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【新連載】【エトゥールの魔導師2】エトゥールの養い子〜貴方と手を繋ぎたい〜  作者: 阿樹弥生
第2章 貴方に名前を呼ばれたい

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(55) 第2回メレ・アイフェス集合会議⑮

お待たせしました。本日分の更新になります。 お楽しみください。

現在、更新時間は迷走中です。 面白ければ、ブックマーク、評価、布教をお願いします。(拝礼)

 サイラスはロニオスを見つめ、先程(さきほど)の言葉を考えた。


――それは報酬外の話題だな

――世の中には「等価交換」という言葉がある

――無償奉仕(ボランティア)は趣味ではない


 つまり『彼』は正しい等価交換さえあれば、協力に応じるのだ。サイラスは交渉の余地を感じ取った。

 だが、『彼』が酒以外の何に価値を見いだすタイプなのか、さっぱり謎だった。


「俺の記憶喪失の原因究明するための手助けに、どの程度の報酬が必要なわけ?」

『ストレートに聞いてくるなぁ』


 猫型の精霊獣(ウールヴェ)は、笑いを漏らした。


「ストレートに聞く方が時間を無駄にしないってことを、さっき学んだんだ。何を代価に望むわけ?俺は解決の手助けが欲しい。それこそ、『猫の手も借りたい』ほどに」

『おやおや、逆手に取られたか』


 カイル達を断った文言を切りかえされて、ロニオスは再び笑い声をたてた。


『だが、発想は逆だ。等価交換とは、君がどの程度支払うつもりか、が重要だ』

「は?」

『私が代価としてエレン・アストライアーの弟子(でし)をやめろと言ったらどうするんだ?』

「記憶なんていらねーよ」


 サイラスは即答した。

 と、同時にこの猫姿の人物がイーレの原体(オリジナル)であるエレン・アストライアーと共に過ごしてきた存在であることを実感した。

 エレン・アストライアーの名を知る者は限られる。


『では、リルの養い親をやめろと言ったら?』

「それも、ないな」


 会話に養い子が動揺している。

 もしや、そんな選択をする薄情な人間と思われているのか、とサイラスは複雑な気分に(おちい)った。


『ほら、このように君の中では、「君の記憶」の価値は確立している。だったら、何を代価として差し出すことができるか、答えはおのずと導かれるはずだ』

「…………普通、相手の弱みにつけこんで交渉するんじゃね?」

『そういう苦行に満ちたマゾバージョンが好みなら、切り替えてもいいが?』

「イヤ、結構デス」


 この人物は本当に切り替えそうだ、とサイラスの本能が警告を発した。

 自分が提供できる等価交換はなんだろうか?


「…………とは言っても、俺が提供できるのは体力と武力の脳筋分野に限られるぜ?」

『ほうほう、汗水(あせみず)流しての労働は(いと)わないと?』


 問いかけに、しばしサイラスは考えた。


「まあ……行動が束縛(そくばく)されない範囲なら、かな?」

『その理由を聞いても?』

「俺は養い子の護衛をする予定だ。イーレが召集したら応じるし、移動装置のない地域にも行商で行く。そうなると、労働の時期は限られる。だいたいあんたの酒の調達に支障がでてもいいのかよ?」

『それは非常に困る』

「だろ?」

『酒の調達を優先しつつ、君が提供できる代価が落とし所だな。よかろう、後日その点について二人きりで詰めようか』

「後日?」

『応急処置で当面の問題は解決したのだろう?君自身が記憶についての解決は、急いでないじゃないか』

「うっ……」


 それは図星だった。


「二人きりで、とは?」

『だいたい、今は交渉に口をはさむ観衆が多すぎる』

「僕達のこと?」


 カイルが腕を組んで猫を(にら)みつけた。


『君達の他、誰がいるというのだね?』

「僕には『口を挟まれたら困る交渉』をしようとするロニオスの方が問題に思えるけど?」

『では、口を挟まないと保証するかね?』

「ぐっ――」

『サイラス・リーが協力を要請したのは、私に対してであり、君達がサイラス・リーの問題を解決できるというなら、私は喜んで身をひいて、縁側で酒を嗜むとも』

「〜〜〜〜」

『さあさあ、どうする?』


 猫は勝ち誇ったような顔をカイルに向けていた。

 ディム・トゥーラは、カイルの肩を軽く叩いて(なだ)めた。


「やめとけ、アードゥルすら勝てないロニオスだぞ?」

『…………非常に不本意な(なだ)め方だな?』


 猫は不満度を示すように、数回ほど複数の尻尾を縁側(えんがわ)の床板に叩きつけた。


「俺は貴方の弟子で、カイルの支援追跡者(バックアップ)でもある。板挟(いたばさ)み状態の俺に免じて、心広くサイラス・リーの記憶回復に協力してくれませんかねぇ?代価など要求せずに」

『十分な特売価格だが?』

「特売価格じゃなければ、どれだけふっかけるおつもりですか?」


 短い吐息をついて、ディム・トゥーラが突っ込む。


『次回、君が依頼しに来たときには正規料金で応じるから比較の報告書(レポート)を作成するといい』

「やめてください。貴方の正規料金なんて100年の隷属(れいぞく)のような気がして怖いです」

『…………(するど)いな』


 否定しないのか、とその場にいた全員が怯んだ。


『まあ、いい。とりあえずカイル・リードとディム・トゥーラは、治癒師と気象研究者と連携(れんけい)をとって、1週間で試作品を用意したまえ』

「「一週間?!!」」


 カイルとディム・トゥーラは、期間の短さに驚きの声をあげた。


『なんなら、3日にするが?』


『私なら3日で用意できるが、未熟な君達には1週間の猶予を与えた。それを不満という無能なことは、よもや言わないだろうな?』という副音声が、カイルとディム・トゥーラには、はっきりと聞こえた。


 鬼だ。鬼がここにいる。


「…………一週間でお願いします」


 ディム・トゥーラが諦めたように承諾をした。無茶な要求ぶりは、上司のエド・ロウに似ており、間違いなく人をこき使うことに慣れている人種だった。


『よかろう。ああ、ついでに何か一点ほど工夫をするように。単純な設計だったら、減点対象にする』

「定期の研究課題じゃあるまいし、なんで難易度をあげるの?!!」

『評価査定のために決まっているじゃないか。どうせ、定期の研究課題も放り出しているのだろう?査定結果をエド・アシュル――ああ、今はエド・ロウか――に送りつけて恩を売る』

「「「――――」」」

『二兎追う者は、三兎も四兎も確保すると言うだろう?』

「「「言わない、言わない」」」


 3人はシンクロしたように否定した。

 猫はこてりと首を傾げる。


『おかしいな……西の民の独特の言い回しか?まあ、いい。ほらほら、時間は限られるぞ。さっさと取り掛かりたまえ。私の大事な商人様の要望を叶えるんだ。期日オーバーは、もちろん大減点だから注意するように」


 強制的に査定課題を押しつけられたカイルは呆然とした。いつのまにか外堀は埋められ、受諾せざるえない状況になっている。


「鬼だ……鬼畜だ……まるでセオディア・メレ・エトゥールだ」

「エトゥール王家は、ロニオスの子孫だから、権謀術数に関する遺伝子はそこからきているかもな」


 ディム・トゥーラは、ぼそりと言った。

 カイルは蒼白になった。


「なんて恐ろしい……」

「忘れているようだが、お前が一番濃い血縁者だぞ?」


 嫌な事実をディム・トゥーラは突きつけた。

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