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司祭の務め22


 昼食後、私たちは一つ目の魔素溜まりに向けて出発した。

用事を済ませて戻ってきたリドルフィたちに苦笑いされたり、しみじみと何か呟きながらイーブンが、私が買った花束を宿に預けに行ったりなんてこともあったが、今のところ予定通りだ。

今日、浄化を行う場所はフォーストンから馬で一時間半ほど。

フォーストンの冒険者ギルドが手配した冒険者の手により、すでに簡易結界を張ってあり、新たな魔物は出てきていないとのことだ。

また、先行しているオーガスタは現地で待機しているという。

ならば、今回は本当に浄化のみで終わるはずだ。本来なら司祭と最低限の護衛だけで用は足りてしまう。しかし、今後の連携も考えて全員で向かうこととなった。


 そんなわけで、今度は馬上である。

当初予定通り、私はリドルフィの馬に乗せられ、魔導士のロドヴィックはエルノと相乗りになった。

獣人のウルガは相変わらず自分で歩いている。時々先の状態を確認するために走っていくのを見るが、確かに馬が不要なぐらいに早かった。

 リドルフィの馬は、嵐の時に騎士団から乗ってきたあの黒毛だ。

がっしりと体格が良く力強い。目にも力がある。

素人目に見ても、今回連れてきている馬たちの中で一番いい馬だと思う。

それを見たイリアスが、こそっと、「なんか、リドみたいな馬だね、むっきむき!」と言ったのにはつい笑ってしまった。

確かに馬の中でもマッチョなんて表現される子がいるとしたら、この子みたいな感じかもしれない。

そんなイリアスが乗っている馬の方は、すらりとしなやかな栗毛の馬だ。

彼女の容姿なら白馬の方が似合いそうだが、こういうところでは目立ちすぎてしまうので、白馬は使わないのだそうな。

 私の身に着けている女性用の司祭の法衣は長さのある上着にスカートだ。

当然馬をまたぐことができないので横乗りになる。

他の面々と違い踏み台なしに自分で乗ることも出来ないので、リドルフィが先に私を乗せてからその後ろにひょいと乗った。

いや、名誉のために主張すると、私も乗馬は少しは出来るんだ。短時間、並足までだけども。

ただリドルフィの馬は他より大きくて、どうやっても自力で踏み台なしには上がれなかったんだから仕方ない。多分、イリアスに相乗りさせてもらう時は自力で乗れる……はずだ。少なくとも若い頃はできた。


「……あー、あれだな」


 私の背後で、リドルフィが言う。


「どこ?」

「このまま、真直ぐ」


 言われて目を凝らす。

今回の魔素溜まりは草原だ。時々ぽつりぽつりと木がまばらに生えているが、全体的には真っ平。

元は広大な穀倉地帯だったのだが、戦乱期にこの辺りの農村も被害を受け、今は住む人もあまりいない。

豊かな麦畑はすっかり荒れて草原になってしまった。

今でも当時の名残のように野生化した麦がちらほら生えているが、肥料もなく管理されていない土地では育ち切らず、実らなかったり実がついても小さかったりするらしい。

そんな草原の一部、まるでシミでもあるかのように暗く見える一角があった。


「……なるほど。あれだね」

「よし、手前の木が二本生えているところで馬を降りる。そこからは徒歩だ」

「了解」

「はい!」

「俺はちょっと先に行ってオーガスタ連れてきます」

「あぁ、頼んだ」


 イーブンが馬を走らせて先に行く。

私はその間も、魔素溜まりの方を見ていた。

なんでこんな変哲もないところに唐突に溜まったのだろう。

いや、魔素溜まりは確かに予想外なところに現れることもあるのだけれども。

それでも半数以上は何らかの原因が見つかったりもする。

例えば、流れが淀みやすいところだったり。

例えば、過去にそこで何かが起きたところだったり。

例えば、何かの異物がそこにあったり。


「……中規模より少し大きい、ってところだね」

「そうだな。エルノとジークの二人で対応しきれそうな気もするが」

「ここにいるんだから私もやるよ?」

「……まぁ、そう言うよな」

「うん」

「せめて、三人で同じだけ負担にしておけ」

「わかった」


 こんなところで変な意地を張っても仕方ないので、素直に頷く。

そうこうしているうちに、リドルフィが指示した木のところまで辿り着いた。

皆、それぞれに馬から降りる。……私は自力で降りる前にリドルフィに抱え下ろされた。なんか一人だけ格好つかないのはどうしたらいいんだろう。お子様枠なんだろうか、私は。

気を取り直して、エルノとジークハルトのところへ行く。

浄化を行うのは私と司祭二人。

初めて、この三人で行うことになるのである程度相談が必要だ。


「……さて、どうやりましょうか。ここまで平らで魔物もいないので、三角形に囲むように配置してやることもできそうですし、よくある感じに同位置からやることもできそうですし」

「リドルフィからは三人で同じだけ負担するようにって、指示が来ているよ」

「そうですね、今回はかなり余裕がありそうです。私でも三等分した一つを背負えそうだ」


 三角配置を提案してみたのはエルノ、三等分のなんて言っているのはジークハルト。

話してみた感じからして、浄化に関しては、エルノの方がジークハルトより力量も場数もありそうだ。


「うーん、本命の予行演習だと思って同位置からにしておこう。あっちはかなり魔物がいるらしいから私たちはばらけられない。お互いの様子を確認しながら今回は臨もう」

「……たしかに。それがいいかもですね」

「わかりました」

「では、私が右を。エルノ司祭が左。グレンダさんが中央で」


 ジークハルトが並び順をさくっと決めた。

私が中央なのは、明日、メインで浄化を取り仕切るのが私だからだろう。

左右の分担は何か意味があるのかとジークハルトを見れば、にこりと笑みが返ってきた。


「私は明日、いざという時は二人を守る盾となります。その時にはこれが振り回せる方がいい」


 そう言って、片手で持った戦棍を目で示す。

杖としても使えるよう力ある文様の刻み込まれた金属製の棍棒で、中々重たそうだ。少なくとも私には片手で扱うことなどできないだろう。


「では、呪い粉は私が持ちましょう。ちなみに私はこれです」


 エルノが見せたのは聖典の刻まれた石板だ。司祭の身分証に使われているのと同じ、透明度のある薄青い鉱石で出来ている。辞書ほどのサイズの石板で、描かれた神樹と古代文字が美しく配置されている。


「……こんなの初めて見た。聖典。こんなにきれいなのもあるのね」

「はは、確かに聖典は普通分厚い革表紙の辞書みたいなやつですからねぇ」

「なんていうか、私は使えないな。壊しそうでこわい」

「見た目に反して結構丈夫ですよ、何かぶん殴っても欠けたりしませんし」

「いや、そんな綺麗なので殴らないでおくれよ……」


 師匠から譲り受けた自慢の品なんだそうな。

確かにこんな珍しいものは簡単に手に入れられそうにない。

詳しく調べたらかなりの年代物だったなんて話が出てきそうだ。

 あなたは?と話の流れで私に回ってきたので、少し早いが呪文を唱えて錫杖を実体化させた。

何も持っていない状態から出した錫杖に、ほう、と、エルノが息を吐く。

ジークハルトの方は、一応以前から面識があったので驚きはしなかったけれど、それでもなぜか眩しいものを見るような顔をしていた。


「錫杖だから、刻みは私が担当するよ」


 ここでいう刻みは、呪文に絡ませる合いの手のような音、だ。

私の場合は錫杖の金具が鳴る音でそれを行うが、他の聖具を使う者の場合、拍手を使ったり、だん、と足を踏み鳴らしたりで行うことが多い。

ジークハルトのような杖状の物の場合は、私と同じように聖具で地面を叩くこともある。


「さて、そろそろやれるか?」


 こちらの会話が一段落ついたところを見計らって、リドルフィが声をかけてきた。

いつの間にか黒い装束の男性が合流している。双剣使いのオーガスタだ。

顔なじみなので久しぶり、と軽く手を振ったら、目で頷いてきた。……相変わらず寡黙な男のようだ。


「えぇ、お待たせしました。三人同位置、正面から浄化を行います。……明日の予行演習も兼ねます」


 エルノが三人を代表して応える。


「了解した。ならば、こちらもそのつもりで臨もう。……司祭たち以外は念のため周りに警戒。ライナス、俺と共に浄化役を挟んで前線に。介添え役だ。イリアス、三人の背後の守り。ロド、イリアスと並べ。前方警戒。司祭の前から現れた時に即攻できるのはお前とイーブンだけだ。ガス、ロドの護衛及びイリーの補佐。ウルガ、イーブン、遊撃。好きに動け。」


 リドルフィが一気に指示を出す。それまで和やかだった空気が一気に引き締まった。


「……よし、正義のヒーローごっこの時間だな。各自見えない敵と全力で戦え!」

「……リド、もっと他の言い方はないんかい?」


 あまりの言いように思わずツッコミを入れれば、イリアスからぽんと肩を叩かれた。諦めなと言う風に首を横に振られる。

周りの皆も笑っている。折角引き締まったのが台無しだ。


「男はいつだってヒーローでありたいもんなんだ」

「私にはどこがカッコいいのかさっぱりわからないよ。……とりあえず、やりましょ」


 パンパンと手を叩いて、一瞬にして緩んでしまった空気を戻し、言う。

さて、頑張りますかね。



……なんとなく、MMORPGの集団戦で指揮とってた時を思い出しました。

名前出して指示出すの大事なんですよね。

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