第二十一話 俺にそんな趣味はない。
「始は薙君と随分仲が良いのね」
午後の自由時間、月依先生にそんなことを言われた。
他の幼児たちは桜花先生の監督の下、園外へと散歩に行っている。
あの不良教師に任せるのは多少不安があるがまぁすぐ隣の公園だから安心だろう。
「いや、別にそんなことないと思うけど」
「だっていつもお弁当を分けてあげてるじゃない。もしかして薙君の事好きなの?」
「な訳あるかっ!あいつの弁当があまりにも侘しい弁当だからだよっ!」
俺にホモの気はないと何度言えば以下略。
「あー……まぁ柚木先輩も旦那さんの那直先輩も忙しいしね」
そう言って頬を掻きながら苦笑いをする。
「他人の家庭の事にどうこういうつもりはないけど、あの弁当はどうかと思うぞ」
毎日毎日ごはんにふりかけだけとか、流石に可哀そうすぎるだろ。
いつかぐれるぞ、薙のやつ。
「んー……それはそうなんだけどね。うちもサクヤちゃんいなかったらまともなお弁当作ってあげられないしなぁ」
「そんな忙しいもんなのか、タカマガハラ課ってのは?」
「忙しいってもんじゃないわよ?タカマガハラと日本を毎日行ったり来たりだし。国のお偉いさんとの交渉もしなくちゃいけないしねぇ」
「ふーん……。でもあの不良教師は授業そっちのけでソシャゲ三昧だったんだが」
俺の言葉を聞いて月依先生は『はぁ』と心底うんざりしたようにため息をつく。
「あの人は私達の中では一番下っ端だからね……。わりとやりたい放題。旦那のアカリさんも似たような性格でいつもお姉ちゃんは頭抱えてたわ」
「ふーん。そんな家庭環境なのに灯花のやつは随分まともに育ってるじゃないか」
「そこが不思議なとこなのよね。悪い見本が傍にいるから、そうなるまいと必死なのかもね」
人の振り見て我が振り直せとはよく言ったもんだな。
悪い例っていうのが自分の親なのはなんとも世知辛いもんだが。
「で、何で今日は俺と二人きりで話をしたかったんだ?月依先生」
「あんた、永久から特殊な力を授かったんだって?」
「誰にそれを聞いた……って……ノノムー先生か」
あの人、めっちゃ口軽いのな。
「その天地神明刀?だっけ。その刀、どういう力なのかあなた分かってるの?」
「永久が天使だった頃の力だろ?」
「そう。私と奏さんは天使だった頃の永久と戦ったことがある。その天地神明刀とも。その刀の力は人の身に余る力よ」
「……そうなのか?」
「私の全力のカムイで作った壁もまるで薄紙を切り裂くようにスパスパ切り裂くような切れ味だった」
「へー……そりゃすごいな」
タカマガハラ3位のカムイの力を切り裂いたのか。
流石天使の力ってところだな。
天地神明刀の力を引き出せれば俺もそんなことできるようになるんだろうか。
思わず俺の顔がほころんでしまう。
「あなた、事態の深刻さがわかってないでしょ?あなたのその力が公になれば学園の上層部はあなたを排除しようとしてくるはずよ」
「え……まじで?」
「まじよ。あなたのその力はそれだけ危険な力だという事よ」
「もしかして刹奏の風斬と雷斬もか?」
「そうね。たぶん知られたら排除される動きになると思う。だから学園の上層部にはこのことは知られてはいけない事なのよ」
「ていうか、なんで学園の上層部に知られたらいけないんだ?」
「学園の上層部は何か重大な秘密を隠してるの。それが何かは分からない。だからそれを那直先輩がずっと調べてる」
「へー……その薙の父ちゃんも大変だな」
「それに加えて陽依と刹奏ちゃんの誘拐未遂事件。そしてあなたの天地神明刀。問題だらけで私達てんてこまいなんだけど?」
「いや、俺はあくまであいつらを守ってやれる力が欲しくて永久にたのんだんだけれども」
「そうね。それは認める。だからあなたは本当に必要な時にしか使わないと約束して」
「……わかった。約束する」
月依先生の眼を正面から見て俺はそう約束をする。
「よろしい。まぁ何だったら私も剣の修行付き合ってあげても良いわよ」
「へぇ、月依先生も剣の心得あるのか?」
「昔、私がコンロンで貰った宝貝に莫邪宝剣ってのがあってさ。これなんだけど」
言いながら筒のような物体を取り出す月依先生。
「ほうほう」
そして俺に向かってその筒を振りぬく。
ズガン。
「こうやって刀身から光を放って、離れた相手を斬り割く一撃必殺の宝剣らしいのよ」
刀身から放たれた光は俺の頬をかすめて黒板を切り裂いていた。
「……おまえは俺を殺す気か?」
「どうかしらね?」
言いながら微笑む月依先生の眼は笑っていない。
どうやらまだ陽依のファーストキスを奪ったことを根に持っているらしい。
ほんと、この親子、執念深いな……。
どうすれば許して下さるんですかね、本当に。
俺に幼女趣味はないんだが―……。
幼女が許されるのは二次元まで!!




