第二十九話 全力
さて無事に牢屋から脱獄できたのは良いが、肝心の国王には逃げられてしまった。
幸い月依先生と公主さんの宝貝は牢のすぐわきに置いてあったので無事回収できた。
「ねぇ、お母さん、これからどうするの?」
「ぶっちゃけ国王を脅してハッキングをやめさせればいいんだけどねー」
「それならこの辺り一帯ふっとばしちゃおうか?」
……物騒なこと言う幼児だな、おい。
いや、でも実際やりかねないから怖いんだよなぁ。
「んー……あー……いい方法思いついた」
「陽依とりあえず逃げた国王の探索をよろしく」
「うん。わかった。祖たる原初の水霊よ。我が呼び声に応えよ。水霊追探」
「あとはー……公主さん、この国全体を霧で包んでくれますか?公主さん」
「はい……わかりました。宝貝・霧露乾坤網」
公主さんが、そう告げると指にはめた指輪からから水があふれ出してきて水蒸気へと気化していく。
そして気化した水蒸気は見る間に辺り一面に広がっていった。
おおお……なんかすげえな。
その様子を俺はぽかんと見つめているしかなかった。
「これで、ホウライ全土が霧で包まれたと思います……」
「ありがとうございます。相変わらず凄いですね」
「いえ……それ程でも……」
謙遜しながらも頬を少し赤らめる公主さん。
か、かわええ。
何、この人、めっちゃ可愛いんですけど。
こういう大人の女性って良いよな……うん。
「お母さん。髭のおっさんみつけたよ。なんか周りに兵士が一杯いる」
「よくできました。それじゃ、髭のおっさんのとこに向かいましょうか。敵は永久、よろしくね。
くれぐれも切っちゃ駄目だからね」
「やれやれ……元天使使いの荒い奴だな、本当に」
永久はため息をつきながらもフフリと微笑む。
何だかんだで楽しそうじゃねーか、永久のやつ。
実は退屈な日常に飽きてたんじゃねーのか。
そんな訳で。
俺達は公主さんが張った霧の中を気配を殺しながら進んでいく。
それでも国王に近づくにつれて衛兵に遭遇してしまう訳で。
「な、何者だっ!」
「フンッ……」
しかし見つかると同時に永久は天地神明刀で衛兵を光のような速さで次々と峰うちする。
「相変わらず、見事な剣捌きと速さだね」
「当たり前だ。私を誰だと思っている」
「そうだね。頼りにしてるよ、永久」
「フン……勝手にしろ」
月依先生の言葉に永久はそっぽを向いて返事を返す。
もしかして永久のやつ照れてるのか?
ほんと、珍しいな。
「お母さん。この扉の奥に衛兵が20人、その奥に髭のクソおやじがいる」
「ん、分かった。それじゃ、永久、いける?」
「無論だ」
「じゃ、おまかせするよ」
「ああ、分かった」
「祖たる原初の土霊よ、我が問いに応えよ。そして我が力と成せ。乱岩弾!!」
陽依の呪言によって現れた岩礫でドアがやぶられると同時に永久が部屋の中に飛び込む。
「ぐわっ」
「おのれっ」
「てやーーーー」
霧のたちこめる中、衛兵達の奮戦も虚しく衛兵達が次々に倒れていく声が響く。
そして最後の衛兵が倒れた声がした後。
「貴様っ!私はこの国の国王だぞ。こんな事をしてただで済むと思っているのかっ」
そんな声が聞こえてくる。
どうやら永久が無事に国王のおっさんを捕まえることができたようだ。
「おい、月依。もういいぞ」
「はいはい。ありがとね、永久」
俺達が部屋に入ると気絶した衛兵達の中心に平然な顔をした永久と刀を突きつけられて怯えた顔をした国王がたたずんでいた。
「さてさて、国王陛下。タカマガハラにハッキングするの止めてくださいませんかね」
「く……。いたしかたなかろう……」
苦渋に満ちた顔でその言葉を口にする国王。
「あ、それとサクヤちゃんや、うちの娘達の事はもう諦めること。アンダスタンド?」
「ああ……わかった」
「て言っても、また何かやらかしそうだからなぁ……陽依。ちょっとあそこにある大岩に向かってアレ撃って良いよ。出力低めでね」
「え、いいの?やたっ」
水を得た魚のような表情で陽依は大岩の前に立つ。
「おい、貴様、何をする気だ。それは国宝の金剛石だぞっ」
「金剛石かぁ……なら尚更好都合だね」
クスクスと月依先生は笑みをこぼす。
「じゃあやるよ。祖たる原初の五精霊よ、我が問いに応えよ。そして我が力と成せ。空の静寂打ち砕き、新たな理の下に力を示せ。天地開闢!!!」
天が揺れ、地が揺れ、稲妻が走る。
稲妻が直撃した目の前の大岩は粉微塵に消し飛んでしまう。
……おい。
何だこの馬鹿みたいな威力の呪言は。
こんなもん食らった日には影も形も残らんぞ。
「これでも出力5%くらいなんだけどね」
……末恐ろしいガキだな。
「ねぇ、今度あんたの刀と私の呪言どっちが強いか試してみない?」
そして陽依は振り返りニマリと笑うと、とんでもないことを言いだした。
「遠慮しとく……」
あれで出力5%とか訳わからんわ。
そんなもんを真っ向から受けたらどうなるか……。
いくら俺の天地神明刀がカムイを吸い取れるからと言っても限度があるだろう、たぶん。
俺達のやり取りを尻目に国王は力なく膝をつく。
「我が国の国宝が……何という事だ……」
「はい。ということで。タカマガハラに今後手を出したら、ただじゃ置かないからね。最強の威力を誇るカムイ・天地開闢を使えるカムイ使いはタカマガハラには私達の他に二人いるのをお忘れなく」
「……わかった……。今後タカマガハラに手を出すことはないと誓おう……」
「はい、それじゃ。無事終戦という事で。早速ハッキングの方からやめてもらいましょうか」
「わかった……」
覇気もなく月依先生の言葉に従う国王の姿はなんだか哀愁が漂っていた。
歳下の女たちに良いように扱われて、なんというか、見ていて可哀そうになってきた。
でもまぁ、こいつらを怒らせた国王が悪いな。
うん。
俺も怒らせないように注意しよう。




