第三十三話 業務日誌
ホウライ事件から二週間がたった。
私の言いつけも守らず、結局、陽依は始と勝負をしたらしい。
しかも、最強のカムイ、天地開闢を使って、だ
陽花お姉ちゃんも娘には甘いんだからなぁ……。
はぁ……。
まったくあの強気な性格は誰に似たんだか。
お姉ちゃんは私に似たんだよって言うけど、私でもあんなに勝気な性格じゃなかった……と思う。
サクラちゃんはあんなにお淑やかに育っているというのになー。
育児方針ミスったかなぁ……。
話がそれたけど、勝負は言うまでもなく陽依の勝ち。
まぁそんな簡単に天地開闢が破られるようじゃ、この国の権威も失墜しかねないんだけどさ。
しかし驚いたのはいくら出力を最低にしたとはいえ天地開闢を受けても始自身がピンピンしていたという事だ。
生身の人間がこれを受ければ普通、一週間ぐらい病院送りぐらいの怪我を負うはずなのに。
これは絶対に何かがおかしい。
見ていたお姉ちゃんの話によると、天地神明刀の力なのか天地の揺れが収まっていたとも言うし。
永久にもこの件について意見を求めた所、正直分からんと言われた。
ただ天地神明刀というものは使い手の成長によって性能がどんどん変わってくるらしく、それが始の固有能力なんじゃないのかという話だった。
結局始がピンピンしてる理由は何も分からずじまい。
ほんと、永久も厄介な力を与えてくれたものだなと思う。
始についてだけれども、那直お兄ちゃんの調べによると、同じ転生者でもまったく素養が無かった奏さんとは違いカムイの才能は微妙ながらもあるらしい。
運がいい奴だなぁ、本当に。
始といえば以前、早く日本に帰りたいとかいう話をされたことも有った。
でも戸籍もないのにどうやって日本で生きて行くつもりなんだと突っぱねたわけなんだけど。
せめて学園を卒業して自活が出来るようになってから言って欲しい、そういう事は。
そうすればタカマガハラ課の庇護下で自由に日本に行き来が出来るようになるのだから。
そう説明したら、渋々ながらも了承してくれた。
それにしても目下の問題は陽依とサクラちゃん、始の関係だ。
陽依は明らかにサクラちゃんに好意を寄せているし、サクラちゃんは始に好意を寄せている。
それが気に入らなくて陽依は尚更、始に敵対意識を持っているという負のスパイラルに陥っている。
サクラちゃんもなー……なんであんなおっさん幼児の事が好きなんだろう。
よく分かんないな。
まぁ恋は盲目って言うからなー。
そう言うもんなんだろう。
その辺はサクヤちゃんの育児方針だから口出しするのは無粋ってもんだし。
うちの子ばっかりの事じゃあれなので他の子についても書いておこう。
まず刹奏ちゃんは至って普通の女の子として育っている。
以前の事件以来、風斬、雷斬も使うことなく平凡な日常を送っている。
刹那さんもその力を今後使う事がない事を望んでいるようだし、私もそんな事件が起こって欲しくないと思う。
遠見のカムイでその時の様子を見ていたけど、本人自体まるで力を制御できていなかったみたいだしね。
始の天地神明刀と同じく頭が痛い問題ではあるのだけど、本人に力の自覚が無い分厄介なのかもしれない。
とりあえず何か揉め事に巻き込まれない限りは問題はないだろうと、信じたい。
彼女には奏さんから授かったもう一つの力があるのだから、そちらの方を活かしてほしいかな。
能力を使ったらお腹がすくっていうデメリットがあるポンコツ能力だけど、使い方次第では天地開闢にも勝るとも劣らない能力なのだから。
灯花ちゃんはアカリと桜花さんの娘とは思えない位、本当に素直に育っている。
二人が結婚するまで知らなかったけどアカリの家のお嬢様教育が功をそうしているようだ。
それに桜花さんという悪い見本が目の前に居るというのも大きいと思う。
人のふり見て我が身を治せじゃないけれど。
灯花ちゃんにはこのままお淑やかに育ってくれればいいのだけど、と切に願う。
ヒルノ君はまるでヒルコを見ているかのような感覚を覚える。
男の子なのに女の子みたいな顔をしているから猶更だ。
彼もこのまま健やかに育ってほしいなと思う。
因みにヒルコにはもう一人娘が居るのだけど、ここで触れないことにしよう。
彼女は私の管轄外の子なのだから今どういう状態なのか分からないし。
薙君は柚木先輩と那直お兄ちゃんの子供なだけあって極めて優秀に育っている。
カムイの素質は陽依には劣るけど、それ以外のことに関しては全て陽依を上まっている。
きっと彼も那直お兄ちゃんに負けない位、優秀な人物になるに違いない。
彼には陽依の目標になる様な人物になって欲しいかな。
でもなぁこの二人も趣味悪いよなぁ。
なんでこの二人も始の事、好きなんだろうね。
冴えないおっさん幼児のはずなんだけどなぁ。
ほんと、この初等部の七不思議のひとつだよ。
とまぁここまで書いてて結局、始の事ばっかりだったなぁ。
あいつが転生してきて高千穂初等部の環境は良くも悪くも大きく変わったように思う。
私が先生という職につく事にもなってしまったわけだし。
これからもあいつを中心にして話が進んでいくのだろう。
そんな気がする。
まぁこの仕事も春には終わりだ。
それまでは皆を見守っていこうと思う。




