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07. エピローグ

 リーンゴーン、 リーンゴーン。


 教会の鐘の音が高らかに鳴っている。祝いの歓声が生む熱気で、さきほどまでの雲が払われたように、空は青く晴れわたっている。


 今日は、この国の第一王子グレアムとオリヴィアの結婚式が執り行われているのだ。あれから、トントン拍子にゴールインしたらしい。


 俺は少し離れた高い塔の屋根に乗って、双眼鏡越しに幸せそうな二人を眺めている。教会の敷地内にはウィリアムの姿もあった。


『アフターフォロー熱心ですよね、意外でした』

「フォローっていうか、野次馬?始末書もかきおわったし」


 俺の頭の上で耳をピコピコしている岳雪をわしっと掴んでもみもみする。


「オリヴィアもそうだけど、ナンシーも幸せになってよかったなって。男だったけど」

『立ち直りが早いのは美徳だと思います。梅コースで下位とはいえ、術を使っちゃう甘さは不徳ですが』

「上位術使わなかっただけ褒めてくれ、岳雪」


 むにむにと髭袋を揉めば、ちっちゃい手足がじたばたした。


『確かに。あなたの上位術、時間停止でしたっけ?そんなの使ったら本当に弁解の余地なしですからね。おかげでなんとか言い訳もできました』

「岳雪、ほんとありがとなー!」


 結局あの任務の後、岳雪は俺の立場が悪くならないように裏で手をまわしてくれたのだった。


 岳雪を抱きしめながらごろごろしていたら、突然懐がプルプルっと振動した。ちょっと遅れてピルルルと電子音。


『あっ、次の依頼じゃないですか?』


 懐から通信デバイスを取り出して確認すれば、たしかにミッションの文字。岳雪と頬をくっつけるようにして、デバイスを眺める。


『勇者として魔王を倒そうと思ったら、魔王の娘がめちゃくちゃかわいくて、お付き合いしたいんだけど、魔王パパが許してくれない。どうすればいいですか』

「よし、わかった。魔王パパを倒せばいいんだな!」

『それ絶対ちがいますよねえええ』

「また次回も、難しいパターンだな!?」


 ばたりと赤茶けた屋根瓦の上に、大の字になる。


 仰向けの腹の上に、岳雪がちょろちょろっときて、身体を丸める。ちいさな重みを感じながら、そのふわふわを指でそっと撫でた。岳雪が気持ちよさそうに目を細める。


『今回も、見事な玉砕でしたねー』


 心なしか岳雪の声が楽しそうだ。

 まったく、他人事だと思って。


「ナンシーが男じゃなかったらいけたはず」

『すぐ仕事中に恋愛に走る癖、そろそろ治したらどうですか。そんなんじゃ、いつまでたってもあなたの苦役は終わりませんよ』


 岳雪の言うことは、もっともなのだけど。

 そんなことは、言われなくともよくわかっているのだけど。

 

「俺は、俺のことを忘れずにいてくれる存在がほしい」

『同じ時を紡げもしないのに、強欲なことです』


 寝っ転がったまま、岳雪の声を聞く。

 きっと、強欲に身勝手に気持ちを押し付けるばかりだから、俺はうまくいかないんだろう。


『かわいそうなので、せめてわたしは、あなたのそばにいてあげますよ』


 寝っ転がったまま、岳雪のふわふわをそっと撫でて、耳の間を親指でくりくりと撫でる。


 首や耳の後ろにあたる屋根瓦は温かく、冴え渡る青空には、いまだ教会の鐘の余韻が残る。空高くに旋回しているのは一羽の鳶のような鳥。


 のどかなその情景を眺めながら、俺は、俺のことを忘れてしまった人達の幸せを静かに祈った。

読んでいただき、ありがとうございました!

だいぶカオスな話になってしまって書くのが難しかったですが、ちょっとでも面白いと思ってもらえたら嬉しいです。


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