表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星のオトシモノ【愛の火種が降る夜僕らは空を見上げる】  作者: 高冨さご


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

22/33

21 『白の番人と、星の精霊』

 目的を果たして上機嫌のナオ。鼻歌を歌いながら図書館の一階へと戻って来た。すると先ほどエレベーターにぶつかって来た一冊の本が、地面へ落ちたままになっているのに気が付く。

「これ、さっきぶつかってきた本だ」

 ナオは駆け寄って、そっとその本に手を伸ばす。すると本は自分で起き上がり、ナオの周りを元気そうに羽ばたいた。表紙には白の番人と黒の精霊が可愛らしいタッチで描かれている。

「絵本の続きのようですね」

「そっか。急いで来てくれてたんだ。ごめんね、気が付かなくて」

 ナオがそう言うと、本は再び彼女の目の前で止まり自ら表紙を開いてみせた。

「ここからは『黒の精霊』が『星の精霊』になるお話」

 

『黒の精霊が戻って来てから、数百年後のお話です。


 人は進化を重ね、強い魔法の力を持つようになりました。有力者たちは魔力の弱い人を見つけては、自分の支配下に落とし込みました。人が人を従わせるようになってしまったのです。そしてついにそれは権力争いにまで発展し、相手を打ち崩しては力を奪うようになりました。こうして人々は、争いの日々に明け暮れていったのでした。

 白の番人と黒の精霊は考えました。なぜ争いが生まれ、争いは終わらないのか。なぜ一つであった心が、二つに割れてしまうのか。すると、ある男性が声を大にして言いました。


「神が二つに割れているから、いけないのだ。だから心が二つに割れるのだ。この国に、神は一つで十分だ!」


 それを聞いた国民達は、声を荒げて賛同しました。もう怒りの限界値は、疾うに超えていたのです。争いに疲れた人々は、神が一つになることによって、この世界が救われると信じていました。


「どちらがこの国に相応しい存在か。三日後の朝、証明してほしい」


 人々の希望により、白の番人と黒の精霊は、それぞれの存在証明を探すことになりました。

 白の番人は生きている人々に問いかけました。


「私は必要な存在か」


 すると人々は口々に答えました。


「もちろんです」

「貴方がいなければ我々は生まれてすらいなかった」

「貴方こそ必要な神様です」


 黒の精霊は星に問いかけました。


「私は必要な存在か」


 すると星々は口々に答えました。


「もちろんです」

「貴方がいなかれば我々は星になれず、この暗闇を彷徨っていた」

「貴方こそ必要な神様です」


 こうして二人は、存在理由を見つけました。


 三日目の朝が来ました。白の番人は多くの国民達を連れて現れました。黒の精霊は多くの星々を連れて現れました。まもなく約束の時間がやってきます。朝日がそこに差し込みました。

 すると、なんということか。次々と星たちは姿を消していくのです。星は朝日に隠され、一つ残らず見えなくなってしまったのでした。

 星がそこにいたとしても、それに気が付くのは黒の精霊だけです。他に見える者は誰もいません。


「白の番人こそ、この国に必要な神様だ!」


 人々は口々にそう言います。白の番人は黒の精霊に異議を唱えるよう勧めましたが、彼はそれをしませんでした。人々が手を取り合い喜び合っている様を見て、赤い歯を輝かせキラキラ笑っているのです。


 「これでいいのさ。これで平和になるのなら」

 

 彼は白の番人によって、星の砂へと姿を変えました。その砂は、大きな砂時計の中へと納められました。砂時計は三日二夜の時を刻みます。彼は自分が存在すべきかどうかを考え直すため、永遠と同じ時間を繰り返すこととなったのです。


 しかしどうしたことか、争いが終わることはありませんでした。白の番人側に着いた者は、より強欲に、より傲慢になってしまったのです。星々はその姿を見て涙をぽろぽろ流しました。


「どうして泣いているんだい」


 月の砂時計が問いました。すると星たちは答えます。


「アナタはこの国のためを思って星の砂になったのに、争いが終わることはなかった」

「もうアナタはここに居ない」

「ここは、悲しみに満ちた国となる」


 すると月の砂時計は答えました。


「ならば何も心配はいらないよ。なぜなら私が、この夜空を照らす光となるのだから」


 パリン! 砂時計が割れると、その中から真っ赤な星の砂が舞い上がりました。彼は夜空を誰よりも明るく照らす、星となったのです。

 そしてその星は煌々と瞬きながら、次々と彼らの元へ降り注ぎました。欲に溺れた権力者の元にも、寒さに震える子どもの元にも、痩せた赤子を抱く母親の元にも、戦地でうなだれる兵士の元にも。平等に赤い星は降り注ぎました。


「どうして泣いているんだい」


 星の精霊は問いかけます。


「何も心配はいらないよ。なぜなら君たちこそ、夜空を照らす星なのだから」

 

 星はゆっくりと人々の心の中へと入っていきます。思い出すのは生まれる前、自分の小さなからだを二人の神様が抱きしめてくれた光景。星の精霊は最後の力を振り絞り、彼らに声をかけました。


「どうか、泣かないでください。もうこれ以上、苦しまないでください。あなた方は優秀だ。どうかその力を、誰かを守るために使ってみてはくれませんか。兵器を作る知恵と技術があるのなら、それを持って誰かを愛することも出来るはず。銃口の代わりに花束を、涙の代わりに優しい雨を、剣の代わりに手のひらを、火種の代わりに星空を」


 地位を失う恐怖。明日を失う恐怖。誰かを失う恐怖。自分を失う恐怖。星の精霊は誰しもが抱える暗く曇った心を照らし、彼らに思いやりの心、すなわち、「愛」を思い出させたのです。

 こうしてこの国から兵器は消えました。もう二度と人々が争い合うこともありません。

 戦争は、終わったのです。

 

 そしてこの星はいつまでも平和で、幸せ溢れる楽園になりましたとさ。


 おしまい』


 本は裏表紙を閉じると、そのまま本棚へと飛び立っていった。ナオはそれを、優しく手を振り見送る。絵本の中に登場した赤い星。ナオは昨日見た満天の星空を思い出していた。

「星が落っこちる理由が分かったよ。あれは、神様が誰かの元に降り注いでいたんだね」

 ナオは嬉しそうにミヅキを振り返る。しかし彼の顔は笑っていなかった。ナオから視線を逸らすと、虚ろな瞳ではるか遠くを見ているようだ。


「星の精霊は、もういないんです」


 返ってきた言葉は、彼女が期待していたものではなかった。またへらへら頼りない顔を浮かべてくれると期待して待ってみたものの、彼が冗談だと笑ってくれる様子はない。仕方なく問い詰めることにした。

「どうして? だって黒の精霊は星になったんでしょう? 今は星の精霊として皆を見守っている、って言う話じゃないの?」

「この話は、一度目の戦争の後に作られた話だと言われています」

「一度目って……。じゃあ今回の戦争は……」

「第二次魔法大戦。これは、二度目の戦争なんです」

 ミヅキの言葉に、ナオは口を噤んだ。

「第一次魔法大戦の時すでに、星の精霊は人々の心に降り注いでいなくなったとされています。なぜなら、二度と戦争など起こることがないからと――。しかし、二度目の戦争は起こりました。今回は手を取り合うという形ではなく、完全に敗北という形で終戦を受け入れたようです」

「…………」

 ナオはこの世界に来てから見て来た、戦争によって姿を変えた悲惨な町の情景を思い出した。目に見えて判る貧富の差。優遇されている国民と、そうでない人。生きる活力を持つ人と、死にゆく人。切り刻まれた建物と、無傷な権力者。この国はこの先、一体どうなってしまうのだろうか。

 彼女は再び図書館の中央にある太陽と月の紋章の上に立ち、天井を見上げた。だがそこにはもう、二人の神様の姿は見えなかった。

 

「でもさ。きっとまだ、星の精霊はいると思う」


 ナオははっきりとした口調でそう告げる。顔を伏せていたミヅキも、思わず視線をあげた。

「だって、彼は星になったんだもの。この国の星はすっごく綺麗だよ。人々の心に降り注いで、その心を持った人が空へ帰った時に、一緒に空へ戻ったんだよ。そしてもう一度、皆の心に降り注いだ。二度目の戦争を終わらせるために。きっと次はないよ。絶対ない。だって、三度目の夜は来ないんだもの。……そうでしょ?」

 ナオの自信あふれる言葉にミヅキは少し目を見開いて、そして小さく微笑んだ。

「……そうですね」

 そしてナオと同じように天井を仰ぐ。そこには見えない、けれど確かにいる。白の番人と、星の精霊の姿を思い浮かべて。

「――きっと、そうですね」

ブックマーク、評価、感想等お待ちしております!

誤字等もありましたらご報告お願いいたします。

どうぞ御贔屓に……!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ