第二十二話 英才教育
ある日の事。
刹奏が一人で何やら絵を描いていた。
モデルはその辺で飯事をしている陽依達のようだ。
俺は気付かれないように背後から忍び寄りひょいっと覗き込む。
「……」
おい。
この絵は何だ。
陽依達がモデルなのはまだいい。
そこまでは構わない。
しかしだ。
何で幼女が半裸でくんずほぐれつな姿なわけ?
幼児が描く絵じゃないだろう、これ。
「刹奏……おまえ、こんな絵ばっかり描いてんの?」
「うん。奏さんがその方が売り上げ良いからって」
ノノムー先生ーーーーーーーーーー!!!!!
幼児に何てこと教えてんだよ!!
もうこの歳からオタク街道まっしぐらじゃん!!
せめてこう……もうちょっと自分でものの分別がつくようになってから教えてあげようよ。
「てーか、ノノムー先生……じゃなかった奏さん、サークルだしてるのか?」
「サークル?何それ?」
どうやらその辺の知識はまだないようだな。
「んーでもこの前、日本に言った時にコスプレっていうのをママと一緒にやって薄い本は売ったよ?」
前言撤回。
もう手遅れだわコイツ。
オタクの英才教育バッチリされてますわ。
「刹奏ー。良い絵描けたー?」
「うん、ばっちりだよ陽依お姉ちゃん」
刹奏はそう言うとⅤサインを陽依に向ける。
陽依が駆け寄ってきて刹奏の描いた絵を見つめる。
「相変わらず上手いわねー、刹奏」
「えへへへー……」
陽依に褒められて刹奏は笑みを隠せないでいる。
まぁ確かに幼児が描いたとは思えないレベルの画力だ。
さすがノノムー先生の娘といったところか。
しかし……このくんずほぐれつのモデルはお前達なんだが、それでもいいのか陽依……。
「別に私は気にしてないわよ。私の家、こういう本であふれてるし」
「……さいですか」
どうやらコイツも負けず劣らずオタクらしい。
そうかー……ノノムー先生、またサークル出してるのかぁ……。
それはちょっと見てみたいな。
いや是非とも見たい。
今度、刹那さんにお願いしてみよう、そうしよう。
「ふーん……始君はこういう絵が好きなんだね」
「……顔に出てたか?薙」
「うん。おもいっきり」
そうか……それは注意しないとな。
「じゃあ、たまには僕も描いてみようかな」
そういうと薙はスケッチブックを取り出しペンを走らせる。
みるみるうちにサラサラと描きあがっていく一枚の絵。
まるで魔法の様に一瞬で描き上げてしまった。
「できた」
そこには刹奏の絵に負けず劣らず美麗な絵がスケッチブックを彩っていた。
「へぇ……お前も絵上手いんだな……」
「まぁ……お母さんに仕込まれたからね」
「そうなのか……ユズキさんか。ユズキさん絵も描けるんだな」
「うん。同人作家だからね」
「は?そうなの?」
「そうだよ。『アール』のユズキって言えば超有名なんじゃないの?」
「なん……だと……」
薙の母ちゃんのユズキさんが『アール』のユズキだと?
『アール』のユズキって美男子だと思ってたんだが―……。
まさか女の人だったとは。
でも言われてみれば合点がいく所も多い。
あの中性的な雰囲気はそういうことだったのか……。
そうかー……あの『アール』のユズキが薙の母ちゃんか……。
「なぁ……薙。今度ユズキさんの新刊と既刊もってきてくんね?」
「うん?良いけど」
やった。
持つべきものは友だな。
しかし『アール』のユズキの息子に、ノノムー先生の娘がいるなんてこのクラス、オタクにとっては天国のような場所じゃないですかね。
つくづく転生できてよかったと思う。
―――
翌日。
「始君。お母さんから新刊と既刊貰って来たよ」
「まじか。ありがてえ、ありがてえ」
俺は拝みながらあの日手に入れ損ねたユズキ先生の新刊を手にする。
ああ……やっぱりユズキ先生の描く女の子はマジ天使。
「それにしても始君もこういう本も好きなんだね」
言いながら俺にマッチョな男が描かれたBL本らしきものも手渡してくる。
「そっちはいらねー……」
そう。ユズキ先生はBL本も描くのだ。
しかもめちゃくちゃ濃厚な奴を。
「えー……BLも読むと意外とおもしろいよ?」
「俺はそういう趣味は無いの。アンダスタンド?」
「ちぇ。せっかくこういう話で語り合える友達が出来たと思ったのになぁ」
そう呟く薙の顔はちょっと寂しそうで。
むー……そんな顔されると断りづらいじゃねーか。
「はぁ……しょうがないからそっちも貰っとく」
「ほんと?ありがとう!」
感謝の言葉を述べる薙の顔はとても嬉しそうに見えた。
まぁ俺はノンケだけどな。
読むだけ読んでみるか。
でも俺は絶対にホモの世界にハマらないぞ?
絶対だからな?




