夏の嵐2
リンとノーラが村のみんなを呼びに行ってくれてから、少し後。
広場の近くにいた順に、村のみんなが集まってきた。
私はと言うと、食堂の一番大きなテーブルにこの村の地図を広げたり、筆記用具を用意したり、と、会議の準備をしていた。
横のテーブルにはお茶やら先ほどのジュースやらを用意し、簡単に摘まめるものもおいて……なんて感じに軽食の用意もしている。
皆、自分の仕事の手を止めて来てくれる。時間帯的に話し合いはお昼をまたがるだろう。
うちの村は皆働き者だから、きっと話し合いが終わったらすぐに動き出してしまう。その前に相談しながら少しでも食べてもらった方がいい。
やがて、参加する面々が揃えば、誰が言い出すでもなく話し合いが始まった。
この村、モーゲンの珍しいところは、村の規模に比べて豊かであること以外に、もう一つある。
それはこの村が、念入りな計画のもとに造られた、ということ。
普通は、少しずつ勝手に人が集まって気が付いたら村や街になっていた、なんてことが多いのだが、モーゲンの村は違う。
まず初めに、土木や建築の専門家を呼んで調べて貰い、この土地をどこからどういう風に開墾し、どこに家を建て、どこを農作地にするかを決めた。
土魔法が得意な者が地ならしをし、植物との親和性が高い者が既に植わっている木々を動かした。木々が足りないところには皆で相談してより効果的な防風林を育てた。
村の建設予定地を横切る小川の場所を調整し、畑や果樹園には安全で便利な用水路を作った。
非常時にはどう守ればいいのか、どう備えれば被害を出さずに済むかを検討し、月日をかけてそれを一つずつ積み重ねた。
一軒ずつ計画的に手をかけて家屋を建て、それに合わせて住む者を募集した。
徐々に増えていった住民も、村長のリドルフィが計画に基づいて直接スカウトしてきた人たちだ。移住前には村の代表何人かで実際に会ってみて、互いに納得の上で移住を決めた。
途中で計画に何度も細かな修正などが入ったりはしたけれど、概ね当初予定通りに村の規模は大きくなっていった。
他所から見た時に、普通の村との違いに気持ちが悪いなど言う人も居たりしたが、そんな外野は言わせておけばいい。
実は、この村がこんな特殊な在り方をした理由もあったりするのだが、それはわざわざ触れ回ることでもないからね。
そんな計画都市ならぬ計画村なので、実は非常時用の手順書もしっかり作ってある。
話し合いに来た面々はそれを踏まえた上で集まっているので、意識合わせと仕事の割り振りで今回の嵐も乗り切れるはずだ。
「三日後ぐらいって話よね」
「えぇ、でも明後日ぐらいから雨や風がきそう」
「んー……そしたら、出来るだけ明日中には大体なんとかしたいねぇ」
「ですな。そういえばこないだの柵って完全に直したんでしたっけ?」
「まだ応急処置だけだったはず、今日のうちに直した方がいいかも」
「あ、そしたらそれは俺がやりますよ」
「助かります!」
「誰か収穫手伝える人いる? 果物なんだけども」
「あー、風で落ちてしまう前に採ってしまいたいね」
「子どもたちにもお手伝いを頼んでみるのはどう?」
お茶やジュースを飲みながら皆で地図を覗き込み、対策した方が良いところを確認していく。
現時点でモーゲンにいるのは二十世帯ほど。
とはいえ、独り者もそれなりに居るし、あの戦いのせいで家族が欠けている世帯も多い。
リンのところも戦乱期に父と祖父が亡くなっている。そのため、リン、ハンナ、ミリムの女三代に黒一点のジョイスなんて家族構成だ。
他も似たようなところがいくつもあり……結果、ここに集まっているのも女性が多めだ。
年も若干高めなこともあってか、落ち着いて話が進んでいく。
ほんの一時間ほどの間に、誰がどこの点検をして来るか、補修は誰がするか等々、ほとんどの作業の担当が決まった。残りは、早く終わった人が随時進めてくれる。
できることできないことをしっかり割り切って、無駄なく現実的に割り振られた作業へ、皆が一斉に動き出した。
……私は何を担当することになったのか、って?
炊き出しと、ここでの情報統括、だね。
作業を優先させるために、どこの家も食事の準備などは後回しになる。
それを補うために食堂でまとめて作って村の全員に配ってしまえ、というわけだ。
そして、どうせここで料理し続けることになるから、各作業の進捗を皆が知らせに来た時にチェックも私の担当だ。
……いつもとやっていることが同じだとかは、多分、気にしてはダメだ。
計画村、なんだか怪しげな響きですね。
私も書いていてなんじゃそりゃ、となっていました。(汗)
モーゲンは目的があって作られた村なので都市計画みたいなものに則って作られました。
その辺の話もそのうち出来たら良いなと思います。




