食堂のおばちゃん20
そうして、討伐の日の朝が来た。
戦いが日常だったあの頃と違い、大物を倒すことは少なくなった。
今はまだ私と同世代でも現役の者もそれなりにいるが、いずれは平和とは縁遠かった日々を知らぬ世代が主体となっていくのだろう。そうと思うと、なかなか複雑な気分になる。
まぁ、それも年寄りの要らぬ心配なのかもしれないね。
今のところは、ただ、討伐の前にしっかり準備をし、体を休ませ、万全の状態にしてやってから戦う者たちを送り出せることを喜ぼう。
あの頃みたいに疲れ切ったまま消耗戦を続ける必要はない。これがどれだけありがたく喜ばしいことか。……いや、やめておこう。年をとるとどうも昔は云々言いたくなってよくないね。
「よし、行こう」
「はい!」
「うっす」
いつものように食堂で早めの朝食を食べつつ段取りの確認をしていた討伐隊の面々が、リドルフィの言葉に頷き、動き始める。
リドルフィが立ち上がると、がちゃり、と、重めの金属音がした。
久しぶりにしっかり胸部の防具を付けている彼の様子に、私はつい苦笑する。
「そうすると五歳ぐらい若く見えるわね」
「……たった五歳か。……どうだ、今もかっこいいだろう?」
「はいはい」
惚れ直してもいいぞ、なんて馬鹿を言っている壮年マッチョを軽くあしらう。
まったく、何を言ってるんだろうね、この人は。
「師匠カッコいい!!」
「そう言ってくれるのはお前だけだよ!」
「……うわっ、ギブギブギブっ!!」
ふざけてポーズをとってみせたリドルフィに、弟子のジョイスが太鼓持ちよろしく声をかける。それを受けて、肩組みするようにして弟子を捕まえるリドルフィ。
ごつい金属製の胸部鎧に厚手の丈夫な服、しかも中身は筋肉みっちりな腕に首根っこを抱き込まれたジョイスは、慌てて筋肉の枷から抜け出ようと暴れる。
その様子を見て他の面々が笑っている。
大きな討伐の前だが変な力も入らず自然体。いい面子を揃えたもんだ。
これならきっと大丈夫だろう。
「ほら、さっさとやって、とっとと帰っておいで。出た出た!」
扉近くでじゃれている二人を追い出すようにして、私はみんなを外へと促す。
賑やかな師匠と弟子について、他の四人も食堂の外に出た。
探索していた数日のうちにすっかり慣れた様子で、食堂の建物の前に並ぶ討伐隊の六人。
今日、討伐をすると知っていたダグラスをはじめとした村人たちが、私たちが出てくるのを村の広場で待っていた。
こういうのは小さな村だからこその光景かもしれない。
村長と次期村長、そして冒険者四人が並び、その向かいに私が立つと、村人たちは出立する人たちの顔が見える少し離れた位置に移動し、見守っている。
それを横目に私は小さく肩を竦めた。……見世物じゃないのだけどもね。
体をぱっぱと払うような仕草の後に、私は姿勢を正す。
右手を胸に当て、左手は体の前、手のひらを天へと向けた。
真正面に立っているのは討伐隊の長であるリドルフィ。
その左のジョイス、更に隣のイーブン。
リドルフィの右側に、リリス、シェリー、カイル。
順々に一人ずつ目を合わせ。
もう一度リドルフィへと視線を戻し、軽く頷き…… 私は目を閉じた。
古い言葉で紡がれた呪文。
その前の句を朗々と謡うように唱える。
いつものように略式ではなく、正式な韻をふんで……。
「正しき者たちに光の加護を。戦いに臨む者たちに良き風が吹きますように――……」
そうして。
力ある言葉を口にすれば、天へと向けた手のひらの上に淡い光が生まれた。
ふわり、と、清い風が吹く。
一度、球体の形をとった光は、その風を受けて一気に広がり……六人を包んだ。
ゆっくりと瞼を上げ、私は言う。
「さぁ、行っておいで。そして、ちゃんと帰ってくるんだよ」
その言葉がきっかけとなって、見送りの村人たちから声援が飛ぶ。
「頑張れ!」「気を付けて!」「いってらっしゃい!」「怪我するなよ!」なんて声援に紛れて、「終わったら酒飲むぞ」とか、「カイルさん素敵!!」とか変な言葉も混ざっていたけど……、多分気にしなくていいだろう。
「あぁ、行ってくる」
リドルフィが拳をあげてみせ、他の五人も皆に手を振ったり返事をしたりしながら背を向けた。
「どうか、御武運を」
村人たちの声援に紛れさせるように、ぽそりと言って。
私は、その背中をしばらく見つめてから、食堂の中へと戻った。
この後の展開の為に、少しだけ2つ前のシーン(森の奥に……3)の原稿に修正を加えました。
行き当たりばったりでの執筆なので、作者の頭に何かが降りてきてしまうとこの先もこんなことがたまにあるかもしれません。
ずぶの素人が書いている文章ですので、お目こぼし頂けると嬉しいです。




