13章-6.地下での戦いとは 2005.4.12
「どうしようか……」
僕は、行く手を阻むプレイヤーと戦闘員達を物陰から観察し呟く。
「強行突破一択」
「ふむ……」
迷路のような医療施設の地下フロアを進み続け、残り3分の1程度の辺りまで来たところで、僕達は多数のプレイヤーと戦闘員達に行く手を阻まれ、足を止めた。
何故こんな中途半端な場所に敵が密集しているのか。一体この先はどんな状況になっているのだろうかと嫌な予感がしてたまらない。
僕は色々と可能性を考えてみるものの、結局の所真相は分からない。この先に行かなければ、答えは永遠に分からないのだろう。
「1番奥にいる奴、SSランクプレイヤーだから」
「そっか」
「あれは俺がここで倒さないといけない。だから、百鬼は先に行って」
「……分かった」
まだ、敵は僕達の存在には気がついていない。だが、この先を行くならば避けては通れない。
そして、グラが言うSSランクのプレイヤーが問題だ。巨大な太刀を持った男だ。身長も高く、僕達より一回り大きい。恐らく、とんでもないリーチだろう。
「行く」
「うん」
僕達は呼吸を合わせ、一気に敵の前へと躍り出た。そして、勢いを殺さず走り抜けながら戦闘員達を処理していく。
戦闘員達は僕達に銃口を向けることすら出来ずに処理され倒れていく。順調だ。
「ナキリ!!」
グラの掛け声と同時に狂気を解き放つ。そして直後、グラはSSランクの長身のプレイヤーが振り下ろした太刀を躱し、斬りかかっていた。
僕はありったけの狂気をグラに喰わせ、グラが作り上げた、敵と敵の隙間を走り抜ける。
正直、SSランクプレイヤーを出し抜けるのかは賭けだ。
僕は全力で走り続け、グラ達が戦う直ぐ脇を突き進む。
グラと共鳴し、感覚を強く共有しているから理解出来る。SSランクプレイヤーは僕達の意図に気が付き、僕へと太刀を振り降ろそうとしている。
だが、止まる訳にはいかない。強行突破するしかない。
「お前の敵は俺だっ!!!」
グラの鋭い殺気が飛び、声が響く。
今まさに僕に太刀が振り下ろされる所で、僕は前方へ飛び込むようにして姿勢を低くする。
そして間一髪。
僕は床を転がりながらすり抜けた。
そして、直ぐに立ち上がり全力で走り続ける。
どんどん遠くなるグラとSSランクプレイヤーの気配を背中で感じながらも、一切振り返ることなく走りきった。
どうやら作戦は成功。強敵であるSSランクのプレイヤーは完全に振り切れたようだ。
だが一方で、処理しきれなかった戦闘員達は僕を追ってきている。
僕は作戦が成功したことに安堵しつつも気を引きしめる。僕の戦いは、まだまだ終わっていない。
十分に距離を取った所で、僕は立ち止まり、そして振り向き地を蹴る。
僕を追いかけてきていた戦闘員達は、慌てて銃口を僕に向ける。
撃たせてなるものか!
姿勢を瞬時に低くし、両の手に持った刃で戦闘員達に切りかかっていく。
何発か銃声が響く。それが僕にあたるものなのか、分からないままに前へと進む。
怯んでいる余裕はない。恐怖はあれど、突き進むしかない。躊躇えばそれこそ撃ち抜かれるだろう。
僕は流れるような動きで戦闘員達の首を刎ね、心臓に刃を突き刺し、腹部を切りつけ、刃で喉元を切り裂いた。
止まるな。手を動かせ。
全力で動き続けろ。
僕は荒れる息も、痛みを伴う心臓も無視してひたすらに刃を振るった。
絶え間なく鳴り響く銃声が周囲から聞こえてくる。
銃弾が腕や足を掠るたびに、熱を持った痛みが突き刺してくる。
それでも、やり抜かなければならない。
僕は進まなければならない。
グラと共に作り出したこの状況を、何としてでもものにするのだ。
僕は敵が全て消えるまで、一切動きを緩めること無く動き続けた。
そして、ついに――。
「はぁ……。はぁ……。はぁ……」
その場に立つのは僕だけになる。
自身の荒れた息が煩い。
心臓は飛び出しそうな程強く速く脈打っている。
僕はそれらを落ち着けながらも直ぐに物陰に隠れ、応急処置を行う。まともに攻撃を受けたところは無いが、放置はできない傷だ。しっかりと処置を行う。
僕は体制を整えると、再び目的の地下通路入口を目指して進んだ。
***
僕が向かう先には多くの気配が散在している。その状況から、おそらく戦闘員達はこの地下空間をマッピングしているのだろう。
多くの戦闘員達を使って、全ての部屋をくまなく捜索しているように思う。
一方で戦闘を行っていると思われる気配も近くに感じる。そこでは一体誰が戦っているのか。
もしかすると、ここで療養をしていた関係者かもしれない。
この状況下で、どう行動するのが『最善』なのか。
僕は考える。
その戦っている人物も、爛華のように足止めとして戦っている可能性もある。
それであれば加勢に行くべきかもしれない。
僕が加勢してどれ程の足しになるのかとも思うが、敵の攻撃が分散するだけでも戦闘は楽になるはずだ。
ほんの少し道は逸れてしまうが、僕は今まさに戦闘が起きている場所へと向かった。
付近までくると、絶え間ない銃声の間に断末魔の叫び声やうめき声が聞こえてきた。激しい戦闘が行われている。
目の前の扉の先、そこが戦場に違いない。
僕は気配を消して扉からそっと覗き込んだ。
するとそこは長い廊下だった。その廊下を埋め尽くす程の戦闘員達の背中が見える。そしてその奥、廊下の突き当たりに1人の男性がいた。
彼は壁を背にして構えている。50代くらいだろうか、白髪混じりの黒髪に髭を生やしている。
その男性は戦闘員達の動きに合わせ、軽い身のこなしで飛び交う銃弾を避けていく。そして戦闘員達を1人ずつ素手で殺していた。
その動きには一切の無駄がなく、まるでグラの戦闘を見ているようだった。だがしかし、その男性は左足がない。左腕もない。松葉杖を着いた状態だ。さらに左目を包帯で覆っていることから、視界の半分は見えていないだろう。
それにもかかわらずとんでもない動きで戦っている。薄いブルーの患者衣を着用していることから、ここで療養していた関係者だろう。そして、間違いなくプレイヤーだ。
僕は気配を消したまま音を立てずに駆け出す。
戦闘員達の背後から襲撃し、少しでも人数を減らすべきだ。戦闘員達は男性の方に気をとられている。その隙に削れるだけ削りきってしまおう。
僕は大鋏の刃をそれぞれ両手に持ち、戦闘員達に切りかかる。そして、次々に首を刎ね飛ばしていく。
患者衣を着た男性はいち早く僕の存在に気がついたようだ。目が合うとニヤリと笑った。
次第に銃口は僕の方へも向き始める。
僕は弾丸を避けながらも近接に持ち込み戦闘員達を処理していく。チラリと男性に目を向ければ、片足にも関わらず、松葉杖を上手く使って立ち回り蹴散らしていた。
敵の注目が分散したことで、動きにキレが出ている。片足も片腕も片目もないのに、そんな動きができることに驚く。
「青年! その刃を1つ貸してくれ!」
男性は戦いながらもそう言ってニヤリと笑う。僕は左手に持っていた鋏の刃を男性の方へと投げた。
男性は刃を手にすると、構えた。
と、その時だった。
ピシリ。
その場の空気が凍りついた。
心臓が強く締め付けられ、冷や汗がどっと吹き出す。
僕は戦場のど真ん中にいるにも関わらず、身動き1つ取れずに棒立ちになってしまう。
本能的に動いてはいけないのだと感じ、呼吸すらできない。
これは紛れもなく殺気だ。それも本物が放つ殺気。
恐らくグラやトラが本気を出した時に感じるようなモノ。強者にしか出せないモノだ。
そして、次の瞬間。
僕の周囲に突風が吹き抜けていった。
何も分からない。
ただ風が過ぎ去って行ったと、僕にはそう感じただけだった。
「助太刀助かった」
背後から声が聞こえて、僕の肩にポンッと手が置かれた。その僅かな触覚で、僕の体は時を取り戻す。緊張が解けて感覚が戻ってきた。
「おっとっと。片足だと戦いづらい」
振り返れば患者衣を着た男性がニヤリと笑って立っていた。
その手には僕の鋏の片割れを持っている。
そして、周囲を見回してみれば、全ての敵が死んでいた。まさか今の一瞬で残りの全てを刈り取ってしまったとでも言うのだろうか。20人は残っていたはずだ。
到底信じられない光景に、僕は恐怖を感じ再び動けなくなる。
「怖がらせてしまったかな」
「いえ……」
そう答えてはみたが、僕の手や足は今も震えているし、未だにまともに動くことが出来なかった。
本物の殺気を向けられ、直に浴びるとは、こういうことなのだと実感する。
「私はね、六色家の人間だ。ここで療養させてもらっていた。まさかそこに攻め込まれるとは思わなかったが……」
「ずっとおひとりで戦っていたんですか?」
「その通りだ。近くの怪我人達が逃げる時間を稼ぐためにここで戦って、戦闘員の注目を集めていた。果たしてこの物量の敵相手に逃げきれたかどうか……」
患者衣を着た男性はどうやらここで敵を少しでも引きつける役割をしていたようだ。なんて無茶をする人なのだろう。
先程の動きを見れば、多勢に無勢でも戦えるほど強いのだと分かる。だが、四肢を欠損し視野も半分。そんな怪我を負った状態でも戦うなんて……。
僕の常識では考えられない。
怪我をする前は、グラやトラのような、いやそれ以上のプレイヤーだったのではと感じる。
「その、怪我人達の中に20歳前後の女性はいませんでしたか?」
「すまないが、それは覚えてない」
「そうですか……。ありがとうございます」
氷織もその逃げた人達の中にいればと思ったのだが。情報は得られなかった。
「青年。この後はどこへいく?」
「この医療施設の奥、避難地域の外へ出ることが出来る地下通路への入口を目指します」
「そうか。ならば私も共に行こう。少しは役に立ってみせよう。こんな体でも、戦闘員くらい蹴散らせる」
僕は患者衣を着た六色家の男性を連れて、再び地下通路入口を目指した。




