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最終話 不死身少女のセカイが変わる?

「『――目の前に立つ吸血鬼を倒さなければ、世界に平和は訪れない。彼は、直感的にそう感じていた。奴こそが魔を統べる王である、と。魔物の侵攻を止めるためには、王を叩くのが近道だ。そう信じて、彼はここまでやってきたのだ。不死の兵や獣人など、数多の障害を乗り越え、いよいよというところまで来たのだ、今更退けるはずなど無い。

「…よく、此処まで来たな。人間の癖に、中々骨のある奴だ。」

今まで黙りこくっていた魔王が口を開いた。禍々しい牙が覗く。背筋が寒くなるのを感じた。

「今なら、我ら魔王軍に下るという選択もある。お前ほどの優れた戦士なら幾らでも優遇してやれるが…どうだ?何なら、世界を手中に収めた暁には、お前に世界の半分をくれてやっても良い。…人間の面倒なしがらみには、うんざりしているんじゃないのか?」

あろうことか、相手は自分を殺しにきた相手をを引き込もうとしているのだ。

「ふざけるな!俺はそんな事をするために此処にきたわけじゃあない、世界の平和を守るために、お前を倒す!」

「そうか、残念だ。」

剣を構えて斬りかかる。しかし、彼の自慢の剣は、空しくも虚空を斬った。

「消えた!?」

先ほどまで玉座に座っていた魔王は、瞬く間に姿を消していた。

「…ハァ、その程度か。」

振り返ると、魔王は既に背後に立っていた。

「っ!」

首筋に痛みが走る。

「何、を」

「知っているか?吸血鬼に噛まれた人間がどうなるのか。」

彼は、全身が粟立つのを感じた。

「あ…が…」

みるみるうちに呼吸もままならなくなり、地面をのた打ち回る。全身が固まり始め、冷たくなっていくのを感じる。

「異形の怪物になり果て、発狂して、いずれは死ぬ。クハハッ、中々悲惨な最期だな、勇者よ!勇者だなんだの祭り上げられて、挙句の果てには怪物になって死ぬなんてなァ!誰もお前の最期なんて見取っちゃあくれない気分はどうだ!ッハハハハハハハ!」

魔王の言葉に耳を傾けているだけの力は残ってはいなかった。』……と。」


1ページをゆっくりと読み上げた後、私は本をそっと机の上に置いた。

「…音読の練習かな。外でやってくれないかい?」

「興味深いことが載っているんです。ほら、ここ。」

私は、最後の方の本文を指差す。

「吸血鬼、つまりヴァンパイアですよね。」

「噛まれた人間は、異形の怪物になり、発狂する…それが何か?」

「これは本当なんですか?」

私が大袈裟に首をかしげると、司書さんは首を振る。

「大ウソだね。影響があるのが人間だけなワケないし…まあ、噛まれると何かが起こるって辺りは間違ってないけど。」

「何が起きるんですか?」

「…死ぬよ。」

いつもより低い声色で、真剣な顔をして言われた。本当…なのかな。

「死ぬっていっても、そのまま動かなくなって、土に埋めてもらって腐れるなんて思わない方が良い。生きる屍、要するにゾンビだ。」

生きる屍…かあ。ってことは死ななくなるんじゃ?

「…キミ、変な事考えてるでしょ。」

「べ、べべべ別にかか、考えてなんかいないですよ?」

司書さんは呆れた様子で、大袈裟に溜息をついてみせた。

「大方魔王や姫ちゃんに噛んでもらおうと思ってるんでしょ。でも、そんなんで一緒に居たって姫ちゃんは喜ばないと思うよ?」

「確かにリヴィアとは一緒に居たいですけどッ…」

言葉に詰まる。完全に見透かされた。

「確かにそうすれば…キミは永遠に此処に居られる。でも、今度は逆に魔王や姫ちゃんが死ぬところを見なくちゃいけなくなるんだよ?」

バカバカしくないの?と尋ねる司書さん。

「でも…いつか、私も、リヴィアも、魔王様も…居なくなってしまったら…司書さんは、どうするんですか。」

「そのときはそのときだよ。旅にでも出れば良いさ。」

「司書さんを知っているのが誰も居なくなっちゃうんですよ?寂しくないんですか?」

「うーん…確かに、忘れ去られることは嫌かな。でも、僕が書いた記録は消えないし、キミや魔王と居た時間が消える訳じゃない。それじゃダメなのかな?」

司書さんは顎に手を当てて少し考えた後、けろっとした顔で答えた。

「確かに、そうですけど…。」

「それにさ、皆いつかは死ぬんだよ?僕だってそうだ。それが何十年後か、何百年後かは解らない。それなのに、キミはずっとここに残り続けるのかい?」

ちょっと言葉に詰まってしまった。そうか、司書さんも生きてるのか。

「でも…私だけ七十年ぽっちで居なくなるのは嫌です!ずっと…ずっと皆と一緒に居たい!…です。」

「永遠なんてないんだよ。」

「それでも…私はここに居るのが楽しいから…皆で冗談言いあって…お菓子食べて…笑いたい…」

「キミが一度死んで生まれ変わる事が出来たように、皆輪廻転生の輪の中で生きてるんだ、それは仕方のないことなんだよ。」

珍しくやさしい司書さんの声音に、思わず涙がこみ上げてくる。

「じゃあっ…私はリヴィアや魔王様…司書さんが帰ってくるのをずっと待ちますよ!ええ、待ってやりますよ!」

「あ!ちょっとレミちゃん!どこ行くのさ!」

泣いてしまったのが気恥ずかしくて、思わず図書館から飛び出してしまった。


 レミが去った後、ニーズホッグはリヴァイアサン達の元を訪れた。

「…って事があったんだよ。」

「ほう…で、何故それを我々に相談するんだ。」

「あまり邪険に扱ってやるな、仮にも同族だろう?」

人型をとったバハムート(百センチ)が、リヴァイアサンを膝に乗せてしきりに頭を撫でている。友人同士積もる話でもあったところを邪魔されたらしく、かなり機嫌を悪くしているようだ。

「こんなのと一緒くたにするな。…まあ、世話になった魔王の為に永遠に此処で働きたいとは、中々良い事を言うじゃないか。そうそう居ないぞ、そんな奴。」

「ええっ!?」

「まあ、それも一理ある。だがお前がレミに人間らしく一生を過ごして欲しいという気持ちも解らないでもないがな。」

リヴァイアサンの言葉に、明らかにホッとした顔を見せる。

「だが、それは押しつけと言うものではないか?」

「押し付け…かなぁ?」

首をかしげるニーズホッグ。

「あくまでも人間らしく生きろと言うのは、お前の意見だろう。レミはそうは思わなかった、それで良いだろう。あいつの人生にとやかく言う権利はお前にはないはずだが?」

「うっ…で、でも…」

「全くだ、それでそのレミとか言う奴が幸せだって言うなら、それで良いんじゃないのか?」

「そう、なのか…」

不満げなニーズホッグの背を、バハムート(百センチ)がぺしぺしと叩く。

「もういっそお前もゾンビになって添い遂げてやったらどうだ?方法がないわけじゃあないんだ。どうせ書庫からロクに出もしないだろうし、むしろ食事が要らなくなって便利じゃないか。」

「添い遂げっ…!?ぼっ、僕はそういう意味で言ったんじゃ…」

顔を赤くして否定するも、からかうような視線を向けられる。

「まあ、良い方向に変わったみたいで、少し安心した。」

「は?」

「あまり周りを気にするような奴じゃ無かったからな。」

「まあ、丸くなったというのはあながち間違ってはいないのではないか?」

「だ、だから違うってば、レミちゃんの為に言ってるわけじゃ――」

それじゃ、と一言言うと、バハムート(百センチ)は座っていた椅子から立ちあがって、どこかへ行ってしまった。


「…違う、よね?」

一人で立ち尽くすしかなかった。


 しばらくして図書館に戻ってくると、司書さんが頭を抱えて椅子に座っていた。どうやら私が来たことには気づいていないらしい。

「うーん…」

頭を抱えてるし唸ってるし、さっきの事で悩ませてしまったのだろうか。

「大丈夫ですか?」

「うひゃあ!?お、驚かさないでよ、急に現れて!」

急も何も、普通に入ってきたんですけど…

「で、どうしたんですか、さっきからウンウン唸ってー。」

「別に僕だって悩む事はあるさ。」

リヴィアと並んで悩みなさそうな人ランキング一位ですが。

「ちょっと今キミの相手してる暇ないから、姫ちゃんと遊んできなよ。ホラっ!早く!」

そう言うと、司書さんは私の背中をぐいぐい押して部屋から出した後、扉に鍵までかけてしまった。

「さっき、そんなにマズい事言ったのかなぁ?」

あの司書さんが悩むぐらいだからね、後でちゃんと謝らないと。


 リヴィアを探しに魔王様の部屋に立ち寄ってみると、案の定リヴィアがいた。親子水入らずの所悪いかな?

「あっ!レミィだ!」

トコトコと駆け寄ってきて私に抱きついてくるリヴィア。そしてそれを微笑ましそうに見つめる魔王様。仲の良い父子って感じ。

「きょうはおしごとないの?」

うーん、『今日は』っていうか…毎日仕事ないようなもんだと思うけど…

「うん。だから、いっぱい遊ぼうか!」

「レミィとはゆうがたしかあそべないからね。」

ぐさっ…た、確かにリヴィアとは生活する時間が違う…っ

「でもね、レミィはいつもわたしがいきたいところにいっしょにいってくれるし、ほんもよんでくれるよね!」

や、やさしい…この子すごくやさしい…!

「よかったですねえ。…あ、そうだ。」

魔王様が何か思いついたように手の平を拳でポンと叩く。

「どうしたんですか?」

「お話があります。リヴィア、少し外に行っていてくれないかな?」

「はぁい。」

リヴィアはトコトコと魔王様の部屋を後にした。水色の大きなリボンと、滑らかなブロンドの髪に、うっとりしてしまいそうだ。そう言えば、魔王様とリヴィアはよく似ているけれど、リヴィアは鮮やかな金色の髪の毛なのに対して、魔王様は淡い金色、いわゆるプラチナブロンドというやつだ。今まであまり意識していなかったが、きっとリヴィアの金髪は母親に似たのだろう。

…そんな事を考えてしまうのは、やはり魔王様の『話』が、あまり良いものではないと、私の直感が告げている為だろう。なにか、嫌な予感がする。ただ、それだけだったが、自然と背筋が伸びる。

「それで、話というのはですね…。」

私は、膝の上で手をぎゅっと握って、魔王様の話に備えて身構えた。


 今日はフォルツの部屋に、珍しくルフレが訪ねて来ていた。

「ねえ、勇者」

「ん?」

「これから、どうするの?とても魔王退治なんてできる雰囲気じゃないし…剣士は死んじゃったし…。」

「今まで言われてきた、人間の撲滅を狙う魔王っていうのが真っ赤な嘘だってことが解ったもんな。」

今までの旅は何だったのか、と肩を落とすフォルツ。

「ボクは…勇者について行くよっ!」

「そうか、ありがとう。」

「それで、思ったんだけど…ボクらはどうせ指名手配されてるんだし、いっそのこと王国転覆でも図ってみたら…と思うんだ。」

サラッと恐ろしい事を言うルフレ。不可能ではない辺りがまた恐ろしい。

「でもそれで新しい王国作ったとして、それからどうするんだ?」

「神官を探そう。あいつならきっと生きてる。後は、この国との交流を深めて、人と魔族が笑って暮らせる時代を作ろう。」

「面白そうだな。」

「まあ、どうするかは勇者が決めな。…ボクはずっと勇者について行くだけだ。」

「それは頼もしい、じゃあこれからもよろしくな。」

そう言って、フォルツが笑顔を向けると、ルフレはほんのりと頬を染め、はにかむような顔を見せた。


 魔王様の話を聞いて、思わず凍りついた。

「貴女は…そう遠くない未来に、死んでしまうのですよね。」

まさか、魔王様まで司書さんのように邪魔をするつもりなのだろうか。

「は…はい。確かに、そうですね…。」

「恐くは無いですか?」

怖い訳がない。私は何度もこの世界で死んだ事はあったし、間抜けな事故ではあったけど、死後の世界にも言った事がある。今更、死ぬ事を怖いとは思わない。

「恐いのは…リヴィアが私を忘れてしまうんじゃないかってことです。」

「忘れられることが怖い、ですか。」

「今まで、私がここで働いてきたことが消えてしまうのは怖いです。」

だから…私は…

「…死ぬわけにはいかない、と。」

「友達を不幸にするくらいなら。」

私がそう告げると、魔王様はしばらく何か考えた後、ゆっくりと口を開いた。

「貴女がリヴィアを大切に思っている事は解りました。…正直、驚きましたよ。貴女は人間らしく生涯を遂げることを望むものだとと思っていました。」

「ゾンビでも、何でも良いんです。私はずっとここに居たいです。」

「…いずれ、皆ここを去るというのに?」

司書さんと同じ質問だ。私は、背筋を伸ばし、膝の上で拳を固く握る。

「私は、いつまででも待ちます。また皆が生まれ変わってここに来てくれる事を。」

ゆっくりと深呼吸して出した結論は、同じ内容ではあったけれど、司書さんに話した時の何倍も強い想いが含まれている、と思う。


「そう、ですか。」

「今までお世話になった分、魔王様が居なくてもここを守っていけるようになりたいんです。」

「…辛いですよ、周りの人々が一人、また一人と死んでいくところを見るのは。」

「他の人にそれを強いたくはありません。」

魔王様は小さく頷くと、跪いて私の手を取った。

「ありがとう、レミさん。そして…これからもよろしくお願いします。」

人さし指にピリッとした痛みが走り、同時に視界が暗転した。


 目を覚ましたのは、私の部屋のベッドの上だった。

「ここは…」

「気が付いたかい。」

心配そうな顔をして覗き込んでいたのは司書さんか。

「あれ…えと…」

「キミの部屋だよ。落ち着くまでもう少し寝る?」

「あ、だいじょうぶ、です。」

まだ頭がぼーっとするけど、まあ大丈夫だろう。多分寝すぎたんだ。

「…ぃしょっと。」

ゆっくりと体を起こす。自分の手を見てみると、血色が悪くなっただけであまりいつもと変わりは無いように見える。恐る恐る胸に手を触れてみた。

――鼓動は、無い。

「司書さんから見て、私、何か変わりました?」

「顔が蒼くなったかな。」

やっぱりそんなもんか。

「そんなに気になるなら、一回試してみるかい?」

「えっ」

司書さんが私の肩をポンと叩くと同時に、私の体はいとも簡単にに弾け飛んだ。

「一瞬すぎて何が何だかわからなかったじゃないですか!」

「この間窓から落ちたときよりは長かったね…5分ってところか。神の力が働いていないからかな。」

改めて神様の偉大さを実感する。今までは一瞬だったもん。

「じゃあ、これでずっとここに居られるんですかね。」

「…そう、かもしれないね。」

司書さんは、曖昧な笑顔を私に向ける。

「…幸せかい?」

蚊の鳴くような声の質問に、私は少し戸惑った。

「まだ、解りませんよ。」


 そんな話をしていると、大きな音を立ててドアが開いた。…というか、ドアが倒れた。

「レミィっ!あのねっ、あのねっ!」

リヴィアがドアを蹴破って入ってきたようだ。司書さんは飛び込んで来たリヴィアとドアの下敷きになっている。

「姫ちゃん…もう少し、優しく入ってくれないかな…?」

「ごめんなさい!それで、はなしっていうのはね…」

完全に舐められているというかスルーされているというか。

「フォルツがここをでるって!」

「え?」

そっか、それもそうだよね。フォルツもいつかはここを出ていくのか…。

「出発は?」

「こんやっていってた。」

「見送りいかないとだね。よーし、準備だ準備!」

ベッドから立ち上がると、準備をしに部屋から駆け出す。

「いま、何時ですか?」

「夕方の4時。それより助けてから部屋を出ていってくれないかなぁ?」

忘れてました。


「いたたたた…全く…ってレミちゃん?」

「もうどこかにいっちゃいましたよ。」

「あ、そう。」

二人の間に変な沈黙が流れる。

「…何か?」

ニーズホッグが尋ねると、おずおずと口を開くリヴィア。

「…あのっ、レミィになにかあったんですか?かおいろわるかったし、なんか、てもつめたかったし…。」

「…姫ちゃんにとっては悪いことではない、とだけ言っておくよ。」

 その夜、フォルツ君とルフレちゃんが挨拶にきた。ファーストコンタクトは最悪だったけど、案外悪い奴では無かった。ルフレちゃんは、初めて会った時はすごくおとなしそうな子だと思ったけど、本が好きな変わった子だったなぁ。

「どうしたの、こんなに急に。」

「そろそろ、ここで油を売ってる場合じゃないと思ってさ。」

それにしても、突然すぎるよ…。

「何泣いてんだよ。清々しただろ、初対面で刺されたような輩が出ていって。」

「うっ…ふぇっ…、お、思い出が走馬灯のように…」

「お前死んだのか。」

…間違えちゃった☆

「今までありがとう、楽しかったよ。」

「私こそ…すごく、楽しかった。」

「お前も誘おうと思ったんだけどさ、ここを離れるのなんてリヴィアが許さないだろ?だからさ、お互い生きてるうちにまた会おう。」

フォルツがそっと手を差し出してきた。

「…勝手にくたばらないでよ。」

「それ、勇者に言う言葉か?」

フォルツの手をグッと握る。と、フォルツが一瞬あれ、という顔をしたが、何もなかったように顔をあげた。

「…じゃあな」

「それじゃあ、また。」

「しばらく死ねないな、お前には聞きたい事が増えた。」

悪戯っぽい笑顔を向けられる。再び目頭が熱くなってくる。

「なんて顔してるの。」

ボロボロと涙を流していると、ルフレちゃんに頬をひっつかまれた。

「るふへひゃん…」

「…あの眼鏡の人は?」

パッと頬から手を離して、ルフレちゃんが尋ねる。

「司書さんなら、図書館に居るんじゃないですかね」

「そう。あのさ、お礼、言っといてくれない?ボクからって。」

「あ、うん。」

「あのさ、ボクらこれから、頑張ってくるよ。」

「何を?」

「ボクらに嘘八百吹きこんで、ここまで来させた国を潰す。」

それってもしかして反乱!?フォルツとルフレちゃんの二人で?

「誰かがやらなきゃ国は変わらないんだ。だから、ボク達がこの国にお世話になった恩を、人と魔族が笑って暮らせる国を作ることで返したい。」

「ルフレちゃん…。」

「大丈夫、だってボクは国一番の魔法使いだからね!」

ルフレちゃんが被っていた帽子を私に被せながらウィンクをする。

「短い間だったけど、ありがとう!落ち着いたらまたくるよ。」

そう言って、笑顔でお別れできるなんて、私は幸せだな。


「…次、フォルツ君達が遊びにきたときに話そう。」


 それから5年の月日が流れ…

「レミィっ!」

私が寝ているベッドに頭からダイブして来たのはリヴィア。私の親友。

「ふにゃ…?何…?」

「遊ぼっ!」

ああ、いつもの気まぐれか。

「あれ、髪型、変わった?」

「そりゃあかわるよー。レミィったら一か月もねてたんだよっ」

「い、いっかげつ!?」

私が驚いて聞き返すと、リヴィアはふくれっ面で答える。ゾンビになってから睡眠時間が長くなった気がする。睡眠必要ないはずなのに。

「わたしがなにやっても起きないんだよー!ひどいひどいーっ!」

「そ、そんなに起きなかったのか…今度から気をつけるね。あ、あー…それにしても、髪の毛、すごく似合ってる。」

苦し紛れに、リヴィアの髪形を褒めてみる。今まではポニーテールにしていたが、今日は髪の毛を下ろして、一束だけみつあみにしている。小さな水色のリボンがアクセントになって、大人っぽい仕上がりだ。かわいい。

「本当?あのね、これお父さんがやってくれたの。」

魔王様にそんな特技が!

「今日…なんかあったっけ?」


「フォルツが遊びに来るの!」


 大騒ぎのエントランスを二階から見下ろすと、確かに見慣れた顔があった。でも二人とも護衛っぽい人にしっかり囲まれて良く見えない。しかもこっちを鬼の形相で睨みつけてくる人までいるし。

「レミィ、いこっ♪」

「なんかすごい顔して睨んでる人いるけど…。」

「だいじょうぶだよ!たぶん!」

私達が階段を下りて集団に近寄ると、どうやら魔王様とお話している最中のようだ。

「結構時間がかかったな。」

「…5年間、ですね。私達にとっては短いものですが。立ち話もなんですから、客間へどうぞ。」

「…まさか、魔王に客間に通されるなんて五年前は考えもしなかったね。」

客間に向かって歩き出そうと振り返った魔王様は、ちょうど後ろに居た私とリヴィアを見つける。

「おや、レミさんじゃないですか。起きたんですね。それじゃあ、勇者君を客間に案内してあげてもらえるかな。別の用事があるので…。」

「あ、ハイ。」

そう言って私がフォルツとルフレちゃんに近づくと、二人の周りに居た護衛の一人が無言で割って入った。

「…。」

「何か、言ったらどうです?」

「止めろ、そいつは人間だ。」

ルフレちゃんが護衛の人の肩をぐっと掴む。

「その子はボクの友人だし、ましてや国から追われていたボクや勇者をかくまってくれたのは此処の人達なんだから、あんまり酷い態度をとるなら、ボクも怒るよ。」

「…失礼いたしました」

ルフレちゃんが低い声で呟くと、護衛の男は私達にお辞儀をした。すっげー!

「あの、さっきから気になってたんだけど、その人達は?」

「本当は俺とルフレだけで来るつもりだったんだけどな、聞かなくて。」

「我が国を救った英雄を護衛もなしに危険な場所に送る訳にはいきません!」

わがくに?すくった??

「結局帰ってみたらボクらが居ない間にこっちに侵攻しようと相当無理して軍備整えてたみたいで、こっそり外堀埋めて頑張ったんだよ。」

「…要するに?」

「旧王制潰しました。おしまい。」

驚いた。まさかフォルツ君がマジで国潰してるとか思わなかった。

「何だよその顔」

「いや、かなりレベルの高い有言実行したなぁと思って。」

「まあ案外楽だったぜ。こっちに理解のある奴とか、下っ端とかはあんまり良い扱いされてなくて不満タラタラだったからな。お前と目合わせないように頑張ってるコイツだってその一人だし。」

と言って、護衛さんの中の一人を私の前に押し出してきた。知ってる人なんていたっけ?

「…僕は、ただ侵攻は気が早すぎるんじゃあないかと王に進言しただけです。聞き入れてはもらえなかったけど」

「幽閉されてたもんな、お前」

「うっ…」

見たことあるような顔…まさか

「人間が取り残されている可能性のある土地に侵攻するなんて、そんな事がばれたら民衆の反感を買うだけだ。」

「あの…ユキ…さんですよね?」

前は私よりも背が低かったのに、いつの間にか私よりも背が高くなって…てかフォルツ君よりものびてるんじゃない?百七十センチくらいかな。

「…5年間あれば変わるさ、人間(・・)なら、な。」

「それは、私が変わらないと言いたいのですか。」

ユキさん、ゆっくり頷く。どんなスペックだよ!何でルフレちゃんも気づかなかった事に気づくんだよ!

「あれ、二人とも知り合いだった?」

「知り合いというか…」

「一度、会っただけだよ、うん。」

「ふうん…?」

ルフレちゃんは私とユキさんの間にあった確執なぞに関わらなくて良いのだ。うん。そのほうがいいにきまってる。

(…人間辞めただろ)

(貴方に関係ないでしょう。むしろ何で気づいたんですか。)

(本業が学者だからな、同じような不死者は何度も見てきた。確かにお前が人間を辞めたことで僕にデメリットがあった訳じゃないし、気にするべきではないと思ったが、ただ単に気になったから聞いてみただけだ。)

ひそひそ声で会話しつつ、改めてユキさんについての新しい情報が更新される。

(司書さんに怪我させた事、まだ許してませんからね。)

(許してもらおうなんて思った事は無い。)

むーかーつーくー。

「あんまり、仲良くなかった?」


仲良くなんてないです。


 客間に着くと、緊張した面持ちで(ユキさん以外の)護衛さん達が私達をじっと見つめていた。何もしないよ…

「お、お茶どうぞ。」

その場に居る全員に紅茶を入れる。見られて緊張するからか、手が震える…。

「わたしも飲んでいい?」

リヴィアは注いだ紅茶を手に取り、角砂糖を二つカップの中に入れると、口に運んだ。

「さすがレミィだね、すっごくおいしい!」

「ボクも貰おうかな。」

ルフレちゃんが紅茶を飲み始めると、周りの人たちもリヴィアとルフレちゃんを交互にチラチラと見ながら紅茶に手を伸ばした。

「やっぱり紅茶はいいね。温まるよ。」

「だな。」

「魔王様はまだなのかな?」

魔王様にしては珍しく、時間がかかっている。

「積もる話もあるだろうと思ってわざと遅れてるんじゃないかな?」

「積もる話って言われても…。」

このいやーな空気の中で喋ろうって言われても…

「…友人だったらちゃんと話すべき事があるだろ。」

「む…。」

ユキさん、楽しく喋るのとはほど遠い振り方しないでよ…


「そう言えば、リヴィアはこれからどうするんだ?」

「え?」

フォルツが唐突に口を開く。リヴィアのこれからの事って?

「魔王の後を継ぐのかってことだよ。」

リヴィアがポンと手を叩いた。なるほど、そういうことね。

「えーと…あんまり、よく考えてはないんだけど…。その…えっと…れ、レミィが、ずっと一緒に居てくれるなら…レミィが、支えて…くれるなら…お父様みたいに王様になるのもアリかな?なんて思う事も、ある…かなっ」

「そういうのって、結婚する人に求めるべきじゃ…」

思わず、私は口を出してしまった。

「わたし、結婚なんてするつもりないよ?」

『ゑ?』

一同、唖然。

「だって、男の人のことなんてあんまり知らないし…そばに居てくれるなら、わたしの事を一番よくわかってるレミィがいいもん。」

「え?え、あの、えっと?」

こんなの公開プロポーズじゃないですかー!やだー!流すべきなの!?私のログには何もない振りすればいいの!?いや駄目だ、証人が多すぎる、考えろ、この場を丸く収める気の利いた一言オアアアアア!!!

「すいません、遅くなりました…って、どうしたんですか皆さん?」

私があれこれと悩んでいる一瞬の間に、魔王様が部屋に入ってきた。私にとってはかなり嬉しいタイミングだったが、フォルツ君やユキさんはあまり面白くないらしい。一瞬眉間に皺を寄せたことを見逃していないぞ、私は!

「いや、何でもない。久々に会ったから、5年前に戻った気分で話していただけさ。」

「それはよかった。」

それから、魔王様やフォルツ君達で、条約(?)だの貿易だのという話をしていたのだが、あまり頭に入ってこなかった。

 それから、一人であれこれ考えるのも不毛だと思い、図書館に足を運んだ。

「ハァ…。」

図書館の中で、少し大袈裟に溜息をついてみたが、いつもの反応がない。司書さん寝てるのかな?

「結局一人で考えてるようなもんじゃない…はぁ。」

「暗い顔をしおって…」

足元から声がした。テーブルの下を覗くと、リヴァイアさんが居る。

「リヴァイアさんじゃないですか。司書さん知りませんか?」

「悩みなら聞いてやろうと思ったが…我では不満か?」

にゅるりとテーブルの上に這い上がって不満そうな顔を向けるリヴァイアさん。

「そういうわけじゃあ…」

リヴァイアさんは不満げに尻尾でぺしぺしとテーブルを叩く。そういう可愛いところが頼りないんだよなあ…何でこうも一挙一動が可愛らしいのだろうか。

「悩みなら話せ。吐き出すだけでも変わるぞ?」

「…。」

「まあ話したくないなら良い。」

そう言って、ぴょんと私の肩に飛び乗る。

「…リヴィアの事なんです。」

「姫君に何かあったのか?」

「なんか、私にずっとそばに、居てほしいって…」

言いながら、ちょっと恥ずかしくなる。

「ほう?」

「魔王になるなら、私をそばに置きたいって…言うんです。」

「光栄なことではないか。」

確かに嬉しいけど、なんか違うというかなんというか…!

「私なんかじゃダメなんです、リヴィアにはもっと有能な側近が付くべきなんです。こんな…自分勝手な理由で、命を粗末にするような…私なんかと、一緒にいちゃ…ダメ、なんです…。」

「命を粗末に?」

膝に置いた手がぶるぶる震える。

「ずっと、ここに居たいって、それで私…魔王様に噛んで貰って…でも、それをずっと言い出せなくて、意気地なし…ですよね。」

「自分勝手な理由なのか?それは。」

「ここに居てほしいって言われた訳じゃないんです。でも私がここに居たいから、ここが居心地が良いから…六十年ぽっちしか居られないなんてもったいないって、思ったからで…」

頬に頭をぐりぐりとこすりつけられる。可愛すぎだろう…。

「リヴァイアさん?」

「そんな事、胸を張って言えばいいではないか。『こんな素敵な場所で暮らすことができて幸せだ、ずっとここに居たいから人間を辞める事も厭わない程だ』とでもいえばいいではないか、駄目なのか?」

「…でも、つい最近まで人間だったのに、突然ゾンビですよ?」

「良くあることだ。」

あっていいのかそれは。

「…それに、もう悩む必要もないようだぞ。」

「え?」

振り返ると、リヴィアとバハムートさんが本棚の向こう側からこちらを見ているのが見えた。

「あ…」

リヴィアはペロッと舌を出すと、トトトと駆け寄ってくる。

「レミィ、ごめんね?びっくりしたよね?」

「いや、その、そんなつもりは」

私は慌てて首を振ったが、リヴィアはそんな事はお構いなしに私を抱き締めた。

「ふさわしいとかふさわしくないとか、そんなの関係ないよ。わたしはレミィの事、一番の友達で、一番わたしを理解してくれる人だと思ってる。今までも、これからも。それとも、レミィは違うの…?」

「そんな事無い…私も、リヴィアのこと…っ一番って…」

言い終わる前にリヴィアが私の頬を両手で挟んでギュッと両側から押した。

「ふぇ」

「やっぱりつめたいね。」

まあ、死んでるようなもんだからね。

「レミィは居なくならないんだよね?」

「…うん。」

「じゃあ、だまってた事はゆるしてあげる!」

にぱーという擬音が似合う笑顔。

「やはり、姫は笑っている方が似合う。…少し、気に食わないが。」

背後の視線は無視する事にしよう、うん。


その頃、図書館のドア付近にも3つの人影があった。

「すごく、入りづらい…僕の部屋があるんだけどなぁ…」

「同じく。」

「タイミング悪すぎだろ。」

3人は溜息をつくと、控えめに咳払いをして、部屋の中に入っていった。


 その日から、リヴィアが時折棺桶で寝るのを嫌がるようになったので、図書館の隣にあった空き部屋を頂いて暮らすことにした。地下だから朝日は入らないが、まあ時々外に出れば問題ないだろう。

「えへへ~レミィと一緒~♪」

最近リヴィアが幼くなったような気がしないでもない。

「まあ、暖かいからいいか。」

これまで通りに二人で一部屋を使っているが、私がほとんどベッドで過ごすか図書館に行くかの為、実質はリヴィアの部屋のようなものだ。

「リヴィア、部屋狭くない?」

「大丈夫だよー?机も、ベッドもちゃんと置けてるもん。」

部屋の引っ越しが済んでから改めて思ったけど、ダブルベッドと机が置けるなら結構な広さか。

「リヴァイアさんもバハムートさんも一緒に寝ようって言ったんだけど、リヴァイアさんに断られちゃったんだよね。」

そんな交渉してたの?

「レミちゃん、入っても良いかい?」

「あ、良いですよー」

部屋が隣になったからか、前より司書さんの方から訪ねてくることが増えた気がする。まあ、私が司書さんの後を継ぐことになったから、そりゃあ訪ねてくるよね。

「あー、またレミィを一人占めしてずるいですー。」

リヴィアが頬をぷくっとふくらませる。

「し、しょうがないじゃないか、仕事なんだから。」

「本当に仕事か?」

司書さんの肩のあたりからぴょこりと顔を出したのはリヴァイアさんだ。

「なんてこと言うのさ!?」

「たまには姫君と羽を伸ばさせてやるべきだと思うぞ、流石に一週間は姫君が割を食っている。」

「うっ…」

リヴァイアさんが司書さんに抗議すると、リヴィアはそれにうんうんと頷き、リヴァイアさんの頭を優しく撫でる。

「リヴァイアさんもこう言ってるみたいだし、今日はわたしとお出かけしよう♪」

「ちょ、ちょっと!勝手に決めないでよ姫ちゃん!」

このままじゃちょっとした喧嘩になりそうだよ…ってそうか、私が一回寝たら中々起きないから二人とも用事が溜まるのか。

「司書さんも大人なんですから、今回くらい譲ってあげたっていいじゃないですか。」

「ちょっとレミちゃん、その言い方、ずるいよ!」

「レミィもそう思うよね?」

私がこくりと頷くと、司書さんは渋々図書館に帰って行った。

「ねぇねぇ。」

「ん?」

リヴィアが袖をツンツンと引くのでリヴィアの居る方を振り返ると、リヴィアが髪を結っていたリボンを外して、私の首にそっとかけ、綺麗に結んだ。

「どうしたの?」

「これ、あげる!」

そう言って、私に抱きついてきた。


「あのね、レミィ。だーいすき!」


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