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星の骨を拾う  作者: ぬぬぬ


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第一章イチワ「星骨」

空が燃えていた。


 夜空を横切る無数の火線が、黒い雲を赤く染めていく。


 流星――と呼ぶには、あまりにも数が多すぎた。


 まるで終末のような景色だ。事情を知らない

 人がこの景色を見れば案外美しいと思うのかもしれない。


 轟音。


 数秒遅れて、大地が震える。

 荒野のあちこちで砂煙が上がった。


「北側に三つ! 東に大型反応!」


 通信機越しの怒鳴り声。


 それと同時に、荒野に待機していた車両が一斉に走り出す。


 改造トラック。


 装甲バイク。


 荷台にクレーンを積んだ回収車。


 人々は、空を見ていた。


 落ちてくる“星”を。


 


 リオは回収車の荷台に乗りゆられながら

 小さく舌打ちした。


「今日は多いな……」


「多い方が稼げるだろ」

運転席の小窓を通じてガドはリオに喋りかける。


 細い腕ほどの太さがある葉巻を咥えた大男だ。


「死ななければな」


「回収屋が今さら何言ってんだ」


 その言葉に、リオは返事をしなかった。


 代わりに、遠くへ落下した光を見る。

 それは、文明崩壊以前の残骸。

 かつての人類が空に取り残したとされる

 巨大構造物群が、数百年経った今も崩れ続けている。

 そして、その破片が地上へ降ってくる。

 人々はそれを“星骨”と呼ぶ。

 理由は単純だ。


 空から落ちてくるから“星”。

 機械の残骸だから“骨”。


 それだけ。


 だが、その骨で世界は動いている。


 発電機。


 浄水装置。


 銃の部品。


 薬品精製機。


 都市防壁。


 旧文明の技術は失われた。

 今の人類は、星骨を分解し、再利用することでしか文明を維持できない。

 だから回収屋がいる。

 命を賭けて星骨を拾う人間が。


 問題は、落ちてくるのが鉄くずだけではないことだった。


「反応近いぞ!」


 少し離れたところからガドが叫ぶと

 リオは気だるげな様子で前を見る。

 巨大なクレーター。

 その中央に、半ば地面へ突き刺さった黒い金属塊があった。

 表面は赤熱し、煙を上げている。

 大きさは家ほど。


 当たりだ。


 あれだけ大きければ、街一つが数ヶ月持つ。

 別の回収班も遠くから向かってきていた。


「急ぐぞ!」


 

ガドは回収車を滑らせるように止め、地面へ降りる。


 熱風。焦げた鉄の臭い。腰の短銃を抜きながら、

 ゆっくりクレーターへ近づく。嫌な静けさだった。こういう時は大抵いる。


「熱源反応!」


 ガドが背負った探知機を見ながら叫ぶ。


「来るぞ!」


 次の瞬間。


 クレーターの裂け目から、“それ”が飛び出した。

 四本脚。獣のような金属フレーム。赤い単眼。黒い装甲。旧文明の自律機械兵器。


 兵器型は人を殺す。だが分解さえ出来れば

 街ひとつを潤す部品と燃料がてにはいる。

 

 人ほどの大きさがある機械は砂を蹴り、

 図体に似合わず一瞬で距離を詰めてくる。


 様子がおかしい。今まで見たことにないくらい

 大きい上に絶対的に早い。


「ッ!気をつけろガド!こいつ強いぞ!」


 リオは横へ飛んだ

 直後、いた場所が抉れる。速い。

 勝てないと悟ったのかリオは反撃はせずに何故か

 先程のクレーターに走り出す


 リオを追いかけようとする

 機械目掛けてガドが散弾銃を撃つ。


 当たった。ものすごい音と散る火花。

 だが機械は止まらない。


 跳躍。ガドへ飛びかかる。


「クソッ!」


 間に合わない。

 ガドが一瞬悔しそうな顔をして

 抵抗を諦めたのか銃を下ろして目を瞑る


 「ガド!やっぱり当たりだったぜ!」 


 大声を上げてクレーターからリオが叫ぶ

 手には何やら黒いカプセル状のなにかを持ってる

 それを見た途端機械がリオの方へ向かって

 走り出す。しかしそれよりも早くリオが

 カプセルを割って開いた。


 刹那リオの視界に

 ノイズのような光景が流れ込む。


 崩壊した都市。


 銃声。


 血。


 照準。


 呼吸。


 誰かの記憶。


 


「……きた…」


 リオは低く呟き、自らの銃に触れる


 瞬間。


 脳へ熱が流れ込む。


 戦闘記憶。


 旧時代の兵士の感覚。


 何故か違和感のある銃。


 何度も退治した敵。


 狙うべき場所。


 引き金を引くタイミング。


  リオは銃を構える。


 ほとんど反射だった。


 一発。


 機械の脚部。


 火花。


 体勢が崩れる。


 二発目。


 赤い単眼を撃ち抜く。


 機械は地面を滑り、そのまま動かなくなった。


 


 静寂。


 風だけが吹いている。


 


「……助かった」


 ガドが息を吐く。


「助けて貰ってなんだが(改行不要)

お前、その力ほんと気味悪ぃな」


「好きで使ってるわけじゃない」


 頭痛がする。

 他人の感覚が脳に残っている。

 自分の記憶と混ざりそうになる。


 「お前のその力がなければ、ほんとに(改行不要)

 死んでたかもしれねぇな。」


 「僕もそう思う。今までにないくらい強かった

 本来なら中型兵器でも、僕たちなら

 そんなに手こずることないのに、」


 「まぁ、強いやつにたまたま遭遇しただけだろ!

にしても、今回はほんとに当たりだぜ

 中型兵器と記録カプセル。苦労したかいあったな」


 ガドが口笛を吹く。


「解析屋に持ち込めば高く売れるぞ」


 「奴ら、まともに記録を見れないくせに偉そうでいけ好かないな。」


 「お前が特殊なんだろ。普通の人間より

 遥かによく見えてるさ。」


 旧文明の情報が残る星骨は高価値だ。


 少し大きめなカプセル状の物体は開くことができ、

 開けば旧人類の過去を知ることができる。

 最も、皆見ることができるが完璧に

 記録を知ることができる人間はいない。 


 断片的な設計図や数値を抜き出せれば十分だった。


 ――リオを除いて。


リオは記録を記憶として

自分の物にできる唯一の人間だ。

知るものは仲間以外はいない。


リオは黙ったまま、倒れた機械を見る。


 すると、機械の奥。

 砕けた内部で、何かが光った。


 


「……?」


 


 人影だった。


 細い身体。


 長い銀髪。


 まるで眠るように、少女が横たわっていた。

 こんなことは初めてだった。


 星骨から人型が見つかること自体は珍しくない。

 だが普通は、もっと機械的だ。

 露出した骨格にむき出しの配線。

 人間とは似ても似つかない。


 けれど目の前の少女は違った。


 眠っている人間にしか見えない


 不思議に思いながら動く気配がない少女

 を確認しようと触れたその瞬間。

 リオの脳へ、強烈な記憶が流れ込む。


 

 白い部屋。


 警報。


 誰かの泣き声。


 崩れていく都市。


 

 そして少女の声。



『――思い出して。』

 


 リオは反射的に手を離した。


 呼吸が乱れる。


 

「おい、どうした?!」


 ガドの声が遠い。

 大丈夫という言葉がすぐに出ない。


 少し息を整えてもう一度少女をみる

 先程と変わった様子は見受けられない


 少女の閉じた瞳。


 動く気配のない手足。


 色のない肌。


 既に事切れている。はずだったのに


 ふいに、その赤い目がゆっくり開いた。

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