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信頼の王国  作者: 志々十勒
創世記─これまでとこれから─
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世界の基礎知識

 あれから数日が経った…。


 王宮での生活の中で、母を亡くしたメフィスは色々な事を八柱を始め、多くの教師役から教えて貰っていた。


 母の死を忘れたかったのか、隙間を開けるとふと湧き出す悲しみに蓋をしたかっただけかもしれない。


 礼儀作法、数学や取引、地理、国家の歴史、制度や法案の必要性、世界の基礎知識など様々な事柄をワルターやラシュマ、ツバキやアーサーンから学んでいった。


 なかでも、知識者コマの世界の基礎知識学は今までの逃亡生活の中では考えもしなかった世界を見つめ直し、理解できるとても楽しく考えさせられる授業であった。


 今日も王宮の次代を担う青年や少女に交じって講義を受ける。


 コマ自体が忙しくしている為、この時間は貴重である。


「…では、この世界に魔法はあるのか?答えは“ある”。しかし、より正確には“あるにはある”が正解に近しい。」


 コマが淡々と言葉を紡ぎ、指先に揺らぐ小さな火を灯して、続ける。


「ここまでで、魔法とは、何か答えられるかな?」


 次代を担う生徒達へ質問するコマ。


 コマの指先の火が揺らぎ消える。およそ数秒の不安定な現象。


 実際に魔法の実践を行ったコマは軽い頭痛にこめかみを抑え、深いため息をつく。


 手を上げてメフィスは最適解を示す。


「つまり、魔法は“強い思い”と感情の“揺れ幅への深い理解”、そして“実行する言葉”が結びついたときに発生する自然“現象”を捻じ曲げるモノって事ですよね」


「かなり正解だ。これは、お手軽なものではなく、難易度が高く使える者はごく一握り。“心の純度が極端に高い者”だけが魔法の域に達する。同時に、感情が揺れすぎれば発動しない不安定さもある」


 感情を構造として知るコマでさえ、現象として発生させる事は出来ても、安定には程遠い状態をメフィスや生徒に教え込んでいった。


(でも…これじゃ私の“聖癒術”って魔法じゃない?)


 メフィスの疑問は魔法を知った現在、自分が母から受け継いだこの力が、魔法と似て異なるモノだと知ってしまった。


 軽く手を開き力を集めるとすぐに淡い小さな緑の光が掌に現れる。


(お母さん、逃亡中になんか言ってた気が…。世界の禁則事項って何?)


 講義により知識と、理解を強めるにつれ不可視になっていく自分の力への不安が同時に生まれていく。


 このように様々な事柄をいくつも吸収していった。


 例えば「魔物とは何か?また人に近いが、人ならざるはいるのか?」という講義で学んだ事。


 現在までに亜人のような身体構造が異なる種族は観測されていない。人とは文化差による人種差のみで区分される。


 だが、この世界には魔物は存在する。


 魔物とは、魔法の暴走や失敗の産物ではなく、負の感情の収束点や、強すぎる感情に飲まれた“心の変質”の成れの果て。別名“心が届かない者達”とも呼ばれる。


「特に…」


 そう言いながらコマは黒板に、ゆっくりと五つの言葉を書いた。


孤独、恐怖、憎悪、虚無、欲望。


 それらが一定値を超えると、「感情圏」と呼ばれる世界層が反応して人の形を保てなくする。


 魔物化は個人の問題ではない。


 戦争や怨念が蓄積した土地では“感染のように”発生率が上がる。


「だからこそ、世界の各国家は、民の感情の収束した核となる感情結晶に基本の感情基盤を設け、外交などで“感情の爆発”を抑えようとしているのだよ」


 世界の理…、なぜ各国が◯◯の国と名乗っているのか初めて知った。


 そしてこの頃には、彼女は、多分、自分の力は世界の不可逆の理である魔物を元の状態へと“癒やす”事も可能な異質な力であることを理解してしまっていた。


 世界の理に干渉出来る異能…、心に冷たい空気が触れる。世界の異端者…嫌な感情が鎌首をあげる。


 特異点だとわかってしまっていた。


「これ、“聖癒術コレ”が私と母が狙われていた理由…」


 理不尽なこの能力の代償で、普通が奪われた過去。逃亡中の母の苦しみ、痛み、苦しさはこの力のせい…。


 だが、あの過程が無ければ、私はここにいないのも事実である。


 言いようのない感情がぐちゃぐちゃに心をかき混ぜていった。


 メフィスの世界を知る勉強はまだまだ始まったばかり…。


同時刻ー執務室ー


 ファウストは王宮の窓から王都ラージルを見据える。


「ねぇ、世界ってどう成り立っているの?」


 幼少期の自分の言葉を思い出す。ゼロ王が王宮へ帰還してから、急に過去の自分を省みる回数が増えた気がする。


 今では、自分で答えられる問い。


この世界は、目に見えない“感情圏エモスフィア”に包まれている。


 故に感情は自然現象に密接に関係する。強すぎる幸福は 光粒や好天へ、深い絶望は大気を濁らせ、魔物を生み出す。


 国の繁栄度すら「国民の感情」に左右される。都市全体の期待は農作物の収穫量を上昇させるし、逆に恐怖や不安が蔓延すれば周囲の獣は狂暴化していく。


 感情のうねりが世界へ直接作用する世界。


 今のフェルシアが豊かなのは、信頼の善意部分の相互作用が強いからだ。


だが…フェルシアの国家基盤に載せた“信頼”には別の側面もある。


 今は上手く回ってくれている。奇跡的に、私の協力者は有能な者ばかりだった事もあり、そう立ち回れた。


 あの少女を『保護対象』と指定した事は、間違ってはいない。


「結局は、同じ事だ。世界は『何かの選択の連続』…その結果に過ぎない」


 誰にともなく呟く。何も答えは返ってこなかった。


 そこへ一人の近衛兵が報告にやってくる。


「陛下、小規模“魔物”災害発生の兆しが有ります。至急、大将殿が出陣の許可を求めています」


 詳細を聞くと、以前切った『反逆の王冠ディークラウン』の残党が収束点として地方都市で“魔物化”したらしい。


「出陣の許可をする。周辺地域の避難、及び補填も同時進行で進めろ!」


 外套を翻し、席をすぐさま立つ。近いところで影も直ぐに動いたのは言うまでもない。


 ファウストは心の中で、魔物の発生する理由を改めて整理する。


 まず魔法は「思いの凝固」。純度の高い肯定の感情が形になると発生する。


 そして魔物とは「思いの暴走」。主に負の感情が限界を超え、感情圏がその人物を呑みこんだ状態の事…。


「国の癌の摘出手術の結果か。これも私の“選択”の答えなのだろうな」


 どこかで少しだけ何かが軋む。何度目だろうか、あと何度、経験する事だろうか。


 だが、既に盤面は動かしてしまっている。いまさら降りるという選択はない。


「フェルシアは終わらせない」


 ファウストはまた“選択”する戦場へ戻っていった。

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