第7話 エピローグ
あの戦いの生き残りはわずか3機だった。それでも東へと向かう輸送蟲をみつけて北米へ渡り、新たな自動人形の仲間を集め、小さな小さな第4の勢力となるべく活動を続けている。
他の勢力と拮抗しようなどとは少しも考えていない。異星からきた邪魔者を出てこないようにさせる。ただそれだけ。
「おいおいおい、あんたらいつまでアメリカのおもちゃでいるつもりなんだ? いい加減母星語でしゃべれよな。ちゃんと初期入力されてあんだろ?」
「おっとすまない、つい癖で」
「言い回しが英語訛りなんだっての。ところでどうするよ、ヒトのニュースじゃ北米どころか南米まで到達したらしいぜ?」
「やっぱりか」
「ふむ……」
「時期的に、北米の永久凍土の下から復活したとは考えにくいな」
「ああ、進軍のスピードから考えてソ連を発った連中だろう」
「ヒトには悪いけど自助努力に任せて放置かな。わたしたちの足じゃ追いつけない。このままアラスカとカナダの永久凍土をしらみ潰しに探そうよ」
「了〜解。その次はどうせソ連に舞い戻ってユーラシアの永久凍土をしらみ潰しにするってんだろ?」
「半分当たり。どうして分かったの?」
「そんなこったろうって思っただけのことさ。んで? もう半分は何なのさ」
「南極だよ。あそこにも蟲が眠っている可能性がある」
「ほえ! 南極かよ! そらまた豪勢なこって」
蟲がユーラシア大陸とアフリカ全土を蹂躙した影響で、壊滅的な大気汚染が発生していた。
現在進行中の北米は激戦で、多くの街が戦場となっている。ヒトと蟲と自動人形の、三つ巴の大戦。
それらの影響によって空気中の粉塵が増加し、光をほとんど失ってしまったオリオン座がポツンと、何もない夜空に浮かぶ。
ヒトの目ではもう捉えることのできない、鋭敏な自動人形のセンサーでやっと観測できるそれ。
今年の夏は冷夏となり、雪が降る可能性もあるとのシミュレーション結果も出た。そのため農作物は不作となるのが確実視され、動物はさらなる打撃を受けるとの見方が強い。
だが、またいつか。
いつかヒトが人になれたら。
希望がないではない。生き残った者が星を見上げるときもきっとくる。だから下を向く必要なんかない。
「ん。まだ大丈夫」
「どした? 一回クソになっちまった右手のことまだ悔やんでんのか?」
「違うから! もう気にしてないから! それにちゃんと元どおりに戻ったから! 汚いのなんてどこにもついてないからあ!」
「あはは、そんだけ声が出りゃあ大丈夫だ」
「んもう、せめて糞って言ってよ」
仕切り直す。
「それにねえ、南極で終わりじゃないから」
「ほぅ、そんな先まで。あんたにゃ勝てんわけだ。んで? 南極が終わったら今度はどこへ連れてってくれんのさ」
「もう言いたくなくなっちゃったなー」
「ハァン? 悪かった、謝るから教えろください」
[この際です、みなさんにも知っておいてもらった方が宜しいのでは? 希望がなければ戦えません]
「あなたがそう言うのなら仕方がないか。南極を片付けたら、その次はイースター島に向かおうと思うんだ」
「イースター島?」
「あそこならきっとヒトが生き残ってる。絶海の南の島で長い長い、たぶん終わらない夏休みになるよ」
笑顔は製造されたときのよう、なにひとつ変わりない。だが数多の戦場を駆け抜け、数多の蟲を屠り、数多の戦友の旅立ちを見送ってここにいる。
自動人形もいずれすべてがこの世を去る。その滅びに寄り添えたなら。その眠りを見届けていけたなら。
「行こう、せめてヒトに希望を残すために。わたしたちはおもちゃだよ。おもちゃはヒトに夢を与えるものだよ!」
【完】




