第六十話 刻の番人
「あのさー……私にだって出来る事と出来ない事があるんだけど?」
愚痴をこぼしながらも陽依はカムイを使いノノムー先生の傷を癒してくれていた。
刹奏がいずこかに飛び去った後、俺は陽依達の部屋へと急いで向かい陽依をノノムー先生の傷を癒してもらう為に連れてきたのだ。
幸いノノムー先生の傷は浅く、この分なら病院のお世話にはならなくて済みそうだ。
「いいじゃねえか、減るもんじゃなし」
「爆ぜろっ!!」
その声と共に俺の腹部で小規模な爆発が起こる。
「うわっち!!」
ほんと、厄介な能力だな。
イメージするだけでカムイが発動するってどんだけやねん。
いくら俺の天地神明刀がカムイの力を無効化することができるといっても、無詠唱のものまでは無効化しようがねーぞ。
しかも今斬癒のカムイ使いながら使っただろ?
つまり二重奏も可能ってことじゃねえか。
ホントめちゃくちゃな奴だな。
「陽依さん、本当に詠唱無しでカムイ使えるようになったんだね……」
その光景を見ていた灯花は落ち込んだ声でしみじみと呟く。
「それにしても何があったんだ、灯花」
いまだに割れた窓から黄昏色に染まった空を放心状態で眺める刹那さんに話を聞くのは酷だと思い灯花に話を振る。
「それが……急に刹奏ちゃんが起きたかと思うと刀を振るってきて……。奏さんは私を庇って斬られてしまっって……」
「そうか……」
それで慌てて刹那さんは永久を呼びに来たって事か。
「で、永久。おまえさっき遅かったとか言ってたな。それはどういう意味だ?」
「言葉通りの意味だ。刹奏は『刻の番人』として覚醒してしまったのだよ」
「……覚醒するとどうなるんだ」
「さぁな……わからん。何故なら今までに狂ってしまった『刻の番人』なぞ存在しないからだ」
役に立たねー元天使様だな、おい。
しかし世界を滅ぼすとか刹奏のやつはぬかしてたけど、一体なにをするつもりなんだ?
「……世界を滅ぼすとか、まるで昔のあんたみたいね」
ノノムー先生は陽依に癒されながらポツリとそんなことを呟く。
あー……そういや昔そんなこと言ってたなぁ……。
という事は、永久の奴も昔は狂ってたって言うことになるんだが。
「私は私の意志で世界を滅ぼそうとしたんだ。今の刹奏とは違う」
「さいですか」
まぁ別にそれはどうでも良いんだが。
「じゃあ、聞くが刹奏のやつはどうやって世界を滅ぼそうって言うんだ?」
「さぁな……それこそまったく想像がつかんな」
……ほんと、まったく役に立たねえなこの元天使。
何でこんなことになっちまったんだろうな……。
あんな優しい刹奏が世界を滅ぼすとか言いだしちまうなんて。
「……あんた達が……刹奏をあんなにしちゃったんじゃない」
ノノムー先生の冷たい言葉が俺の、陽依の心に突き刺さる。
そうだ。
あの時、俺達に力が無かったばっかりに。
刹奏をあんな風にしてしまったんだ。
俺達はその責任は取らなければならない。
「俺が、絶対に刹奏を連れ戻す」
「あんたに何ができるって言うのよっ!!っていたたた……」
「奏さん、傷口が開いちゃいますからまだ動かないでください」
俺に食ってかかろうとするノノムー先生を陽依は無理やり押さえつける。
「永久はともかくあんたみたいなひよっこに何ができんのよ」
「俺だって天地神明刀の力を受け継いだんだ。絶対元に戻してみせる」
「はぁ……?そんなんで何とかなるって思ってんの?」
「まぁ……なんとかしてみせるというなら、してみるが良いよ、始」
フフフリと永久は微笑みながら俺の言葉を肯定してくれる。
「永久……あんた、ほんと変わったわね」
「フ……それならそれでいいさ」
その後、ノノムー先生の傷を癒し終わった陽依は、割れた窓をカムイで修理し、俺や永久とともに部屋を出た。
「んで……刹奏を元に戻すってあてはあるの」
廊下の壁に寄りかかりながら陽依は俺に問うてくる。
「あるにはある。けどまぁ失敗したら、その時は、永久。頼むな」
「ああ。その時はお前もろともに斬り捨ててやるから安心しろ」
「ちょっと……。斬り捨てるって、永久さん何言ってるの?」
「それが、元『輪廻の守護者』たる私の責任なのさ」
「まぁ安心しとけって陽依。俺が絶対にあいつを元に戻して見せるからさ」
俺は心配そうな表情の陽依を安心させるように笑いかける。
「それは、本当なの?始君」
音もなく開いたドアの影から灯花が顔を出していた。
ノノムー先生や刹那さんの傍についていたいといって残っていたはずだが。
「ああ。絶対、刹奏を元に戻して連れ帰るよ」
「約束、ですよ?」
「ああ、約束する。だから、刹那さん達の事は頼むな」
「はい、分かりました」
灯花は不安気ながらも精一杯の笑顔で微笑む。
うん。良い笑顔だ。
俺も風斬、雷斬に認められれるようにならないとな。
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