4. 幼なじみの暴言王子
豊穣祭やってる!
シーラは歓喜に震えた。もしかしたらこれが侍女頭のご褒美かもしれない。
買い食いまでは出来ないけれど、この活気ある雰囲気は十分気分転換になる。
シーラはうきうきと、帰りに買うお土産を見繕いながら街並みを楽しんだ。
「神父様、おはようございます」
ひょこんと首を出すシーラに、教会の神父はにこりと笑いかけた。
「やあ、シーラいらっしゃい」
神父トレージュは覗き込んでいた花壇から立ち上がり、軽く手を叩いて土を払った。
「何を育てているの?」
「野菜だよ。ここで取れればそのまま配給に回せるからね」
「でも信者の方たちがいつもお裾分けしてくれるでしょう?」
トレージュは苦笑した。
「そればかり当てにしてはいけないからね」
真面目だなあ。
シーラはにこりと微笑んだ。
「侍女頭さんからのお使いに来ましたよ」
「ああ、いつもすまないね」
そう言ってトレージュは顔を綻ばせた。
侍女頭から渡されるのは、教会で必要なもので、城から融通出来るもの。あとはお布施。城には祈りの場はあるけれど、集金出来る場所は無い為こうやって配達をするのだ。
因みに、あまり信心深い国では無いので、お布施はそれ程高額にはならない。また、比較的小分けにして届けているので、シーラでも安心して持ち歩ける額となっている。
「じゃあこれを渡して貰えるかな」
そう言ってトレージュは鉢に植え替えた花壇の花を指差した。はにかむように笑う様はまるで少年のようで、シーラは思わず笑み溢れた。
この宗教の神父は結婚できない。けれどあと少し修行を積み、神霊父という役職を選べば結婚を許されると聞いた。
聞いてもいないのに話されたものの、それはちゃんと侍女頭に伝えてある。
彼女は視線をうろうろさせ顔を赤らめていたから、きっと近い将来侍女頭は幸せな婚姻を結ぶのだろうと頬が緩む。
子どもの頃から厳しく躾けてくれた大好きな彼女が幸せになるのを、シーラは楽しみにしている。
◇ ◇ ◇
「なんだお前か、ブス」
第三王子の私室に通されるなり、いつもの挨拶が飛んできた。
……相変わらず全力でクソガキである。
一瞬だけ胸が痛むが、流石にもう慣れてきた。
シーラは口元に笑みを浮かべ、よろしくお願いしますとカーテシーをとった。
第三王子のナタナエルは15歳。黒髪碧眼の美少年だ。
子どもの頃から城にいたシーラは王子の遊び相手にと、彼の侍女を言い渡されてきた。
小さい頃はそれなりに仲良く過ごせたのだが、年々可愛げが無くなり、今はこんな感じだ。
「お前の顔を見ながら仕事をするのは苦痛だな。今日は公務の無い日で良かった。着替えをするから手伝え」
「畏まりました」
今日用意された服を持ってきて身支度を始める。
華奢だった身体が少しずつ成長しているようだ。
身長はまだシーラの方が高いが、いずれ追い抜かれるかと思うと多少悔しく思う。ナタナエルはシーラより身長が低い事を気にしているようなので。
「こちらでよろしいでしょうか」
顔を上げて目が合えば何かしか暴言が飛んでくるので、基本伏し目気味で用事は済ませる。
「上着は昨日着ていた物がいい」
思わずきょとんと顔を上げてしまう。
ナタナエルは鏡を見ているので目は合わないが、その顔は相変わらずの仏頂面だ。
「……昨日の上着はきっともう洗濯に回されていると思うのですが」
王族が毎日同じ服を着るのは流石に良い顔をされないだろう。今日は公務が無いと言っていたし、服装の種類も違う筈だ。
じろりとナタナエルがシーラを睨む。
「いいから取ってこい。寝室にある筈だ」
「……畏まりました」
チラリと部屋の隅に待機する騎士を見るが、咎めるような気配は感じられない。
シーラは一礼して王子の寝室を開けて中に入った。
……寝室のどこよ。
当たり前だが広い部屋だ。けれど散らかっている様子も無いので、目当てのものは簡単に見つけられそうなものだけど。
キョロキョロと室内を見回すも、それらしき物は見当たらない。ソファや椅子の背、家具の影になっているとか……
無い。
うーんと手を頬に当て悩んでいると、突然真後ろから声が聞こえてシーラは飛び上がった。
「何をしているんだ」
「ででで殿下っ」
驚いて距離を取り、胸を押さえているとナタナエルがベッドを指さした。
「あそこは見たのか?」
天蓋付きの大きなベッドは、確かに薄いカーテンがかけられて中はよく見えない。けれど流石にあの中は確認してない。
「い、いいえ」
「なら見てこい」
言われて石でも飲み込んだような顔になる。
「……ですが……」
「いいから行け」
自分で行けばいいじゃない。とは言えない。
騎士は先程の部屋で待機しているらしく、部屋には二人きりだ。何となく気まずいのは自分だけなのだろうか。
「……失礼します」
中に誰もいないとは思うけれど、一応一言告げてベッドの天蓋に手を掛ける。
外から見ても大きなベッドは中を見てもやっぱり大きい。
十人は寝れるのではないだろうか。
ベッドは既にメイドが整えたようで、皺一つ無く綺麗に整えられている。上着なんてどこにも無い。
「ふん、無いのか」
シーラの肩越しにベッドを覗き込むナタナエルに心臓がどくりと音を立てる。
「仕方ないな。別のものを選ぶから付き合え」
そう言って寝室奥のクローゼットを指差した。




