第二十八話 ホウライへ。
タカマガハラの国を囲った馬鹿でかい壁を抜け月依先生は車を走らせる。
この異世界に来て国の外になんて初めて出たけど、だった広い平原の上に道がひたすら続いているのみだ。
月明かりに照らされて見える森には見たこともない異形の生物の姿がぽつぽつと見えた。
「なんか、森に変な生物がいるんだが……」
「ああ、鬼か河童か大蛇かな?普段は街に近いところのはハンターが狩りして追い払ってるんだけど、皆カムイが使えないから近くまで寄って来ちゃってるのかもね」
「それって、この状態が続いてるとタカマガハラの街が危険に晒されるってことなのか?」
「まーそうなるわねぇ」
運転しながら月依先生は答えてくれる。
月依先生の話によるとホウライまでの道のりは車を丸一日、全力で飛ばしてやっとつくくらいの距離らしい。
その間休憩できるような場所は特になし。
そもそもこの異世界には国単位でしか街と言うものが存在しないらしい。
反対側の窓側の席に座っていた陽依は早速舟をこぎだした。
「この世界の国の移動って大変なんだな」
「んー……この世界には転移門っていうものがあってそれで他国間の行き来ができるんだけどね、それが例えどんなに離れた場所でも一瞬できる便利なもの」
「じゃあわざわざ車で行かなくても良いじゃねーか」
「残念ながらタカマガハラとホウライは七年前から国交断絶中で使えないのよ」
「コンロンは友好国なので私は転移門で参りました……」
「ふーん……そうなのか」
「まーその国交断絶したきっかけって言うのが私や奏さんが原因なんだけどね」
「……なにやったんだよ、月依先生」
「うーん。簡単に言えば色ボケ国王を脅しただけだよ」
ノノムー先生と国王を脅した……か。
実は月依先生も桜花先生に負けず劣らずトンデモ教師なのかもしれないなぁ。
「さて……後は自動運転に切り替えるから、私達も一眠りしときますか」
「そんな機能までついてんのかよ、この車」
「この異世界の科学力は日本の比にならないからね」
「まぁ確かに今の日本じゃあんな馬鹿でかい壁とか立てられないしな」
「そいうこと。他にも自動で見た字や聞いた言葉を翻訳してくれる翻訳デバイスなんてのもあるんだけど」
「……おい。俺もしかしてこの世界の言葉の勉強しなくて良かったんじゃないのか?」
「何言ってるの。この先この国で暮らしていくのにそんなものに頼ってたらこの先大変だよ?」
……たしかにそうだけれども。
ずっとグーグ●先生に頼って生きてるようなもんだもんな。
グーグ●先生の翻訳も完璧じゃないことも有るし。
月依先生の言葉はもっともだ。
「それじゃ、私、寝るから。公主さんも永久も休んでてね。という訳でなんかあったら起こしてね、始」
「おれが見張り番かよ!」
「男の子なんだしそれぐらいやってくれたって良いじゃない。夜更かしはお肌の大敵なんだから」
「幼児に夜更かしさせるのは大人としてどうなんだ?」
「中身おじさんじゃない。だからそれは言い訳になりませーん」
「くっ……」
結局俺は女子四人がくーすか眠る中、一晩中勝手に動く車の中で見張り番をさせられることになった。
あーめんどくせー。
―――
「それで。見張ってろって言ったわよね、始」
冷めた声で月依先生は俺に問いかける。
「ああ」
しとしとしと。
冷たい水しぶきが石畳に滴る音。
背中に水滴が落ちてくる。
冷てえ。
「なんで私達、敵に捕まっちゃってるのかな?」
石畳の牢屋の中で俺と月依先生と公主さんと永久の4人が座り込んでいた。
何故か陽依だけがこの場にはいなかった。
「そりゃなんか知らんが俺もいつのまにか寝ちゃってたからだな」
「……はぁ……役に立たないわね」
「ていうか、ちゃんと日が出るまでは起きてたんだぞ?でもいつの間にか眠っちまってたんだよ」
「うーん……となると睡香で眠らされちゃってた可能性も捨てきれないか」
「睡香ってなんだ?」
「相手を強制的に眠らさせるカムイよ。意識をしっかり持ってればなんてことないカムイだけど、無防備だとぐっすり眠らさせちゃうことができる」
「ふーん……。ってじゃあ俺悪くないじゃねーかよ!」
「そうともいうわね」
「で、どうするのだ、月依よ。ここから脱出するのであろう?」
俺の怒りの声を遮り永久が小声でそう告げる。
「まぁそうなんだけど。陽依がいないのが気になるのよね。だから相手の出方を見てからが良いと思う。私も公主さんも宝貝盗られちゃってるからね」
「お役に立てず申し訳ございません……」
公主さんが本当に申し訳なさそうな顔で項垂れる。
「てわけで、頼りにしてるわよ、永久、始」
「まじか」
「割とまじ。武器持ってるのあんた達だけなんだし」
「フ……しょうがないな」
そんな話をしているとカツカツカツと靴音が近づいてくる。
牢の前に立ったのは髭を生やした三十くらいのおっさんだった。
その後ろには衛兵に手を縛られ猿轡をかまされて、じたばたともがいている陽依もいる。
「ふん……久しぶりとでも言っておこうか、タカマガハラの人間よ」
苦虫を潰したかのような口調でおっさんはそう告げる。
「はいはい、お久しぶりです。国王陛下」
手をひらひらとさせながら月依先生はおっさんに返事を返す。
「もう一人の絵描きの方を連れてくるかと思っておったがまさか自分の娘を連れてくるとは思わなかったぞ」
「それにはふかーい事情があんのよ」
「まぁどうでもいい。こうして目的の娘を一人手に入れることができたのだからな」
「……どういうこと?」
「タカマガハラの情報収集能力はたいしたことないようだな?」
「……うっさいわね。これでも苦労してんのよ」
「タカマガハラで神童と呼ばれる娘を二人、我がものとすること。それが私の目的だよ」
「は?もしかしてこの前の誘拐犯ってあんたの差し金?」
虚を突かれたかのようにすっとんきょうな声をあげる月依先生。
何言ってんだこのおっさん。
「そうだ。このホウライの未来の為、神童二人を我が嫁にすると言ったのだ」
「……ついに頭のネジがとんじゃったの、国王陛下?」
「何を言う!私はこのホウライの国の発展を願ってだな……」
「つーか幼児に手を出すなんて重犯罪も良いとこだぞ、おっさん」
俺は国王の言を聞くに堪えかねて言葉をはさむ。
おっさんが幼児をめとるとかマジであり得ねぇよ。
せめてイエスロリータ、ノータッチ!だ。
「ふん。ガキがいきがった所で何も出来ぬであろう」
「何もできないかどうか、見せてやろうじゃねえかっ!我が呼び声に応えよ、そして我が力と成せ、天地神明刀っ!!」
そう言うと俺は右手に天地神明刀を呼び出す。
「!?。なんだと!?」
刀の色は相変わらずの黒色。
しかしいつもと違うのは不思議とてになじむという事。
禍々しさが伝わってこない。
これならなんかいける気がするっ!!
牢の鉄格子を一閃、二閃。
天地神明刀に斬られた鉄格子はスッパリと切り抜かれる。
「なんだ!何者だ貴様はっ!!」
「ん……?ただのしがない幼児だけどな」
「おのれっ!これでも食らえ!」
国王は懐からカードを取り出し何かしらのカムイを発動させる。
カードから発動したカムイは火球となって俺達を襲う。
「!!!っ」
陽依の声にならない声が聞こえた気がした。
しかし。
俺は手にした刀を手に構え一閃する。
すると刀に火球が吸い込まれていく。
無意識でやったけどこんな事が出来るんだな、この刀。
「な……!まずい。ここはいったん引くぞ」
陽依を連れた衛兵と共に立ち去ろうとする国王。
「永久っ!!」
「わかっておる。我が呼び声に応えよ、そして我が力と成せ、天地神明刀」
月依先生が言葉をかけると同時に永久は手にした天地神明刀で陽依を連れた衛兵を峰うちで切り伏せる。
「くそ……」
そう言い残すと国王は懐からカードを構えかき消えてしまった。
「まったく……始。あんた無茶しすぎ」
ため息をつきながら俺の頭を軽く小突く月依先生。
確かに無茶と言えば無茶だったのかもしれない。
しかしあいつがこの前の誘拐犯の首謀者だと聞いて黙っていられなかった。
「それにしても天地神明刀だっけ?その刀、カムイを吸い取る力なんてあるのね」
「いや、そんな力は天地神明刀の本来の機能にはないぞ」
陽依の拘束を解きながら永久はそう答える。
「は?そうなのか?」
「ああ。おそらくお前の刀の固有能力だろうな」
「へー……そうなのか」
ぼんやりと手に持った天地神明刀を眺める。
手にした刀は黒刀は黒刀でも漆黒に近い色合いになったように思う。
これは刀を使いこなせたって事なんだろうか。
「ぷはっ。ちょっと始、あんたそんな力隠してたの!?」
「いや、これには色々事情があってだな……」
こいつや刹奏を守るために力を貰ったなんて死んでも知られたくない。




