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とある道端で、夏樹は不思議なカードを拾った。
裏側は黒く、白い線で騎士が描かれたカード。表にはよくある♠の13が描かれている。つまり普通ならKだが、なぜかKではなく13とあり、王の絵もない。♠が並んでいるだけだ。
何か専用のトランプなのか。誰かが落としたのか。
(警察に届けよう)
夏樹がそう思ったら、そのカードは、なぜか、左手のひらに吸い込まれるようにして消えた。
代わりに左手のひらに、♠13とある。
あり得ない。魔法か何かか。夢でも見ているのか。
だが、何度見てもその手に♠13とある。
その日の夜、夏樹は夢を見た。
「キャラ設定をしてください。くれぐれも自分に似せませんように」
ぞっとする声でそう聞こえたあと、キャラクターメイキング画面が目の前に。
(自分だとわからないようにしたほうがいいって? 高校生男子だとわからないように、大人っぽい女性キャラにしてみるか。服は中世かモダンなヨーロッパ風とかがあれば……おっ、これでいいや)
朝、目を覚ました時には、夢をほとんど忘れていた。
そして数日後、
「おやすみ」
と横になった瞬間、辺りの景色が変わった。暗い空間に、何人もの人がいる。
「ここ、どこだよ」
と立ち上がってみても、答えがあるわけでもなかった。
夏樹は自分を見て驚いた。完全に忘れかけたあの夢の、キャラクターメイキングの通りの女性の姿に、自分がなっているのだ。
左手のひらに♠13とあるのは変わっていない。
ありえないことの連続。
しかもよく見ると、首から上が山羊の、背に翼もある奇妙な人物がこちらを数えているのがわかった。
「よし、全員いるな。今ここに52人のデビルズカード保持者が存在する。トーナメント形式で勝負していき、最後に残った者にだけ、願いを聞く。その願いは二つだけ必ず叶う」
その時、前のほうにいる男が叫んだ。
「なんでそんなことをしなくちゃならない! 負けたらどうなる!」
対して、山羊男が、
「とにかく勝負をしなければずっとここにいるままだぞ。負けたらどうなるかは、勝手に想像しろ。教えてはやらん」
何かとんでもないことに巻き込まれたと、夏樹は改めて実感した。
山羊男が顔を隠しているだけという風に考えたとある男が掴みかかり、
「顔見せろこら!」
と取ろうとした。しかし、その仮面のようなものは取れず、逆にスーツのようなものが脱げた。そして山羊の脚のようなものが見えた。
「デビルズカードと言っただろう。私が悪魔だということくらい察してほしいものだね」
そして悪魔は浮いた。悪魔は浮いたついでのように両手を広げ、
「さあ、そこらに部屋がある。26もの部屋がある。この案内に従って勝負をしろ」
案内板に、名があった。ナツキ。夏樹はキャラ設定の夢でカタカナにしておいたのだった。
相手は朱王。
「朱王という人」
夏樹がそう呼びかけると、
「おう、お前がナツキか」
答えた者がいた。男。小太りで、腕もその割に細い、丸顔で坊主頭に眼鏡。
事実、これはわざとそういうキャラ設定にしているのだった。
朱王とナツキは、26番と番号を振られた部屋へと入っていった。
そこにも悪魔は存在した。悪魔曰く、
「さあ勝負をしろ。それらのカードが絡んだ勝負ならなんでもいい」
左手のひらの♠13が、ある程度の硬さのある紙へと戻って、左手の上に載った。そのまま左手をぶらさげたままだったら床に落ちていたことだろう。まさに、朱王のカードはそうなった。
朱王は慌てて床から拾い上げた。
そして朱王が、
「じゃ、じゃあ、純粋な数字の勝負だ。俺が5を出してナツキが6を出したら、ナツキの勝ち。使うカードは、手に宿っていたものも含めて、9枚。ほかに8枚ずつ用意できるだろ? 本当に悪魔なら」
「可能だ」
目の前に台が現れた。
悪魔はトランプをシャッフルし、8枚ずつ配った。
台のナツキ側の部分に来た8枚を、ナツキが手に取り、それで9枚になる。朱王側でも同じように手に取った。
ナツキは考えた。
(小さい数か中ぐらいの数から使う? Aの扱いは?)
だからナツキは問いかけた。
「Aは13より強い? 2に負ける?」
「ああ、そうだ、それだけど」
と朱王は考えをまとめると、
「Aに勝てるのは2だけ。これでいこう」
と言い切った。
(先に5勝すれば)
ナツキはそう思いながらカードを一枚、伏せて前のほうへ出した。
朱王もそうした。
くるりとひっくりかえすと、ナツキの♡の3と朱王の♣の4で、朱王がまず1勝。
(1負け。5回負けが決まったらどうなる?)
ナツキの胸のうちに、嫌な予感がざわざわと広がった。
「よおし!」
朱王は喜んだ。
次の選択。ナツキは♣の4を出した。朱王は♢の7を。
ナツキは顔を暗くして、
(また負け。あと3回負けちゃったら……!)
ナツキの手札は、♡の5、♢の8、♢の10、♣の2、♢の12、♡のA、♠の13。♠の13が左手のひらに宿っていたカード。
朱王の手札は、♠のA、♡の9、♣の11、♢の2、♡の8、♡の13、♣の9。♣の9が朱王の右手のひらに宿っていたカード。
「ねえ、いま一度だけ見せ合わないとだめ、ってことにしない?」
ナツキは焦りからそう言った。
「そんなの認めるか」
朱王は鼻息荒くそう言った。
「じゃあ、わかった」
ナツキは諦めた風を装いながら、♣の2を伏せた状態で出した。そして、
「なんでもいいよ。どうせ、この回は、こっちが負ける」
その言葉は朱王に対して引っかけになった。
(なんでもだって? ってことは、低いカードを出しても? いや待てよ。そう思わせて勝とうとしてるな?)
「俺はこれだ」
伏せられた二枚のカードが、ひっくり返される。ナツキの♣の2に対し、朱王は、
「え」
♠のA。彼はこう考えた。
(7から12程度のカードを出して、3から6程度の数に勝とうとしているかと思ったのに)
ナツキはというと、
(やった、1勝! ここから盛り返していければ!)
「ねえ朱王さん、こっちは次♡のAを出すから」
「なんだって?」
「だから、2を出してよ。そしたら朱王さんの勝ちでしょ」
「はあ?」
(なんでわざわざ負けたがってるんだ? それとも嘘か、そうか嘘なんだな)
そう思った朱王は♡の8を伏せて出した。
ナツキは本当に♡のAを伏せて出していた。
それらをそれぞれが裏返し、表の数を露わにさせる。
互いのカードを見るなり、朱王はこう思った。
(くそっ、これで♢の2の使い道がほぼなくなった。完全に負け札だ。Aがそんなにあるはずない)
「実はこっち、もう一枚Aがあるんだ。次もそれを出すから」
「なんだと?」
(頭がおかしいのか)
と、朱王は、♢の2を伏せて出した。
そして、ナツキが伏せて出していたのは、♡の5。
朱王は参っていた。
(本当のことばっかり言うかと思ったら嘘まで言いやがって)
現在、ナツキにとって3勝2敗。
ナツキは、小さい数を先に先に出そうという意識を持っていた。
朱王も半分くらいは同じように考えてはいたが、朱王は考えすぎた。
「ねえ、本当に見せ合わなくていいの?」
ナツキが揺さぶるように言った。
「だ、駄目だ! いや、いやいやいや、やっぱり見る」
互いに見せ合った。
ナツキの手札は、♢の8、♢の10、♢の12、♠の13。
朱王の手札は、♡の9、♣の11、♡の13、♣の9。
互いに厳しい状況。
朱王は♣の9を伏せて出した。
(これで13を使わせれば。8ならなおよし)
ナツキは♢の8を伏せて出した。
それらがひっくり返されると、朱王のカードである♣の9は、彼の右手のひらへと戻った。
ここで初めてナツキは、彼の手に宿ったのがそれだと知った。
現在、ナツキにとって3勝3敗。
(これ以上シーソーゲームしたくないよ)
ここでナツキはあることに気づいた。そして自信満々に♢の10を伏せて出した。
朱王はナツキの顔を疑い、♡の13を伏せて出した。
それらが持ち主の手によってひっくり返される。と、朱王は、
「よし! よし!」
と大きく喜んだ。
ナツキにとって、これで3勝4敗。
ナツキは次に、♢の12を伏せた。
朱王は♡の9を。
それで4勝4敗。
ナツキの残りの手札は、♠の13。
朱王の残りの手札は、♣の11。
「そんな」
そう言ったのは朱王だった。
♢の10を出した時に、ナツキは確信していた。11や13で負ければ道はある、それも、13で負けた場合は次から2連勝できると。
そして、もし朱王がナツキの10に対して9を出していたら、ナツキにとってその段階では4勝3敗にはなるものの、残る数は、ナツキ側は♢の12と♠の13、朱王側は♣の11と♡の13となり、朱王に勝ち目はなくなっていたのだ。
♠13という文字と記号が、ナツキの左手のひらに戻る。
すると悪魔が、
「くっくっく。ではまたその時まで」
と。
その声を聞くなり、ナツキは、薄暗い部屋からどこかへと引っ張られる感覚に陥った。
夢にしては現実味があった。
目を覚まし身を起こすと、夏樹は、リビングへと小走りに向かい、テレビをつけ、チャンネルを回した。捜し見たのはニュース。
十代から三十代くらいの男性と女性が胸元を何かで打ち抜かれたような傷跡を残して死んだという謎のニュースが大量にあった。
(そんな。このニュース。この死に方……!)
随分前になるが、夏樹の姉も、同じ死に方をしていたのだった。
夏樹にとっての嫌な予感が消えないのは当然だった。




