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第五十九話 救い

さて、テナに望みを叶えてやるとは言ったものの。

どうしたもんかね……。

まず陽依(ひより)のことは置いておこう。

あいつはただですら執念深い性格だからテナにボコボコにされたのを根に持ってそうだし。

それ以外で俺達の間で一番しこりになっていること。

それはやはり刹奏(せつか)の自我が失われている事だろう。


刹奏の自我を取り戻す方法は本当にないのだろうか。

その方法を知っている奴がいるとするなら……。

永久(とわ)のやつしかいないだろうな。

刹那さんには相談できる雰囲気ではないし。


そんなわけで早々に自室へと帰宅し、刹奏の自我を取り戻す方法は無いのかと永久に問い詰める。



「刹奏を救いたいか?始よ」



意味深げな笑みを浮かべながら永久は俺に問い返す。

何を言っているんだコイツは。

救えるものなら救いたいに決まってるだろうが。

そもそも刹奏がああなったのは俺の責任でもあるのだから。



「あたりまえだ。そういう風に聞いてくるってことは方法があるっていう事なんだな?」


「あるにはある。しかし、これは再び世界を危機に晒すことになるかもしれん。世界と刹奏おまえはどっちを選ぶ?」



世界を危機に晒すってどういう意味だよ。

しかし俺の答えは決まっている。



「世界を危機に晒すなんてことは絶対にしねーし、刹奏も救ってみせる。絶対にだ」



俺は永久に向かって啖呵をきる。

その言葉を聞き普段無表情な彼女の眉根が揺れて笑みをこぼす。



「ならば私が昔しようとしたことをすれば良い」



永久が昔しようとしたこと……。

世界を滅ぼそうとしたとかいう話か?

どういう意味かさっぱり分からんぞ。



「つまり刹奏の力をお前が奪ってしまえば良いのさ」



俺の頭にクエスチョンマークが浮かんでいることに気付いたのか永久は言いなおす。

刹奏の力を奪ってしまう。

それは俺が『刻の番人』の力を奪うという事か。



「どうすればその刹奏の力を奪うことができるんだ?」


「神明の時と同じさ。風斬(かざきり)雷斬(らいきり)に認められれば良いんだよ」


「なるほどな……」



そんな話をしていると。

ピンポンピンポンと忙しなくインターホンが鳴り響く。

なんだなんだと思いドアを開け放つと青ざめた顔の刹那さんが立っていた。



「永久……っ!刹奏が……」



俺達はその言葉に弾かれるように刹奏の元へと向かう。

刹奏の部屋に辿り着くとそこには血に濡れたノノムー先生と彼女に庇われるように立ち尽くす灯花(とうか)の姿があった。



「いったいどうしたってんだよ、灯花っ」



俺の疑問に灯花は奥の部屋を無言で震えながら指さす。

そこには二刀の刀を手にした金色の瞳の少女。

その二刀の刀は血の色に彩られていて……。

ノノムー先生は刹奏に斬られたっていうのか?



「刹奏、どうしちまったんだよ!」



俺はそう問いかける。

俺の問いかけを聞いてか聞かずか刹奏は俺に向かって切りつけてくる。


シュ。

カキン。

金属と金属が打ち合い奏でる音が響く。



「始よ。こいつはもう今までの刹奏ではない。気を抜いていると切られるぞ」



言いながら永久はノノムー先生の方に視線を移す。



「私は『刻の番人』刹奏。この世界に終焉をもたらすための存在だ……。お前は何者だ……」



普段の温厚な刹奏からは想像もできないような冷淡な声色。

これが……あの刹奏だってのか?

俺の事を兄と慕ってくれていた少女だというのか?



「どうやら少しばかり遅かったようだな」



何がどうなってるのかさっぱりだ。

誰かこの状況説明してくれよ……。



「まぁ良い。お前が何者でも構わんさ。私はこれから世界を滅ぼさねばならないのだからな……。さらばだ、人間」



刹奏はそう告げると背中に黒く染まった羽を生やして窓をぶち破って空へと躍り出る。



「刹奏っ!!!」



刹奏が飛び去った空は赤く染めあがり。

刹那さんの叫び声だけが虚しく響き渡るだけだった。

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