第五十三話 学園公認
停学明け。
俺と陽依とサクラは三人で学園へと向かっていた。
刹奏は相変わらず虚ろな目で自らの事を『刻の番人』だというばかりらしい。
ドアの隙間から顔をのぞかせた刹那さんはかなりやつれているように見えた。
帰ったら永久にどうにかできないか聞いてみるか……。
「お。久しぶりー、はっつん、ひよ姉、サクラー」
「おう、久しぶり」
「久しぶり」
「お久しぶりです」
校門前で俺達を律義に待っていたピンク色の髪の少女のような顔立ちの少年ヒルノと口々に挨拶をかわす。、
「来て早々あれなんやけど、ひよ姉。ご指名やで」
学園に入ってすぐ校庭には人だかりができている。
その人だかりの真ん中には正方形のリングのようなものがありその中心にはテナが立っていた。
「お、きたきた。やって来ましたよ、もう一人の主役。霧島陽依だぁーーーーー!」
アカリ先生の声が拡声器越しに聞こえてくる。
……何考えてんだよ、あのアホ教師。
俺達は人込みをかき分けてアカリ先生の元に辿り着き何事なのかと問いただす。
「いやー、こう毎日復讐だのなんだのって物騒じゃない?周りに怪我人もでちゃうしさ。だから学園公認の決闘で後腐れなく勝負決めちゃおうかって、テナちゃんに提案したんだよ」
「よくあのお姫様が了承したな……」
「その辺は私の情報網をもってすればちょちょいのちょいだよ」
あのお姫様を手玉に取るとか、いったいどんな弱みを握ってるっていうんだ、このアホ教師は。
本当に恐ろしいのはこのアホ教師なのかもしれないな……。
「で、やるの?やらないの?陽依ちゃん?」
「……やるに決まっているでしょ」
鞄をサクラに預けながら陽依はそう告げる。
「陽依、時を止める呪言は教えてもらったのか?」
「一応教えてもらったけど、私が止めることができたのはほんの一瞬だけ。だからテナには劣ると思う」
「そうか……」
「でも大丈夫よ。ちょっとした策があるから」
「ちょっとした策?」
「そ。まぁ見てのお楽しみって事で」
言いながら俺達にウィンクをする。
「わかった。怪我しないように頑張って来いよ」
「んー……それはちょっと難しいかな……」
「お姉様。気を付けてくださいね」
「ひよ姉きばってなー」
「うん。わかってる」
俺達の激励に応えて手をひらひらと振りながら陽依は正方形のリングに登る。
「あれだけボロボロにしてやったのに、懲りずに登ってくるとはな……」
「フン……あの時は周りに人が居たから全力を出せなかっただけよ。私の全力を見せてあげるわ」
二人はリングの中央でお互い火花を散らす。
「さぁさぁやってまいりました。学園最強を決める世紀の一戦!!実況は私アカリ=マスミダがお贈りしますっ!!そして、解説は先日テナ姫に腕をぶった切られた、この男、春日野始君ですっ!!」
解説役、俺かよ!?
「解説なんてしねーぞ……」
マイクを向けられて俺は半目でアホ教師を見つめながらそう答える。
「良いのかなー……えっとー始はこんななりしてるけど中身はー」
「わかった。解説するからそれ以上は言うな」
中身がオッサンとか広まったらまた変な噂が広まるからやめて欲しい。
ヒルノの件で変な噂が広がりまくってるというのに。
「素直な生徒は大好きだよ。じゃあ、解説の始君、実力的にはどちらに分があるでしょうか」
「まぁ……正直普通にやったら、テナのやつが勝つんじゃないのか」
「あら意外。幼馴染の肩を持つかと思いきや、そうきましたかー」
「両方とやりあってるからこそだよ」
「始ー……後で絞める」
リングの上から有難いお言葉をいただいたがしょうがない。
聞いてないふりをしておこう。
なぜなら陽依はまともにやったらたぶん勝ち目はないのはわかりきっている。
だから何か秘策を用意してあるはずだ。
でなければ、こんな勝負に乗るはずが無いのだから。
「因みに、二人には特殊戦闘服を着てもらいますので、例え天地開闢を受けても、全治一週間くらいの怪我で済みますのでご安心ください。あとこの特設リングはどんなカムイでも破れないカムイ、万物遮断結界を張ってあるのでご心配なさらずにご覧になってください」
「へー……そんな便利なものやカムイがあるんだな」
「このカムイを使えるのもほんの一握りなんだけどね。さぁ時間制限一杯です。見合って見合ってーーーーー」
中央付近で無言で火花を散らしていた二人は距離をとる。
「レディーーーー!!ゴーーーーーーーーーー!!!」
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