第31話 答え
正直、瑠香のすべてを聞いて、俺は彼女こそが葵なのではないか、と。
一度は否定した考えをよみがえらせかけた。
でも、それは違った。
明らかに違ったのだ。
「……瑠香。俺は、お前がどんな問題を抱えていても、それを一番近くで支える。簡単に好きになってもらえなくても、俺は絶対に諦めない」
力強いセリフだった。
ラバポケの主人公らしい、確かな意思が目に宿ってる。
遊星の瞳は、俺が奴に浮かべていて欲しい光に満ち溢れていた。
「……だから、言ったよね? 私、あなたの知ってる『瑠香』じゃないの。名前もちゃんとわからない、ただの異世界転生者なんだよ?」
「関係ないよ。そういうのも込みで瑠香だ。瑠香なんだ」
強引なだけだ、と。
食い気味になって返す瑠香。
そんなことで落ちる女の子はいない。
ましてや、自分が何者なのかもわからない面倒な女となれば尚更だ、と。彼女は言った。
「ふふふ、修羅場だねぇ。君ならどうする?」
よくわからないが、なぜか九条部長が俺に話を振ってきた。
ここでの俺の役割なんて何一つない。
だというのに、陽花も俺の方に横から体を預けてきて、どうにかしてあげて欲しいような目を向けてきた。
さっきまであんなに瑠香のことを敵対視していたのに、優しい子だと思う。
いや、もしかすると違うか。
陽花が助けたいと思っているのは、遊星なのかもしれない。
「……やれやれだな」
ため息交じりに呟いてしまう。
九条部長のことはどうでもいいが、可愛い妹にそんな目で見られてしまえば、俺も俺で何もしない訳にはいかない。
瑠香を責めるわけでもなく、遊星の背を押せるように、俺は声を上げた。
「瑠香、と今は呼んでおくとして。お前、誰かから本気の想いをぶつけられたことはないか?」
別に説教をしようというわけじゃない。
こっちを見てくる瑠香に、俺は続けた。
「あ、俺の方があるのか、っていうツッコミに関してはこの際無しだ。ちゃんとあるし、陽花がいる。答えてくれ。遊星以外で」
「……そんなの、ちょっと前まであなた自身からアプローチ受けてたんだけど?」
あ、そうだった。
正木俊介の意思が宿る前の伊刈虎彦は、瑠香にアプローチ掛けてたんだった。
ちょっとした恥ずかしい勘違い。
けど、まあいい。
重要なのはそこじゃなかった。
「そうだったな。少し前まで、俺はどうしようもない悪役だった」
言うと、「今もだろ」といった呟きがいくつか聴こえてくる。
うるさいうるさい。
今は違うだろ、今は。
「まあ、そこは良くてだな。要するに、本気の想いを知ってたら、今の遊星の言葉もちゃんと信じられるだろ、ってことが言いたいんだよ」
「っ……」
瑠香が唇を噛んだ。
それは、暗くなり始めた今の状況からでもわかる。
「どうしようもない外野の意見だし、自分のことさえわからない今のお前に、遊星のことを信じてやってくれって言うのもちょっと無茶なのはわかる。不安で、記憶が無くなって目的も無いのが苦しくて仕方なかったんだろ? だから、手当たり次第に暴れて、似たような境遇の俺に色々言ってくるしかなかった」
「それは正解だろうね。どうして君には転生前の記憶があるんだろう。面白い話だ」
九条部長が笑いながらそう言ってくる。
俺は彼女のことを無視して、瑠香の方を見つめながら笑ってみせた。
「勇気、出してみないか?」
「……え?」
瑠香は虚を突かれたような疑問符を浮かべる。
それは、遊星も同じだった。
「遊星、ヘタレだけど、お前を想う気持ちだけは確かなんだ。この際、こいつの想いに乗っかってみるってのも悪くないと思うぜ?」
誰がヘタレだ、と。
俺に対してツッコミを入れてくる遊星。
ヘタレはヘタレだろう。
こうして、俺や陽花が背を押さないと動けなかったんだから。
「……けど、悔しいけど、こいつの言う通りだ。俺はヘタレで……でも、こんなにも瑠香のことを好きだ! この想いは本物だし……俺は……!」
俺は……!
と。
強く、強く、力を込めて、心の底から想いを言葉にしようとする遊星。
声も大きくなっていった。
「若野瑠香のことが、どんな風になっても好きだ! 大切にする! 幸せにする! 悲しいこと、寂しいこと、苦しいこと、その全部から君を守るよ! だから……! だからっ……!」
その言葉は、姿勢は、きっと瑠香に刺さりつつあったんだろう。
遊星を見る瑠香の目は、確かに変わっていた。
「俺と……正式に付き合って欲しい。恋人に……なって欲しい!」
その告白は場を掌握し、他の声を挟ませる余裕を無くすほど真剣で。
「……私……は……」
瑠香に涙させるほどの動揺を生み出していた。
俺の心臓も、その一世一代の瞬間を見るかもしれない緊張に揺れ動かされていた。
鼓動が早くなる。
手に汗握って、瞬きすら忘れてしまっていた。
「……遊星……」
俺がそう、彼の名を呟いた瞬間。
瑠香がお辞儀するように、頭を下げた。




