[二章-番外編:あの日]
一馬がまだ10歳、雫が8歳の時、まだ2人とも能力が発現していない時の話。
一馬、雫、ひながまだ優能力学園に入る前、つまりまだ優能力者学園周辺に住む前。
———ある日
今日も一馬の家には親はいない。今日の夕飯担当は一馬だったので何を作ろうか悩みながら食材売り場を見る。雫は家でお留守番中だ。
「家にある、食材は……あれとあれと…そうだあれを作ろう」
と思い一馬は食材へ向かって手を伸ばす。掴む少し前にポケットの携帯が震えているのに気付く。相手はひなだった。一馬は緑のマークを押す。
「もしもし、珍しいな、どうした?」
と一馬が尋ねると、ひなは
「…いやなんかお母さんが今日、ハイエントビルであるパーティに来ないかって、夕食を作る手間省けるでしょ」
と情報だけを伝えるだけのように冷たく言うひな。一馬がどう答えるべきか悩んでいる時、待つのがめんどくさくなったのか
「いいでしょ、はい、決まり。じゃ7時にハイエントビル前で」
と要件を伝え、すぐに電話をきる一馬。
「決め方、荒い気がするけど…まあいいか、手間省けるのは事実だしな」
と一馬はつぶやき、雫に今日の夕食についてのメールを送る。雫からは、なんて都合のいいパーティ、とだけ送られてきた。おそらく、いいんだろうな、と思いながら家に向かって歩いていく一馬。手には一応買っておくことにした食材の入った袋を持って。
———ハイエントビル
当時の一馬の家から徒歩10分程度の場所にある。予定の時間ぴったりに着く。
「いやー、でかい」
と一馬が言うと、だね、と雫が頷く。
「あっ、一馬とひなちゃん。こっちこっち〜」
とひなが呼んでくる。
「ほいほい」
と一馬は答え、雫とともにひなの方へと歩いていきハイエントビルの中へと入って行く。エレベーターに乗って30階を目指す。
———ハイエントビル30階
そこではこれこそパーティと誰もが思うほどに大きなパーティが行われていた。一馬と雫は思わず、
「わぁ!すごい!」
と声を出す。ひなもだねと言う。雫は嬉しそうに料理を取りに行く、ひなと一馬もそれを追いかけるようにして歩いていく。それを見ていたひなの母は
「やっぱり仲いいんだけど、ひな興味なさげなんだよね」
とひなの父に話しかける。父も
「確かにな、一馬君にならひなを任せられそうな気もするが……」
と言う。食事を取りながら時間を過ごす一馬達はしばらくして少し人から離れるためにパーティ会場の外に出て階段付近で一休みする。
——パーティ会場内
パーティを楽しむ人々がいる中に突如として武装集団が現れる。
「動くな、声もあげるな」
と銃を構えていう、推定10名はいるようだ。声もあげるなと言われたのに数名が恐怖に耐えきれず声をあげる、すると武装した1人が躊躇なく声をあげた1人の頭を撃ち抜く、赤い液体が散らばる。先ほど声をあげた人も全力で声を抑える。サイレンサーが付いていたらしく外の一馬達には銃音は届くことはなかった。ただ少しだけ中が騒がしくなった後、ずっと静かになったので変と言えば変だといえる状況だった。なのでひなは
「待ってて、見に行ってくるね」
と言って会場へと戻る。一馬はうぃ、と気の抜けた返事をした。
——会場内
沈黙の続く会場の中で1人の男がが言う。
「トイレに行かせてくれ」
人質の半分を別の場所に移動させようとしていた武装した1人は
「うるさい、漏らしとけ」
と言う。
「いいですけど大ですよ?」
「ちっ、漏らされても困る、1人監視しろ」
男は監視されながらトイレへと向かう。男が選んだトイレは厨房の奥にあった。男は監視の目を盗み、ガス栓を開けながらトイレを目指す。少しガスの臭いがしだす。男はトイレに入り扉を閉めると同時にライターをガス栓目掛けて投げる。武装男は反応出来なかった、ガス栓と金属製のライターの接触で火花が散り、それがガスに引火、爆発を起こす。
一馬の方にも流石に爆発音が聞こえる。温度が上がっていることに気づき、火事だと悟る。
「これは、やばい」
と階段に向かおうとした瞬間近くで配管の爆発が起こる。一馬は爆風と衝撃で、落ちる、非常階段は螺旋階段の真ん中へと。
「にぃ!」
雫が手を伸ばす、一馬も手を伸ばす。しかし届くことはなかった。一馬は重力に逆らえず落ちる。このままなら、一気に1階まで、そして死までも直行だ。
「雫!」
「にぃ!」
届かない願いを込めた短い言葉を発する兄妹。すると、時間が止まる、兄妹はそれを知覚する。雫の能力が目覚める、一馬の意識の中に雫が入ってくる、そして一馬に力がみなぎる、巨大な能力エネルギーが一気に流れてくるによって一馬も能力に目覚める。頭の中に前から知っていたかのように能力の使い方がわかった。時間が動き出すと同時に黒い刀が伸びる、それが手すりにフックのようにして、引っかかる。それを利用して、体を持ち上げる。目の前を見ると、雫が倒れている。
「雫!大丈夫か?」
と近づくと何故か頭の中から雫の声が聞こえる。
(私は大丈夫)
(雫?大丈夫なんだな、とりあえず中を見に行こう)
と頭の中で難なく会話し、雫をいわゆるお姫様抱っこして会場の中に入る。一馬の頭の中には雫に助けられて、情けないと言う感情が渦巻いていた。一馬には分かっていた、雫のおかげで能力に目覚めたということを。
中にはひなの両親の姿があったがひなはいなかった。ひなの両親へと近づき
「ひなはどこにいますか?」
と尋ねる。
「……連れていかれたわ」
「雫をお願いします、俺…俺達はひなを助けに行きます」
と言う。母は
「何言ってるの!」
と言ったものの一馬はそれを聞く前に雫をたくして扉へと向かう。武装集団は火災処理、状況確認に忙しくて気付いていなかった。
———VIPルーム
武装集団がいかにもお金持ちの男1人に詰め寄る。
「神の遺産の在り処を教えろ、生きて帰りたいだろ?」
と頭に銃口を突きつけながら言う。男は大袈裟に首を降り、
「知らない!なんのことだ!」
と答える。武装男は覆面の上からでも分かるほど顔を歪ませ、即座に頭から狙いを外し右脚に撃ち込む。金持ちそうな男は痛みで悶え苦しむ。赤々とした血が湧き出し続ける。男は脚を抑えながら、
「ふー、ふー、俺1人が教えても……意味は無い……」
と言う。
「いいから教えろ、さもないと、もう片方の脚も」
「わかった、これが在り処を示す鍵の片割れだ」
と三角形のホログラフィックメモリーをポケットから取り出し、渡す。武装男は
「パスは?」
と威圧気味に尋ねる。
「まさか、もう片方も持っているんじゃ?」
と金持ちそうな男ははっとした顔で尋ねる。武装男は左脚に銃口を押し付け、
「いいから質問に答えろ」
と言う。男が沈黙を貫こうとしていると、武装男は左脚に発砲する。男はこらえきれず
「……はぁ、はぁ、わかったよ……3698だ」
と言った。もうひとりの武装男は、
「火災がひどくなってきました……どうしますか?」
と尋ねる。
武装男はこうだ、金持ちそうな男の眉間を撃ち抜く。
「歩けないやつはいらん、退散するぞ」
と男は立ち上がりながら言う。
——一馬サイド
一馬は急いでひながいると思わしき広い部屋に突入する。ひなは抵抗し、武装男に撃たれようとしていた。
「やめろー!ひなに手を出すな」
と怒りを含んだ声で言いながら黒い棒を作り振り向きかけの男の銃を持つ手に直撃させる。銃が弾け飛ぶ、一馬はひろおうとする武装男の首元に攻撃、男は気絶する、別の男が撃とうしているのを見て目の前に壁を想像するとそれが生まれる、それは、銃弾をはじいた。
「うぉーーー」
と言いながら一馬は突撃し、攻撃、男は気絶する。ひなは一馬を見つめる、その頬は少し紅潮していた。
「……一馬、ありがと」
とひなは言う。後ろの扉が開き、
「退散する」
と言いながら男が現れる。男は倒れている仲間ふたりを見て
「誰がやった?」
と言うマスクの奥に緑色の目が光る。一馬は何も考えずに突撃する。
「貴様か?」
と言いながら素早く2発、銃を脚に向けて放つ。一馬はかわせずもろに受け、転げ回る。
「痛い、痛い、痛い、痛い!」
と何度も何度も言い続ける。血が流れ出てくる。
「一馬!」
と言いながらひなが近づこうとすると、男が服をつかみ引きずる。
「痛い、やめて!」
とひなが言う。男は一切聞かず引きずりながら、他の人質に、
「全員付いてこい」
と言う。一馬は動けない。炎の音ががどんどんと近づいてくる。
(ああ、ここまでかもな)
と一馬は覚悟を決める。銃弾のせいで動くだけで痛みが出てくるので、動こうにも動けない。いつの間にか一馬の中の雫の意識はなくなっていた。
(万策尽きたってこういう事を言うのかもな……はは……もっと……色んな事…したかったな)
炎は部屋の中へと侵攻しようとし、煙は隙間から入り始めていた。
———ハイエントビル外
ひなと両親、雫達は全員怪我なくビルの外にいた。ひなは泣きじゃくりながら
「一馬が、一馬が死んじゃう。私を助けに来たせいで」
父は
「突入部隊と、消防隊が突入したらしいし、それを信じよう」
と慰める。ひなはその言葉を聞いても泣き止むことはない。その姿を翠色の目をした人は眺めながら歩き去る、警察と消防隊をかわして。
———しばらくたった後
一馬は突入部隊と思わしき人に背負われ出てきた。一馬は生きていたのだ。能力で消火器を引き寄せ、噴射、さらにスプリンクラーを破壊し、炎を抑え、煙は能力エネルギーを定期的に風のように吹き出させ火災の被害を避けた。一馬は救急車に乗せられ、それを見てひなと雫は急いで近づく。心配そうに声をかけながらひなの母と同乗して、病院へと向かった。しばらくして、病院で、一馬は意識を取り戻す。すると一気にふたりが抱きつく。
「よかった、本当によかった」
と2人とも泣きじゃくりながら言った。一馬が困って、
「痛い、痛い、ごめんな」
と言いながら、ひなの母を見つめると
「よかったね、命に別状はないそうよ。ただ足の怪我が深すぎて能力エネルギーの修復外だからしばらく学校は休みなさい」
と言った。その言葉に続けて雫が
「買ってきた材料で明日の朝ごはん作るから安心して休んでね、にぃ」
と言う。
「なかなかひどい日だった、でも幸運な日でもあったのかもな」
と一馬は小さく呟いた。ただ、雫がいなかったらと思うと本当に雫がいなかったら死んでいた、そのことが兄という名のプライドに影響を及ぼしていた。
次回から、三章が始まります。




