夏の嵐12
その日の晩は、割とすんなり眠りに落ちた。
何か懐かしい夢を見た気がしたけれど、起きた時には忘れていた。
若い頃に比べて、夢の内容を覚えてないことの方が増えた気がする。
まぁ、でも、夢の内容なんて忘れてしまっても困らないのだから何も問題はないか。
カーテンを開けてみたら、今朝は曇りだった。
これから段々雨雲が増えるのだろうことをひしひしと感じるような、曇天。
眺めていれば上空は風が強いのか雲の流れが速い。
でも、昨日までに比べれば少し風が出てきているが、まだ大丈夫だ。
雨もまだ降りだしていない。
いや、夜のうちに少しは降った気配があるが今は止んでいる。
この分なら、もう少しは屋外作業もできそうだ。
「ひどくなる前に粗方終わるといいねぇ……」
カーテンを戻し、大きく伸びをしながら身支度を始める。
作業進捗の心配だけで済んでいるのは、ありがたいことなのかもしれない。
他所では共同作業のたびに喧嘩が起きたり、変に気を遣わねばならないことも多かったりすると聞く。
うちは穏やかな気質の人ばかり集まっているおかげで、その手の揉めごとは過去一度もなかった。
それは正直、とてもありがたいことだと思う。
……もし、今、揉めごとが起きたとしても、私じゃ上手く解決させられる気がしないからね。
それこそ今回みたいな時は、村長のリドルフィがいないと困ってしまったかもしれない。
顔を洗い着替えを済ませ、洗濯物をまとめておいてから手ぶらで一階へと降りる。
どうせ一人分で大した量もないし、今日は洗ってもすぐに乾きそうにないから洗濯は後回しだ。
嵐で閉じ込められている間にまとめて洗って室内干しでいい。
外が曇りなのもあり、まだ薄暗いので厨房に入ると明かりをつけた。
やかんに湯を沸かしつつ、今日の朝食分の食材を確認する。
今朝用のスープは夜のうちに仕込んであるし、パンも用意してある。
後は食堂に来た人に合わせてハムと卵を焼いて出せばいい。
そのための卵とハム、付け合わせの野菜の数が足りているのを確認し終われば、昨日のジャガイモのパンケーキを温める。
私の朝ごはんは大抵前日の残り物。
足らなかったら困るからと、夕飯は特にいつも多めに用意するからね。
沸かしたお湯でお茶をいれ、パンケーキにハムとチーズを添えた皿を持ってカウンター席に腰を下ろす。
手を祈りの形に組み、日々の糧への感謝の言葉をつぶやけば食事を始める。
普通の食事時間帯はみんなの世話をやいているから、どうしても自分自身は個食だし手抜きしがちだ。
時々ある今回のような嵐で食堂も閉まる間は、実はちょっとした楽しみでもある。
その日ばかりは私も誰の世話も焼かずに、好きなものを好きなタイミングでのんびり食べられるからね。
ある意味、滅多にない完全休養日だ。
それもこれも、安全な家の中で嵐をやり過ごせるよう様々な準備をしてあるからだね。
早々に食べ終わってしまえば、また祈りを捧げる。
あと半刻もしたら早い人たちが食事にくるはずだ。
それまでに準備を終わらせましょうかね。
なんだか淡々としたシーンになってしまいました。
そろそろ物語が動き出します。




