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第五十二話 天地神明刀

「時を操るには具体的にどうすれば良いんだ?」


「お前が天地神明刀に所有者として認められれば良いのだよ」



刀に所有者として認められるねぇ……。



「そんなのどうすれば良いんだよ」


「ごたくは良いから天地神明刀を呼び出すがいい、始よ」


「我が呼び声に応えよ、そして我が力と成せ、天地神明刀」



俺の右手に黒色の刃の刀が呼び出される。



「で、どうするんだこれから」


「こうするんだよ」



言いながら永久は俺の天地神明刀を奪い俺自身を切りつけた。



「な……」



切り付けられた胸から血が噴き出す。

吹きだした血の海に沈みながら俺は永久の声を聞く。



「無事に帰ってくるがいい。始」



『おい』



うるさいな……。

俺はもう少し眠っていたいんだ。



『おい、おまえ』



頭に響き渡る声。

クソ……おちおち眠っていられやしない。

目を開き起き上がるとそこは真っ黒な暗闇だった。



『やっと起きたか、このうつけが』



声のする方を見やるとそこには光を纏った黒髪の少女が佇んでいた。

少女の面影は何処か永久に似ているなと思った。

そう言えばここはどこだろうか?

俺は確か永久に斬られたはずだ。

慌てて切られた箇所を確認する。

傷は……ないな。

んー……どういうことだ?

まぁいいか。

とりあえず目の前の少女に声をかけてみよう。



『我の名は神明(しんめい)だ』



声をかける前に返事を返された。



『ここはお前の意識の中だよ。そして我は天地神明剣に宿る意志だ』



ふむ……そうなのか……。

永久が天地神明刀に認められろと言っていたのはコイツに認められろっていう意味なんだろうか。



『その通りだ。我を認めさせることが出来るならば我が力を授けてやる』



しかしお前に認められるにはどうすれば良いんだ?

何か試練でもあるのか?



『そんなものなぞないぞ。ただ我の話相手になってくれればいい』



なんだ、簡単なものだな。

じゃあ何でも話を聞いてやる。

俺はあぐらをかき神明の目の前に座る。

どんな愚痴でも聞いてやろうじゃないか。



『そうか。ならば話を聞いてもらおうか』



神明はスタスタと俺の前にやって来ると俺の膝の上にちょこんと座る。

なっ……。

何やってんのこの女はっ。



『何を照れておる。我はただの刀の意志だぞ』



そういわれてもな……。

女は女だろう?



『フ……お前は変わったことを言うな』



いやいや、普通の事ですからね?

いきなり女が膝に座るとか心臓が跳ね上がるわ!



『まぁよい。ではひとつ我の話を聞いてもらおうか』



神明はポツポツと昔話を始める。

天使だった永久に使われて世界を滅ぼそうとした日の事。

その時の戦いの日々。

時を止めるカムイを操る少女達との戦い。

彼女達に敗北し、永久は封印されるはずだった。



『我は二度と永久の手に握られることはないと思っていた』



けれどそうはならなかった。

刹那が永久の封印を解くことを願い、再び神明は彼女の手に握られることになった。

はじめは俺よりも酷い新聞紙でできた模造刀だったそうだ。

それでも彼女は挫けずに刀の修行に励んだ。

来る日も来る日も刀の修行に励んだ。

そしていつしか天使だった時よりも使いこなせるようになっていたらしい。



『それはいったい何故なのであろうか?彼女はもう天使ではないというのに』



何故か……。

それは何故なのだろう。

天使だった頃の永久。

天使ではなくなった永久。

その違いは何なのだろう。



『かつての永久は人のことなど気にもかけない天使だった』



その辺は今も変わって無いような気もするけどな。

俺は半分育児放棄気味に育ったぞ。



『はたしてそうであろうか?今の永久は以前の永久とは明らかに何かが違う』



神明。

おまえはつまりこう言いたいのか?

永久は自分の為ではなく誰かの為に刀を振るうようになったと。



『そうだな。永久は変わった。たったそれだけでのことで以前より我を使いこなすようになった』



どうして永久は変わったんだろうな。

ノノムー先生や刹那さんと暮らしていたからだろうか。



『それはわからん。あいつは自分の事をこの我にも話さないからな』



永久はとことん秘密主義だからなぁ……。

その辺なんとか変わって欲しいもんだがな。



『さて、次はお前の話だ、始よ』



俺の話か。



『おまえは我の力を受け継ぐときにこういったな』



陽依(ひより)刹奏(せつか)を守れる力が欲しい。

他の誰かを守れる力が欲しい。

俺は永久にそう願った。

しかし結果はどうだ。


陽依は傷つき、刹奏は力を使い『刻の番人』となってしまった。

俺はまだまだ無力だ。

俺にもっと力があったなら誰も傷つくことはなかったのに。



『その通りだ。力が欲しいか?始よ』



ああ。

欲しい。

テナを上回る力が欲しい。



『ならば、我が神明の名に懸けて力を授けてやろうではないか』



本当に力をくれるのか?



『ああ。テナにも負けぬ力を授けよう。我の手をとるがよい』



神明は俺の膝から立ち上がり俺に向き直ると俺に手を差し出す。

俺はその手を掴もうと手をあげる。



『そうだ。我の手をとれ、始よ』



掴もうとした瞬間に。



「始お兄ちゃんっ!」



声が聞こえた気がした。

刹奏の声が。

神明の手をとろうとする手が止まる。



「……」



俺は力が欲しい。

でもテナを上回る為じゃない。

誰かを助けるための力が欲しいんだ。

だから。



「神明。お前の手をとることはできない」



そうハッキリと口に出し言葉にする。



『良いのか?我の手をとるだけでテナを超える力を得ることができるのだぞ?』


「俺が欲しいのはテナを超える力じゃねぇ。そんな都合のいい力なんて願い下げだ。俺が欲しいのは誰かを守れる為の力だ」


『クックック……』



笑い声が真っ黒な空間に響き渡る。



『合格だ。始よ。お前を認め力を貸そう』


「……ヒントを与えすぎたなんだよ、神明」


『フ……我も永久に影響されて甘くなったのかもしれぬな』


「ありがとな、神明」


『礼は永久に言うのだな。今の我があるのはあやつの今があるからだ』


「そうか」


『ではさらばだ、我が使い手よ』



神明がそう告げると俺の体は光に包まれ意識は再び闇に飲まれていった。


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