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星のオトシモノ【愛の火種が降る夜僕らは空を見上げる】  作者: 高冨さご


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22 『夜になってしまう前に』

 それから二人は図書館を出た。外はすっかり暗くなっている。空には満天の星が瞬いていた。


「やっぱり、何回見ても綺麗だよね!」


 ナオは空を見上げながら両手を大きく広げ、バレリーナのようにくるくる回ってみせる。ここに来た時とは打って変わって、その足取りは随分と軽い。


「なんか、何でもできる気になってきちゃった! このままあっという間に、存在証明しちゃうんだから!」


 すっかり気分を持ち直したナオは今一度気合を入れ直し、ミヅキの方を振り返る。未だ図書館の出口付近で立ち止まったままのミヅキに首を傾げながら、彼へと駆け寄ってみた。顔を覗き込んでみるが、何か考え事をしているようで視線が合っているようで合わない。


「ねえ、魔法使い?」

「……あ、すみませえん。ちょっと疲れちゃたもんで」


 ナオに話しかけられて我に返った様子のミヅキは、またしても取ってつけたような言い訳とへにゃへにゃ笑顔で答えた。


 ――故郷でのことを、考えていたのだろうか。


 そう考えるとあまり深掘りするのも良くないと思い、あえて明るいトーンで話題を転換させた。


「あの映像を証明として提出するって言ってたけどさ、どこの誰に提出するの?」

「『白の番人』です」


 彼は間髪を入れず答えを告げた。ナオははるか遠くに見える白い塔を目視で確認したあと、もう一度ミヅキを見上げてみた。しかしミヅキも同様に同じ塔を見つめているため、間違いはなさそうだ。


「って! あの塔のてっぺんにいる神様ってこと⁉︎ あそこまで会いに行けっていうの⁉︎」

「そうです。彼女はこの世界の人間の命を司る神なので、肉体を取り戻すためには、その神と直接交渉する必要があるんです」

「神様に直談判って……割と原始的なやり方ね。最近どこも電子申請よ?」


 ナオは苦言を垂れているが、どう足掻いてもあの塔を登ることになりそうだ。ミヅキは落ち着いた口調で『白の番人』たる所以を話し出した。


「彼女は命を生み、命を奪います。ゼロから生まれた命は何物にも染まっていない真っ白な状態で生まれる、そして再び生まれ変わった者はすべてを白紙に戻した状態で再スタートとなる。そう、何事も白からのスタートなんです。ここに来た時、白い箱のような所に入れられていたでしょう? 始まりは『白』。そう、だからあの箱の中から我々も一歩を踏み出したんです。故に『白の番人』」

「なるほど」


 理屈は分かったが、問題はその先だ。ナオは少し眉をひそめながらミヅキへと問いかける。


「ねえねえ、その人怖い?」

「僕も直接会ったことはないので分かりませんが。規則には忠実でそこに感情移入したりと言ったことはなく、すべてに対し平等に裁きを与えます。そう考えると、やむを得ず規則を破った場合にも配慮は与えられないので、冷酷であるともいえるかもしれません」

「アタシも人助けしたのに、肉体なくなっちゃったもんね」

「しかし規則を守る人には優しいですよ。正しい方法であればきっと受け入れてもらえるはずです」

「そっか。アタシは正しい方法で掛け合ってもらうんだから、そこは安心していいってことね」


 そんな話をしつつ、ナオの足は既に塔の方へと歩み始めていた。もうすぐ完全に日が沈む。一秒でも早く行動を開始しなければ。


 ミヅキは無言でその後姿を見つめていたが、少し距離が空いたところで彼女は立ち止まる。


「何してんの」


 相変わらず立ち止まったままのミヅキを振り返り、怪訝そうな表情をしてみせた。


「何とは?」

「早くいかないと、夜が明けちゃうよ」

「そうですね」

「そうですね、じゃなくて! 早く行こうよ!」


 そこまで言って、やっとナオの言い分と自分の考えに解離があったことに気が付いたミヅキ。すっかりいつものテンションに戻り、大げさに両手をあげてリアクションを取ってみせる。


「――僕もですか!?」

「なにびっくりしてんのよ! 当たり前でしょ! ここまで来て一人ぼっちで行けとか言わないよね?」

「ですが僕は肉体もあるし、塔の中には立ち入れないのではないかと……」

「塔に入れなくっても、あそこまで案内してくれるだけでいいの!」

「塔は見えてるので、真っ直ぐ向かえば着きますよ」

「薄情者!」


 そう言いつつも、ナオは変わらず歩き出そうとしない。ミヅキは小さく息を吐くと、一歩を踏み出した。


「仕方ありませんね。案内だけですよお?」

「やったー! ありがとう、魔法使い!」


 ナオは半ばスキップで駆け出した。ずんずん前に行ってしまうナオを、足をばたつかせながら慌てて追いかけていくミヅキ。


 しばらく橙色の中を突き進んでいたナオであったが、街の中に入った途端足を止めてしまった。


「どうかしましたか? またボロボロの街を見て、急に気が滅入っちゃいました?」

「まあ、それもあるんだけどさ……」


 ナオはお腹がすくと分かっていながら、魔法の練習に励む子どもたちの姿を見つめていた。


「アタシ、今魔法使いじゃん?」

「はい」

「人間に戻ったら、この力ってどうなるの? ちゃんとあなたに戻る?」

「こればかりは白の番人の判断なのでなんとも」

「え? 戻らないかもしれないの!?」


 淡々と答えたミヅキに、ナオは噛みつくようにして言い返した。ミヅキは今にも飛び掛かって来そうなナオに、両手を構えるように突き出す。


「か、確証はないんですが! 白の番人が僕に力が必要だと判断すれば、元に戻してくれるのではないかと……!」


 まだあの衝撃波が発せられるかと思うとひやひやしたミヅキであったが、案外ナオは素直に引き下がっていった。


「なーんだ。じゃあ心配いらないじゃん」


 ミヅキの心配をよそに、ナオは再び歩みを始める。ミヅキはトボトボその後ろをついて行った。


「うまくいきますかね……」

「大丈夫よ。あるべき形に戻すだけだもん、規則にも反してる訳じゃないでしょ? きっと許してくれるよ。だから最後までついてきてよね」

「え? 僕も塔の中に入るんですか……?」

「当たり前でしょ。直談判するには当事者がいた方が、気持ちが伝わりやすいの!」

「ですが僕は肉体があるので中には――」

「あれこれ考えても、何も始まらないし! やるだけやってみよ! ほら、行くよー!」

「あ、待ってくださいよお!」


 ナオは勢いよく走りだす。ミヅキは慌てて追いかけたものだから、見事に自分の足に引っかかり一度大きくその場に転がった。先を行っていたナオは、それに気が付くとすぐさま引き返して来る。


「何してんのよ、どんくさいなあ」


 そう言いつつも手を差し伸べるナオ。ミヅキもその手を握るように自然と手を差し出したのだが、それは掴めることなく空を切る。


「あ、そうだった。アタシまだ肉体ないんだった」


 えへへ、とお茶らけて見せるナオに、ミズキは優しく微笑んだ。そして自らの力で立ち上がる。


「――さあ、行きましょう。夜になってしまう前に」



 それから二人は塔に向かって歩き続けていた。途中ヴォラールがいないか探してみたものの、丁度良く商人が現れてくれることはなかった。ナオはだんだんと近づいてくる塔を見上げる。


「ねえ、あれ随分と高いけど、何階くらいあるの?」

「外観では遥か天上へ続いているように見えますが、人によって階数が代わるんですよ。生涯を通じ罪が多いものは高く、少なければ低く」

「不思議な塔。どうやって昇るの? またエレベーター?」

「あの塔の周りに螺旋状の階段があるでしょう? あれを登ります」


 ナオは目を凝らす。確かに塔の周りには、永遠と思われるほどの階段がへばりついていた。


「え。あの階段?」

「はい」

「歩き?」

「そうです」

「エスカレーターとかでもなく?」

「徒歩です」

「なあんだ、徒歩か。――ってなるかあ!」


 それを聞くとナオはお得意の大声をあげていた。ミヅキは少し風圧を感じたものの、間一髪両耳を塞いでいたので大事には至らなかった。


「あれを徒歩!? いつになったらたどり着くのよ! 時間は明日の朝までしかないんだよ!?」

「でもまあ、罪の重さで高さは変わりますから、見た目通りの長さを上る訳ではありませんので……」

「ま、まあそうよね? 大した罪じゃないって! アタシてば、いい人だし。ハハハ……」


 ナオは乾いた笑いをしていたが、勢いよくミヅキの方を向き直るともう一度気になった言葉を繰り返した。


「『生涯の罪』って言った?」

「はい」

「今回の罪じゃなくて?」

()()犯した罪です」

「それってどれくらいの罪が数えられるの? 万引き、カツアゲとか? いや、もちろんやったことないけどさ!」


 それにミヅキは冷静に答えた。


「そんなことをしていたらもちろんの事罪として課されますが、今まで生きてきた中で犯した小さな罪であっても一つとして含まれちゃうんです。例えばですね……アリを踏んで殺した、とか」

「え!?」

「友達に嘘をついたとか、好き嫌いをして食べ物を残したとか。些細なことで誰かや何かを不幸にしてしまった、ということがあればそれは罪として数えられちゃいますねえ」


 それを聞いてナオは頭を抱え込み、思わずその場に座り込んだ。


「うわあ! 最悪ー! こんなことならおとといのサラダ残さず食べるんだったー! 小学校の時アリの巣ほじくり返して遊んでごめんねー! あ、こないだ友達に借りてた十円返すの忘れてた! コロッケ屋の試食全部一人で食べたのも思い出した! もうシャワーだけで一時間長風呂するのも辞めるから! あああ! 思い起こせば起こすほど、みるみる罪が増えていくー!」


 すっかり一人ミュージカル状態のナオ。その場で悲しみに打ちひしがれていたと思いきや、急に立ち上がり笑顔を浮かべる。あまりにも情緒不安定すぎると思われるその切り替えの早さは、ある意味群鶏の一鶴である。


「んなこと言ってても仕方ないか! 上ってやろうじゃん!」


 やや気持ちが前に出ているのか速足になるナオ。それにミヅキもつられるようにして歩き出した。

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