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面倒事はいつでもやって来る   作者: TO~KU
第二章 召喚した国―――リオン国―――
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番外編 side 高橋正也(たかはしまさや)   06


小畠さん達が扉を出てすぐ、言い争うような声や怒鳴り声が扉の向こうから聞こえてきた。

涙で情けない顔になっているだろうが、小畠さん達が作ってくれたチャンスを無駄にする訳にはいかない。


急いで翔馬達が居る部屋へ戻り、【防御インナーセット】と金貨十枚を二人に渡す。

俺の顔を見て物言いたげな顔をしたが、小畠さんが俺達のために選別をくれた事と逃げやすい環境を作ってくれた事を、声を震わせながら言うと二人とも俯いて黙った。

そうだろう。あの人達は俺達が考えるよりも先を見通し、俺達を決して蔑ろになんかしていなかった。

それなのに、大人のくせにとか見捨てるのかとか散々言ってしまったんだ。


胸がモヤモヤするが、俺達も逃げなければ。

二人を促して、ロープ作成を急ぐ。


「勇者様! いらっしゃいますか?!」


扉から大きな声がする。

ドキッとしてロープが手から落ちるが、このロープを見られる訳にはいかない。


「俺が行ってくるから、お前らベッドとソファーでロープ隠して寝たふりしろ」


二人に隠蔽工作をさせて、個室から出て行く。


「どうされました? 二人はもう寝てるんで、声を小さくしてもらえますか?」


知らないふりを装って、小さな声で返事をする。

とにかく、この人にこの部屋から出て行ってもらうしかない。


「あ、いらっしゃったのですね。失礼いたしました。お二人ほど、お部屋を出られたのですが、何かご存知ですか?」

「え? 小畠さん達部屋を出たんですか? どこに行ったんですか?」

「……ご存じないようですね。申し訳ありません、少々騒がしい声がするかもしれませんが、お部屋から出られないようにお願いいたします」

「ああ、分かりました」

「では、失礼いたしました」


確か、この部屋に案内してくれた男の人だったと思う。

終始微笑を崩さず、さらっと確認すると部屋から出て行った。

きっと今がチャンスだ。

俺達は部屋に居ると思っている。

今のうちに部屋から抜け出して逃げれば、居ない事がバレるまで俺達を探す人はいない。


踵を返して、個室に戻る。

翔馬達と逃げる工程を確認しながら、ロープを仕上げていく。

三人とも段々と手が震えだすが、後戻りはできない。

蝋燭台がしっかりとついているか、結び目が緩んでいないか確認すると、真っ青な顔を三人で見合わせて、行くかと頷く。


結構な高さがある窓からロープを垂らし、ベッドの足に括り付ける。

こえぇ。この高さから降りられるのか、城壁を越えられるのか、逃げた後どんな事になるのか、不安で冷や汗が流れてくる。

手の震えはひどくなり、顔色もきっと悪いだろう。

それでも、せっかく作ってもらったチャンスを逃したくない。

これを逃せば、俺達は榊さんが言っていたようにこの国の人に丸め込まれて勇者をやらされるだろう。


「俺から行く」


決死の覚悟でロープを握り、体重をかけていく。

結び目が緩むことなく、しっかりしている事を確認したら、外壁を蹴りながら徐々に下へと降りていく。

緊張と不安で手汗がひどくて滑りそうになる。

見つかりませんようにと、祈りながら少しずつ降りていくと地面に足がついた。

やった! 降りられた!


上を見上げ、ロープを激しく揺すって合図を送る。

次は、森本だ。

勇気が出ないのか、中々降りてこない。

イライラしながら周りを警戒していると、ゆさゆさとロープが揺れるのが見え、降りてきているのだと分かる。

森本が降りると、翔馬がスルスルと降りてくる。


今のところ見回りの人影もない。

一気に三人でダッシュして、庭園を横切る。

城壁に着いて、簡易ザイルを投げるが中々上手くかけられない。

焦って何度もやり直す。


十数回目でやっと引っかかり、今度は翔馬・森本・俺の順で登っていく。

城壁に立つなんて目立つだろうから、飛び降りれそうなら飛び降りようと話していたが無理だった。

城壁の上で身を引くし、簡易ザイルを付け替えてまた降りていく。

そこは、外灯など一つも無く屋敷が立ち並ぶ一角だった。


「やった! 脱出成功!」

「やったな!」


森本と翔馬ははしゃぐが、もっと遠くへ行っておかなければ。

見つかったらマズイ。


「ここから立ち去るぞ。開いてるなら冒険者ギルドで身分証作って、宿屋に行こう。そこで、またどうするか話そうぜ」


俺達は三人で灯りが灯っている方向を目指して歩き出した。

……小畠さん、俺達城から出られました。

……小畠さん達も城から出られましたか?

翔馬達と歩きながら、ふと振り向いて城を見つめた。


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