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第五十八話 お見舞い

ピンポーン。

インターホンが鳴る音が響く。

慌てて学園を出てきたので汗だくだった身だしなみを慌てて整える。

ガチャリ。


開け放たれた扉からは刹那さんのやつれた顔がのぞいていた。



「いらっしゃい、灯花(とうか)ちゃん」


「こんにちはです、刹那さん」



私はいつも通り刹奏(せつか)ちゃんの部屋へと通される。

刹奏ちゃんは視線も定まらず、ベッドに横たわり時折意味の分からない言葉を呟いている。



「刹奏ちゃん、私だよ。灯花。分かるかな?」



そんな刹奏ちゃんの様子に構わず私は彼女の手を握り語り掛ける。



「一緒に遊んだりお泊まり会したりしたよね」



小さい頃にやったことつい最近までやっていたこと。

事細かに私は語り掛ける。



「刹奏ちゃんはいつも始君のことばっかり話してたよね」



ぼんやりとお泊まり会でのことを思い出す。

刹奏ちゃんは話し始めると必ずと言っていいほど始君のことばかり。

どこかに出かける時もいつも始君と一緒。

そんなに始君のことを好きだったのかな。

いいや違うか。

彼女の言葉の通り、お兄ちゃんのように慕っていたのだろう。

でも恋心が無かったかというとそんなことはないだろう。

だからこそ、始君が傷ついた時、こんなになってしまうくらいに我を失ってしまったのだろうから。



「羨ましいなぁ……」



正直な想いが思わず口をついて出てしまう。

話しかけている間も刹奏ちゃんは虚ろな目で何かを呟いている。



「私は……」



刹奏ちゃんを見つめながらポツリポツリと口にする。



「刹奏ちゃんが好きだよ……」



うん私は刹奏ちゃんが好きだ。

愛していると言っても良い気持ちだ。



「刹奏ちゃんがどんなになっても好きだよ。大好き」



そう言って私は刹奏ちゃんの手を両手で包み込む。

それはまるで神様に祈るように。

変な話だよね。

私は日本で言うところの神様の子孫だって言うのに。

神様が神様に願い事をするなんて、なんて滑稽な事だろう。



「そういえば今日さ……、テナ様が私達の所に来たんだ……」



急に私達と仲良くしたいなんて都合が良すぎる提案だと私は頭にきてしまった。

陽依さんやサクラちゃんに復讐するなんて意気込んで言ってたのにね。

仲良くなんてできるわけないじゃない。

刹奏ちゃんをこんなにした張本人だよ?

他の皆が許しても、私だけは絶対に許さない。

許せるわけがないよ。



「刹奏ちゃん……今日はもう帰るね」



反応の無い刹奏ちゃんの手を布団に戻し私はそう告げる。

そして私は刹奏ちゃんの顔を覗き込む。

唇と唇が密着しそうな距離。

刹奏ちゃんの吐息が私の口にかかる。

はぁ……このままキスをしてしまいたい。

そんな衝動に駆られる。

けれどそれはダメだ。

それは刹奏ちゃんの意志を裏切ってしまう行為になる。

だから、この先は刹奏ちゃんが目を覚ましてから。

だから。

早く目を覚ましてね。



「それじゃあ、また」



私はそう告げて刹奏ちゃんの部屋を出る。



「キス、しないんだね」



背後からふと声をかけられる。

奏さんだ。



「あははは……見てたんですね」


「まぁ……そりゃあね」



奏さんは壁にもたれかかって苦笑する。



「本当に刹奏の事が好きなら奪っちゃってもいいわよ」


「……それは、刹奏ちゃんに申し訳ないですから」


「まぁ、それならそれで良いけどね。灯花ちゃん。また、明日来てくれるかな?」


「はい。もちろんです」


「ありがとね、灯花ちゃん」


「いえいえ。私も好きでやっている事ですので……」



そう。

これは私の好きでやっている事なんだ。

だから……また明日。

そしてまた次の日も。

私は刹奏ちゃんの元へと通い続けよう。

刹奏ちゃんが目を覚ますその日まで。

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