第二章 残響のシステム
コンソールの画面が青白い光を放ち、古びたハードディスクがうめくような駆動音を立てた。
画面に現れたのは、整然としたコードではなく、古い手書きのメモをスキャンした画像データと、無数の数値ログが混ざり合ったものだった。
『分岐の拒絶による因果の収束率について』
『あるいは、“槍”の直線性に関する考察』
画面をスクロールするごとに、狂気と論理の境界で書き殴られた文字が浮かび上がる。
「……選ぶから、歪む。分岐するから、誰かがこぼれ落ちるなら――すべてを一つの線に潰せばいい」
画面の端に埋め込まれていた音声データを再生すると、冷ややかなノイズとともに、父の乾いた声が小さな研究室に響いた。
「仁。お前も、あの病室を覚えているな」
少しの沈黙のあと、惣一の声は淡々と続いた。
「どちらを選んでも、誰かが傷ついた。……だから、選ばせなければいい」
目の前にある端末は、かつての惣一の思考の残滓を吐き出しながら、淡々と次の処理を進めている。
そこには、かつてこの世界から「削ぎ落とされたもの」のリストが、名前と日付の羅列となって静かに点滅していた。
同じころ、学内の古い資料室では、五代暦が静かな恐怖のなかに立っていた。
夕暮れ時の薄暗い部屋。デスクの引き出しの奥で、暦は指先にかさつく一枚の紙を見つけた。
古びた名刺だ。そこには、数年前に存在していたはずの部署名と、ある職員の名前が黒々と印字されている。
だが、暦の記憶にはその名前の顔も、いつ受け取ったのかという前後の文脈もない。誰からもらったのかも分からないのに、なぜかその名刺だけが、自分の持ち物としてそこにある。
誰も覚えていない。周囲の誰もその名前を認知していない。
世界のどこかできれいに切り取られ、辻褄を合わされた世界の端で、暦の手元にある名刺だけが唯一の綻びのように重く冷たかった。
研究室の冷たい空気の中、仁は画面に表示された見慣れないファイルを見つめ、マウスを握りしめた。




