夏の嵐11
「少し、風が吹き始めたよ」
夕食を食べに戻ってきたジョイスが言った。
遅いなと思ったら、明かりを灯しながら、酪農家ノトスのところの牛小屋の補強をしていたらしい。
村でも比較的初期に作った建物だから、脆くなっていそうなところに板を足したり、固定している釘を打ち直したりしてくれていたのだそうだ。
一緒にやっていたイーブンと二人、いい仕事したって感じの顔をしている。
「そう。……ノーラの予想より少し早くなりそうかしらね」
「だねぇ。今日のうちに帰ってきて良かった」
「イーブンもお疲れ様だよ。ありがとうね」
「いや。日頃の礼だ。……あぁ、でも、エールが出てきたら嬉しいな」
「はいはい」
俺にも!と、すかさず主張したジョイスと、イーブンの前にジョッキを置いてやる。
それを二人揃って一気に飲み干し、あー、生き返ったなんて言っている様子に、私は笑う。
いい飲みっぷりだ。
用意してあった夕食を皿に盛り、それぞれの前に並べると、頂きまーす!と、嬉しげにジョイスが早速食べ始める。
「とりあえず、ここ数年手を入れてなかった家畜小屋とか倉庫は先に見てきたから、明日はそこ以外かな。屋根登るのとか、今日やり切れなかった補強は俺とイーブンでやって、鎧戸閉めはリリスに頼もうかと。……他に男手が必要そうな作業って何残ってるの?」
「柵の補強とか危なそうな枝落とすのとかは、ラムザたちが頑張ってくれたからねぇ。もうほぼ終わってるって言ってたよ。後は水車周りと防風ネット張りがまだ残ってるかな。でも、それもセアンたちがやってくれる予定だったはず」
焼いた野菜を肴に二杯目のエールを飲みながら、イーブンが一つずつ相槌を打っている。
「……あぁ、そうだ。女性のみの家に食料とか運んでくれると助かるかな」
「そこの木箱?」
「うん。水物や瓶詰とかも入ってるから地味に重いんだ。明日、ダグラスがランプの油とかも足すって言ってたし」
瓶は空でもそれなりに重さがあるからね。中身が入っていれば、尚更。
念のため、一人当たり五日分の食料が入っている。複数人いるところは当然その人数分の量に増えている。
女性でも頑張れば持てないことはないがそこそこ重たい。ここから距離のある農家などの世帯は、家まで運ぶのが大変そうだ。
「了解。明日のお昼とかでここに来た時についでにやっとく。……他も、なんか思いついたら言って。やるから」
「ありがとうね」
「どういたしまして」
こんな風にさらりと言える辺り、本当にいい子に育ったと思う。
流石に、息子みたいなジョイスに優しくされてもときめいたりはしないけれども、女性として気遣ってもらえるのはちょっと嬉しいね。
どうやっても女性と男性は体力や筋力量が違う。
力仕事はやはり男性の方が向いているし、緻密さや丁寧さが求められる仕事は女性の方が得意だ。
ごく自然にそれを受け入れて、補い合えるというのは大事だね。
「……なんか、息子とおっかさんの会話みたいだな」
「……そんな言ったらハンナに怒られるよ」
「母さんなら面白がるから大丈夫。実際、おばちゃんは俺の第二の母さんだしね」
私たちの様子を眺めながら飲んでいたイーブンに言われれば、私は顔を顰め、ジョイスは笑った。
「俺もリンも、畑の繁忙期とかはおばちゃんが相手してくれてたことも多かったし、母さんの料理とおばちゃんの料理、同じぐらい食べて育ったからなぁ。……おばちゃんじゃなくて、グレンダ母さんって呼ぶ?」
「ジョイスっ!」
あはは、冗談、冗談!と、けらけら笑っている。
ジョイスもリンも頑張って育てたのはハンナだ。
私や他の連中は手伝いをしただけ。
なのに、こっちまで母親扱いとか、まったく……ハンナに申し訳ないじゃないか……。
ぼそりと「グレンダ、良かったなぁ」なんてイーブンの呟きは聞こえなかったことにした。




