第10話 文化祭1
「先輩のクラスは、なにやるんですか?」
2学期もはじまり、またふたりでだべる生活もはじまった。今、学校は文化祭の準備で、なんとなく落ち着かない感じだ。
「うちのクラスは、喫茶店になったぞ」
先輩はぶっきらぼうに答えた。
「ありきたりですね。先輩、メイド服でも着て盛り上げてくださいよ」
「そんな黒歴史つくりたかねぇよ。そっちはどうなんだ」
「ひとのこといえないんですが、お化け屋敷です」
「そっちこそ王道だな」
「高校最初の文化祭ですからね。やっぱり、みんな王道やりたいらしいんです」
「そっか。最初だもんな」
「そうですよ。先輩も遊びに来てくださいね。あと、喫茶店のクーポンあったらください。身内価格のやつがいいです」
「ハイハイ、そんなもんありませんよ」
「えー、ケチな喫茶店ですね」
「嫌なら来るな」
「絶対、絶対いきますよ。だって、先輩と会えるんじゃないですか」
わたしはいつものように仕掛けた。ひとり時間差攻撃だ。
「なら、おまえが来るのを楽しみに待っていてやるよ」
「(グハア)」
顔が赤くなっているわたしを、先輩は嬉しそうにみている。
「先輩、さいきん返し技うまくなりましたね」
「はあ?なんのことだ」
「もういいですよーだ。ばか」
いつものように、じゃれあいが続いた。夏休み、堪能できなかった幸せな時間が、毎日できるようになった。本当に幸せだ。
「あの、センパイ」
さっきまでのふざけた感じじゃなく、わたしは少し緊張した声で話しかける。
「うん、どうした?」
「あの、よかったらですね」
「うん」
「本当に時間があったらでいいので」心臓が高鳴っている。
「どうしたんだ、早く言えよ」
「文化祭、一緒に見て回りませんか?少しだけでもいいんです。先輩と一緒にまわりたいんです。わたしのわがままに付き合ってください」
「なんだ、そんなことか。いいぞ」
先輩はフラットに答えてくれた。でも、表情は全然、フラットじゃなかった。
「ありがとう、ございます」
「どういたしまして」
先輩がわたしの頭をポンポンしてくれた。
「文化祭、楽しみにしてますね」
わたしは必死の笑顔でそう答えたのだった。