第二十話 剣術修行
「永久。剣術の修行つけてくれないか」
夕食後、俺は永久にそう提案をする。
黒刀を呼び出せるようになって暫く、俺はその黒刀で素振りをしているのだが、一向に変化が見られない。
むしろ黒刀の禍々しさが増していっているような。
そんな感覚さえ覚えてくる。
まぁそもそも素振りだけしてたって剣術が上達するわけでもないしなぁ……。
「フ……人間が元天使の私に稽古をつけてもらおうなど千年早いわ」
「……人間は千年も生きられないんですがね」
「そういえばそうであったな」
永久はたまにこういう所が抜けている。
そこが見た目通り可愛らしいところと言えば可愛らしいところなのかもしれないが。
「しょうがないな。これも私の義務なのだろう……。稽古をつけてやるとしよう」
「ありがとな、永久」
「フ……気にするな。これも我がさだめか」
中二病全開の台詞で元天使は含み笑いを絶やさない。
こんな奴が世界の管理の一部を担っていたとか考えると頭痛がしてくる。
やれやれだ……。
そんな訳で、夕食後、部屋に帰ってから永久に剣術の指南をしてもらうことになった。
「そうだな……まずは刀を構えてみろ」
永久に言われ俺は刀を正眼に構える。
「ふむ……まぁ基本だな」
まぁ漫画とかでもよくあるしな。
この辺は何となくわかる。
「さて、それではここからが本番だ。我が呼び声に応えよ、そして我が力と成せ、天地神明刀」
永久の言葉と共に永久の手に虹色に輝く刀が形作られる。
「おい、それはいったいどういうことだ」
天地神明刀はもう俺のものじゃなかったのかよ。
何でお前も召喚できるんだよ!
「お前に力を分け与えると言ったが、全て与えると言った覚えはないぞ?」
「ぐ……それは確かにそうだが……」
「峰うちでやってやる。御託は良いから打ち込んでくるがいい」
そう言って永久は刀を構える。
とりあえず正面から打ち込んでみよう。
カキン。
あっさりとはじき返される。
それならこれでどうだ。
身の丈を利用した下段からの攻撃。
カキン。
永久は刀を逆手に持ちあっさりと俺の攻撃をはじき返す。
くそーーーー。
それならこれでどうだ。
おれは型なんて何もない構えで縦横無尽から永久に切りつける。
が、悉くその刀ははじき返されてしまう。
「なってないな、始よ。これでも私は元天使なんだ。そんな小細工では到底及ばぬよ」
「くそー……」
それからしばらく俺は永久に刀を打ち込んだが軽くいなされるだけで、ついに永久に刀が届くことはなかった。
そして俺が汗だくになって床に転がっていると。
ピンポンピンポンピンポーン!!
玄関からインターホンを連打する音が鳴り響く。
こんな夜中にうっさいなぁ……。
なんだよもう。
「はいはい、どなたですかー」
俺は立ち上がり鍵のかかった扉を開ける。
「あんた達、何やってんのか知らないけど下の階にめっちゃ響いてるのよ!!やかましいわっ!!!」
そこには怒りの炎を身に纏ったノノムー先生が立っていた。
俺達が剣術修行をしている間、階下のノノムー先生の部屋には物凄い音が響き渡っていたらしい。
「フン……それはすまなかったな、奏よ」
「……はぁ……。珍しく保護者らしいことをしたかと思えばご近所迷惑だなんて。自己中なとこは変わらないわね、永久」
「いや、これは俺が言いだした事だから永久は悪くねーよ。ノノムー先生すまなかった」
「まぁ良いけどさ。始の気持ちも分かったから、今度からは外でやってちょうだい」
ノノムー先生はそう告げて自分の部屋へと帰って行った。
「明日からは夕食後に公園でやるか……」
「そうだな」
ノノムー先生に迷惑かけるってことは刹那さんにも迷惑かけてるってことなわけで。
いつも面倒見てもらってるのに迷惑かけるようじゃ人間失格だ。
そんな訳で俺と永久の修行は夕飯後に公園で行われるようになった。
―――
「はぁ……はぁ……はぁ……」
「どうした?もうへばったのか?まだ一時間も経っておらぬぞ」
赤く染まった夕日が高層ビルの影に姿を消し。
公園の街灯が周囲を照らす中、俺は刀を手に倒れ込む。
てか、俺は幼児だぞ。
そこまで体力なんてねーよ!!
「幼児相手に手加減なしかよ……」
「なんだ、始。おまえは手加減して欲しいのか?」
「……そういうわけでもないけどよー……」
打ち込んでは軽くいなされ打ち込んでは軽くいなされじゃ正直上達もくそもないんだが。
「もうちょっと身になる様な修行方法ってないのか?」
「フ……そう言われても私にも分からん。そもそも私の剣は我流だからな」
……役に立たねー元天使だな、おい。
「何はともあれ、簡単にいなされてる様じゃまだまだだな。その分だと刀の力に己を飲み込まれるぞ」
「は?何だよそれ」
「言葉通りの意味だよ、始よ。早く使いこなせるようにならねば、刀がお前を支配する」
おい……なんだよそれ。
天地神明刀って呪いの武器かなんかなのかよ?
「……そんな話聞いてねえぞ」
「聞かれなかったからな」
そんなリスクのある力を俺は授かっちまったのか、俺は。
「因みに刀の力に飲み込まれたらどうなっちまうんだ?」
「さぁ……ただ刀を振るうだけの存在になり果ててしまうのではないか?今までそのような者はいなかったからどうなるのか正直わからんが」
「……」
まじか。
そんなやばい刀なのかこれ。
「因みにそれって期限とかってあんのか」
「それはお前が一番分かってるのではないか?」
永久の言葉に思い当たる節が一つ。
刀から噴き出る禍々しい何かだ。
あれかー……あれがそうだったのかー……。
「心配するな。お前が刀の力に飲み込まれたら、私が責任をもってお前を切り捨ててやろう」
「俺はそんなこと頼んでねぇ!!!」
ていうか助けようとかそういう気、全然ないのな!
ひでえ保護者もいたもんだ。
とにもかくにも早くこの刀を使いこなせるようにならないとな。
でないと本当に永久に切り捨てられかねない。
転生した先で今度は刀で切られるとか。
それだけは絶対に避けなければ……。




