第五十一話 代償
「やはりこうなったかってどういう意味よ、永久っ!!」
刹奏の部屋を出た後。
リビングでノノムー先生は永久の襟首を掴みくってかかる。
「言葉通りの意味だよ、奏。なるべくしてこうなった……それだけのことさ……」
「はぁ?意味わかんないんだけど。ちゃんと一から説明しなさいよ」
「刹那よ。お前はいずれこうなることを予期していたのではないのか?」
ノノムー先生の質問には答えず、永久は刹那さんにそう問いかける。
「……そう……ですね……。あの日、あの子が風斬と雷斬を操った日から……こうなる事は自然な事だったのかもしれません……」
「何よ、二人して分かったような口ぶりでっ!!!私にもしっかりと説明してよっ!!」
まるで泣き叫ぶような声音で。
ノノムー先生の言葉が部屋に響き渡る。
俺にも何が何やらさっぱり分からない。
ただ、一つ分かっているのは、刹奏に起こっていることがただ事ではないという事だけだ。
「刹奏の言葉通りだよ、奏。刹奏は『刻の番人』になった。それだけのことさ」
「何よそれ。今の『刻の番人』は瞬でしょ!」
「その通りだ。だが刹奏の意識は『刻の番人』の刀の意志に飲み込まれてしまった。だから今の刹奏は『刻の番人』だ」
「……じゃあ今までの刹奏はもう存在しないとでも言いたいの?」
「どうだろうな……正直このようなケースは今までに存在しなかったからこれからどうなるか分からんな」
「天の神のクソジジイに文句言ってくる」
「それこそ無理な話だ。やつは滅多なことでは人の前に姿を現すことはない」
「じゃあどうしろって言うのよ。刹奏をこのままの状態にしとけとでもいうわけ!?」
「そうするしかあるまいよ……。今はな」
永久の言葉で部屋に沈黙が訪れる。
「奏さん……すみません……私達姉妹の為に……」
サクラの辛そうな声が静寂を破る。
「ごめんサクラちゃん、始……出てってくれないかな……。頭じゃあんた達のせいじゃないってわかっちゃいるんだけど、私、あんた達を許せそうにないわ……」
「すみません。サクラちゃん。始さん。今はそっとしておいてもらえますか?」
「はい……」
刹那さんに促され、俺とサクラと永久は部屋の外へと向かう。
ノノムー先生の押し殺した涙声を背中に受けながら……。
―――
部屋の前でサクラと別れ、俺と永久は自分達の部屋へと帰って来た。
「なぁ、永久。俺が時を操るリスクってのは……」
部屋を出る前、永久が言っていた時を操る力のリスク。
それは、おそらく。
「ああ。お前の想像通りだよ。お前が『輪廻の守護者』になるかもしれない」
「そうか……」
「お前の意識がそのままなのか、刀の力に飲み込まれるか。それはその時にならないと分からんな」
意識が飲まれるということは、俺が今の刹奏の様になってしまう可能性があるということだ。
「それでもやるか?」
俺の表情を伺いながら永久は俺の答えを待つ。
刀に意識を飲み込まれるか。
久々に聞いたな、その台詞。
正直、刀に意識を奪われるのは恐ろしい。
しかしこの力を受け継いだ時から答えは決まっている。
「俺に時を操る方法を教えてくれ、永久」




