」


利興は純忠に向き直り、その肩に手を置いた。

「純忠殿、其方はここを動かず、龍造寺との境界を固められよ。

 戦火を彼杵に微塵も入れるな。港の整備と、民の慰撫を優先せよ。

 戦が終わった時、すぐに船を受け入れられるようにな。

 これは、其方にしかできない統治の守り方だ」


「……利興殿、どうか、武運を」


利興は馬に飛び乗った。

五〇〇〇の軍勢。物理的な暴力の数では、今の佐伯は龍造寺に及ばない。

だが、戦いとは槍の数だけで決まるものではない。

「情報」「物流」「人心」、さらに「時間」。それらを全て掌の上で転がした者が、最後には勝利する。


「隆信、貴様の計算には『未来』という変数が抜けている。やみくもに兵を動かすだけでは俺は殺せないぞ」


利興は潮風を切り裂き、北へと馬を全速力で走らせた。

長崎の港には、必ず春が来る。

それは、彼がこの時代に刻もうとしている、不変の真実であった。

肥前の大地を揺らす蹄音が、いよいよ激突の刻を告げようとしていた。

書き続けると決めたので、日間でも週間でも

1度は1位を取れるように頑張ります!


面白いと感じていただけましたら

評価、ブックマーク、リアクション、コメント。

更新の励みになりますので、どんな内容でもいただけると嬉しいです。


特に日間ランキングに載っていると、ブクマいただけていない皆様にも

更新が知っていただきやすいんじゃないかと思ってます。

少しでも次話を読んで良いかなと思っていただけましたら


他の方にも届けるため、次回見つけやすくしていただくために、ぜひ「評価☆」をいただけますと幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ